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アイドル王子(自作自演)と、深窓の姫君(余計なコブ付き)の、【偽装結婚】?!  作者: 工藤 でん
第六章 いや、どうしてこうなった

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最後に見たもの

六章はここまで


魔法陣が、空にいくつも浮かんでいた。


「!!!」

「しくじった、予想外だ」

「どういうことですかっ?!」

「国営軍見習いに、魔法隊見習いも混じってる!」

「魔法隊……!」

「魔法の射程は弓矢よりかなり長い。時間をかけて魔法陣を錬成していたな。

俺たち、魔法隊相手に戦った経験がないんだ。してやられた」

「目的は、ニセ金工場の焼き尽くし、ですか?」

「そうだろうが、明らかに射程がズレてる。居住区の方向に多数の魔法陣が向いている」


エドワードは城壁を駆け下りると、目の前の町人たちに「逃げろ! 山の方へ逃げろ!」と怒鳴った。巡回していた自警団の団員を捕まえて事情を説明し、町民の避難の呼び掛けを命ずる。


カリンはエドワードについて走りながら、空を埋める魔法陣を見上げた。

見習いの魔法使いたちが、命令されて言われるがままに魔法を錬成したのだろうが。目的の場所に狙い違わず魔法を撃てるほど、見習いたちの技術は伴っていない。

射程がズレた先にあるのが、無力な一般人だということに気づいていないのか? 分かっていてコントロールの定まらない魔法を使ったのか?


そうであれば、ミケントン軍のこの攻撃は、一方的な虐殺だ。



光を蓄えた一つの魔法陣が、堪えきれなくなったように強く輝いて魔法を放った。オレンジ色の光が真っ直ぐに民家を貫き、爆発した。

次々と空から光とともに衝撃が走り、建物が破壊されていく。その後周辺から炎が吹き出してきた。ナプルの町を二度目の火災が襲っていた。


叫びながら走り出す人々。怒号が飛び交い、泣き叫ぶ女性の声も聞こえる。ムッとする炎の熱と共に黒い煙が空を覆い、焦げた臭いが辺り一面に広がっていた。黒い煙の向こうから魔法の光が飛び出し、さらに爆音が鳴る。轟々と火が燃えて何かが連続して爆ぜる音がした。



城壁の外では、今まさに軍同士の戦いが行われている。町の外には逃げ場がない。

だから「山へ、山の方へ!」。


カリンは山へと叫びながら、山にも逃げ場がないことを理解していた。大規模な火事が起きているこの町に、これだけの人口を納めるだけの避難場所など、どこにもないことを。山に登るのだって限界があり、この町には子供も老人も沢山いる。


どうすればっ?とカリンがエドワードを振り向いた時だった。



一般人に見える男がエドワードに向けて剣を振り下ろしていた。咄嗟にエドワードはのけ反り、剣先を避ける。男がさらに剣を構えてエドワードに迫っていく。

何歩か後ずさった時にはエドワードはすでに抜剣していた。相手に向けて剣を繰り出す。ガキンと剣が噛む音がした。


刺客だ!


カリンの血の気が引いた。こんな時に刺客なんてと、ほぞを噛み剣を抜いた。

私はエドワード王子の護衛だ。急なトラブルが起きようが、まず第一にエドワード王子を守らなければいけないのに……!


エドワードの対応は早い。逃げ場がないと認識した瞬間に、討ち取ることを決めたらしい。自ら刺客に飛び込み剣を振るい始めた。キン、キンッと、高い剣戟が響いた。


カリンも刺客に向けて走り出した。



兵士たちが噂をしていた。

エドワード王子は『金髪の小悪魔』なしでも生き残れるんじゃないか。畏れ多くて手合わせを願い出た者はいないが。あの人は並の兵士では歯が立たないほどの、剣の腕前なのではないかと。


カリンは実感する。『金髪の小悪魔』相手に毎日のように稽古していたエドワードだ。当たり前のように動きは早く、一撃は重い。

エドワードはしぶとそうな、重心を落とした戦い方をする。刺客も今ひとつ踏み込めないでいるようだ。焦りの表情が見て取れた。


カリンは刺客にむけて鋭く剣を突き出した。

男は体を捻ってカリンの剣を避けたが、その隙をエドワードが逃さない。さらに踏み込んで刺客を追い詰める。カリンも逆サイドから刺客を狙った。刺客の焦りが伝わってくる。剣の振りが中途半端になっていく。


「はあっ!」と気合いの声がして、刺客の右手から血しぶきが飛んだ。エドワードの剣が刺客の腕を捕らえたのだ。大量の血がぶちまけられ、むっとした血の臭いが広がった。むせる様な血の臭いを払うように、カリンは袈裟斬りに刺客の背を切り下げた。

男はくぐもった声を漏らしながら、その場に倒れ落ちた。そして、そのまま動かなくなった。

――刺客は、倒れた。



「カリン、無事?!」


すぐにエドワードがカリンに声をかけた。息は多少上がっているが、気負いはない。

カリンの方が完全に息が上がっていた。凄まじい勢いで心臓が動いていた。心音が外に漏れているのではないかと思った。



……人にとどめを刺したのは初めてだ。



はあはあと息を吐きながら、カリンはエドワードに頷いた。動揺を悟られてはいけない。これでも騎士としての矜持くらいは持っていた。

それに、刺客は仕留めたが、まだやることがある。


「はあ、……エドワード王子、町民の、避難を」

「ああ、自警団の団長と連絡を取りたい。避難場所も確保出来ればいいんだが……」

「消火活動も、同時にですよね」


うん、と頷きながらエドワードは踵を返した。カリンもそれに続く。


「町への魔法攻撃が、城壁外の戦場からも見えていたはずだ。

マシューのことだから軍の一部は町へ向かわせると思う。たぶん、ブチ切れた本人が先頭で」

「ブチ切れって……なんでブチ切れてんですか」

「俺のいないところで魔法に晒されてんじゃねえって、理不尽にブチ切れてんだろうなあ。

……ちょっと、昔の約束があってね。どうしても俺は先に死ぬ訳にはいかなくて」

「なんですか、その話………」

「ガキの頃の……………うわっ!」


エドワードの叫びと同時に、彼の体は後方に持って行かれた。背後に建つ火を噴く建物に向けて、抱えられるようにして連れ去られる。


片腕を失くした刺客だった。


死にものぐるいでエドワードの胴に左手を巻き付け、抱きつくようにして刺客は走った。ぎらついた笑い顔は確実に死を覚悟して、常軌を逸しているように見えた。

どうせ死ぬならば、相討ちが刺客としての美学だ。まだ火のついた建物に向けて、力ずくで飛び込んでやる。

意図を察したエドワードが暴れるが、覚悟を決めた刺客の力は強かった。


「ツメが甘いんだよ、ばあぁぁかっ」

「てめっ」

「死ね、クソ王子! 俺と死ね!」


炎に煽られた黒コゲのレンガや木材が目に入った。このままあそこに激突したらどうなる。最悪の事態しか想像できない。

燃える建物に突っ込まれる前に、なんとか……!


エドワードがさらに暴れ、顔を上げた時だった。エドワードと刺客に向けて、斜めに傾いた建物が崩れ落ちてきていた。黒い瓦礫が一瞬のうちに目前に来て、エドワードは頭を庇って腕を上げた。次々と重く硬い何かが体の至る所にのしかかった。凄まじい重量が体を圧迫しエドワードを潰しにかかった。自分を巻き込んだ刺客の狂ったような笑い声が近くで響き、わずかな間にそれも絶えた。




カリンの目の前でエドワードは一瞬で瓦礫に飲まれた。チョコレート色の髪が、焼け焦げた瓦礫で埋もれた。


カリンは人生で最大級の悲鳴を上げていた。




◇ ◇ ◇




エドワードは朦朧とする意識の中で目をこじ開けた。周囲は暗い。そして体は動かない。熱い。痛い。重い。息ができない。

特に右足に激痛が走っている。足はもうだめだなと、エドワードはぼんやり思った。


衝撃的な事が色々と混じりあって、自分がどうなっているかよく分からなかった。よく似た経験をした事がある。数年前に刺客に襲われて死にかけた時だ。

自分はまた死にかけているんだ、ということだけが分かった。カリンは無事だっただろうか。


マシューがキレるだろう。あいつはキレる。

マシューと子供の頃に約束したのだ。「マシューより先に死なない」と。マシューを一人には絶対にしないという約束だ。

まだ有効だからな、と時々マシューはボソッと言う。だから、あの約束はまだ生きている。

絶対キレるな。キレたマシューを止められる人ってここにいるかな。危険だな。


町の人達は、逃げ場所は……足がダメになった俺は、もう逃げられない。せめて、町の人の逃げ場所だけでも、確保したかったけど…………


取り止めのない思考を流しながら、エドワードは周囲を観察した。

砕けたレンガや焼けて黒ずんだ木材などの瓦礫が、暗闇の中でうっすら見えてきた。目が慣れたのと、瓦礫の隙間から光が漏れているからだ。

目をこらすと外の様子が少しだけ見えた。

ほんの隙間から、黒い男と銀色の少女が見えた気がした。



黒い男は背が高く、頭に二本の角のようなものが見えた。なんだかエドワードの知る、闇の上位精霊によく似ていた。

銀色の少女は、肩までの銀髪で小柄で華奢な姿だった。エドワードの好きな女の子に近いが、彼女の髪はもっと長いはず。


……ラヴィみたいな子だ。


そう思った矢先に、少女が声を荒げた。黒い男に言い募っていた。黒い男は少女を抱き寄せた。何事か呟くと、男はそのまま顔を近付けて少女にキスをした。

深く口付けた男女の様子を、エドワードはただ見ていた。美人同士のキスは絵になると思った。胸が何かで殴られたように痛い気もした。

ずいぶん長く感じたが、さほどではなかったのだろう。


黒い男は高く哄笑しながら、その場でバサリとコウモリのような大きな黒い羽を広げた。一度ふわりと浮かぶと、そのまま飛び去って行った。少女はそれを見送ると、その場で顔を覆って崩れた。


エドワードは目を閉じた。考えるだけの思考も体力も、限界を迎えていた。



ああ……

あれは、やっぱり悪魔だった。

悪魔だから、俺が一番見たくないものを最後に見せるんだ。

見せつけてくれんなよ。



凄まじい爆音が鳴り響いた。キンと耳が塞がった気がした。

何かが壊れたと思ったまま、エドワードは意識を手放した。




酷い目に合わせてごめんな、エディ!

次の章でラヴィちゃんと再会するから。

それまで、果報はぶっ倒れたまま待ってて。

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