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アイドル王子(自作自演)と、深窓の姫君(余計なコブ付き)の、【偽装結婚】?!  作者: 工藤 でん
第六章 いや、どうしてこうなった

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エドワードのやりたいこと

エドワードは城壁の歩哨に立って、遠くに見える見習い兵士たちの起こす野営の光を見ていた。日の落ちた平原で篝火がいくつかたかれ、焚き火がぽつんぽつんと見えていた。焚き火の周りには、味気のない携帯食を齧っている見習い兵士たちがいるのだろう。



明日には全面攻勢をして、見習い兵士を含んだミケントン軍を蹴散らすことが決まった。国営軍ではない彼らは烏合の衆でしかない。だが数だけはいる。

マシューは各部隊の隊長と、細かい打ち合わせをしに行っている。大まかな戦略を元に想定できる戦術を共有しているのだそうだ。

ここまでくるとエドワードは何も口を出せない。お飾りの大将は黙って、稀代の戦上手マシューの言いなりになるだけだ。



ふいにこちらに近づく足音が聞こえた。振り向くとブレイカーである。ブレイカーも打ち合わせに参加していたはずだが。


「どうした?」

「マシューがお前んとこにいろってよ。あいつはお前の護衛のことになると、妙にうるさいな」

「狙われた回数で言うと、手足の指の数じゃ足りないからね。信頼出来て腕が立つって言ったら、ここにはブレイカーしかいないから」

「ありがてえなあ、まったく。カリンやジュードは、まだ信用できないってか」

「マシューはあれで人見知りだし。信頼を得るには時間がかかる」

「見た目はぼーっとしてるようにしか見えんがな。

そのマシューからな、『エディがまた余計なこと考えてるかもだから、一発どついきて』と言われてきたんだが」


のんびりした口調ながらも、鋭い視線がエドワードに突き刺さっている。マシューの伝言がさらに刺さる。


マシューの渋い顔を思い出して、エドワードは脱力して歩哨にもたれた。

敏い人間ばかりがいて、ゆっくり落ち込んでいるヒマもない。なんだもうバレたのかよ、とここにいないマシューを恨んだ。


エドワードは遠くの焚き火の明かりを、ぼんやり眺めた。


「……サミュエルがさ、オーサに加担してるじゃん」

「そんなもん、ずっと前からじゃねえか」

「そうなんだけどね。別に義兄に対する情なんて持ってないし、どちらかというと面倒臭い相手だから近寄りたくもないんだけど」

「そうだろうな」

「今回、サミュエルがオーサの要望に応えたのは、ニセ金絡みで弱みを握られてたから、だけじゃないと思う。たぶんもっと直接的で」

「……ああ、そういうことか。ひっかかったのは、そこか」


ブレイカーはエドワードのチョコレート色の髪をわしわしと撫でた。出会った頃の、まだ十歳にも満たない頃のエドワードに、よくやっていたように。


子供のように頭を撫でられたエドワードは、歩哨の縁に置いた自分の腕に額を乗せた。別に隠す必要も無いが、情けない顔を見られるのはバツが悪かった。


「カリンもいたから言わなかったけど。生々しくて女の子には聞かせられないかなって」

「ああ」

「きっとサミュエルはオーサに、『今がエドワード王子を殺せる最大のチャンス』って唆されたんだな。俺を殺せる絶好の機会を、王太子が逃すはずない。今度こそ殺してやると息巻いて、オーサに許可を出したんだ。そう確信して」

「そうだな……」

「サミュエルは割と冷静な人なんだ。激情に駆られるのは、俺が絡んだ時だけだ。

俺にだけはむき出しの悪意をぶつけてくる。本気で殺しにくる」

「もういい、オージ」

「俺の方からサミュエルに、何もしたことない。俺はただ、そこにいるだけなんだよ」


ブレイカーはエドワードの頭を片手で抱いた。ぽんぽんとあやすように叩いてやる。


やるせない思いしかない。誰にもどうにもしてやることができない。こいつはどうして、ここだけは割り切れないんだと、側にいて歯がゆく思う。おそらくマシューはもっと歯がゆい思いを抱えてる。


ブレイカーの腕の中で、エドワードの微かな声が漏れた。


「なんで俺、殺したいほど嫌われるんだろ」






長い沈黙がおりていた。

ブレイカーはエドワードの頭をぽんと叩くと、腕を離した。

エドワードも顔を上げた。もう情けない顔は晒していない。


ブレイカーはエドワードと並んで、歩哨の縁にもたれた。敵方の焚き火の明かりに目をやって、お互いには目も合わせない。

一応言っておく、と前置きをした。


「嫌われない人間なんて、この世にいないからな」

「……ブレイカーは一部の人間にめちゃくちゃ嫌われてるもんね」

「女を取られたと勘違いした男にはとことん嫌われてるなあ。男の魅力の差だっての」

「あ、そー」

「気をつけねえと、オージ。姫さんが俺に惚れたらどうすんだ」

「それはない」


きっぱり断言するエドワードをブレイカーはしげしげと見直した。随分と自信があるものだ。


「ラヴィはものすごく変わってるから、いわゆるいい男には、絶対なびかない」

「……言ってて虚しくないか」

「うるさい。俺だってなんで俺なのかサッパリ分かんねえんだ」

「確かに物好きではあるな」

「だろ。アイドル王子だったらまだ分かる気がするけど、アイドル化すると敬遠されんだぞ。どこがラヴィのツボなのか、ツボの所在が不明なんだから」

「何にせよ、あの美貌だ。ちゃんと囲っておかないと攫われるぞ」


あーそういう問題もあったな、とエドワードは片肘で頬杖をついた。

そういう問題? とブレイカーはエドワードに尋ねた。話してなかっただろうか。


「サミュエルがラヴィを襲った件は話してなかったか」

「知らねえな。カルロスからも聞いてねえ」

「婚約式の晩だ。おそらくラヴィに一目惚れしたサミュエルが、ラヴィをバルコニーに閉じ込めたんだ」

「おい、姫さんて、やっかいな病を持ってたよな」

「サミュエルはゴリゴリの王族だからさ、『王族接触拒絶症』発症して大変だったんだから。

……あの時は間に合ったけど、サミュエルがラヴィを諦めたとは思えないな」


エドワードは、サミュエル王太子の姿を思い出していた。くすんだ茶色の髪の下の暗い光を湛えた瞳は、いつもエドワードに対する憎悪に染まっていた。


バルコニーでの出来事は、サミュエルがラヴィリアに一目惚れしたからだと思っていた。

しかし、考えてみればエドワードのものを奪いたいという衝動が、なかったとは思えない。エドワードに転がり込んだ美しい宝を、羨望の眼差しで見ているだけ。そんなことにサミュエルが耐えられるとは考えられなかった。

横取りしたい、奪い取ってやりたいと考えるのは、必然のことのように思えた。


エドワードの婚約者である限り、ラヴィリアはサミュエルに狙われ続けるとしたら……



「……ちゃんと守ってやれよ、オージ」

「……」

「お前が負けたら、姫さんがどうなるか、想像つくだろ。サミュエル王太子から姫さんを寄越せって命令がきたら、俺たちでは逆らえねえ」

「……」

「姫さんをちゃんと守ってやれんのは、婚約者で王子である、お前だけだ」


静かなブレイカーの言葉が、沁みた。



エドワードの中で明確な炎が生まれた気がした。小さな炎はあっという間に燃え上がった。燃え上がるだけの土台がエドワードの中にあったのだ。


想像したくないことを、あえて想像してみた。


ラヴィリアがサミュエルの手に落ちる。

サミュエルの手で奪われる。

ラヴィリアが、サミュエルの手で暴かれる。



嫌だな。

絶対に、嫌だ。



エドワードは目を閉じた。

自分がやりたい事がわかった気がした。

おそらく、途方もない事だ。

だけど、そうしたいと、思ってしまった。



守りたい者を守るためには、自分に力を付けなくてはダメだ。王族が相手なら、その王族以上の力を蓄えるしかない。有無を言わせぬ実力を見せつけるしかない。


キースとブレイカーに、自分がやりたいことを言え、と言われていた。何をしたいか分からなかった自分が、やりたいことを見つけてしまった。

これが答えになるだろうか。



「ブレイカー、俺さ。

サミュエルにラヴィ取られるの、だいぶ嫌なんだ」

「……ふうん?」

「もう、ホントにやだ。絶対やだ。マジで無理」

「おーおー」

「でも、ラヴィが俺の婚約者で、俺が王位継承権第四位を持っている限り、サミュエルはずっとラヴィを狙い続けると思う」

「まあ、そうだろうな」

「だからさ……滅ぼしちゃおっかな」

「……………あ?」

「滅ぼしちゃおっかな」


ブレイカーはエドワードを直視した。大それた事を口走った男の顔とは思えなかった。

いつも通り、なんだか困ってるんだよね、といった風情のエドワードがいた。



唐突にブレイカーは笑いだした。その太い笑い声は、周囲をぎょっとさせ注目させた。それでもブレイカーは笑い続けた。涙が流れるほど、笑った。


「お、おい、ブレイカー……?」

「……はは、はははっ!

………はあ。ああそうか、おもしれえ!」

「そんな、笑うようなこと?」

「当たり前だ。笑わずにいられるか。

お前がしたいこと、ってのは、それでいいんだな?」

「お、おお」

「俺もキースも、どんだけ待ってたと思うんだ。もっとかかると踏んでたんだ。全部無駄になるかと思ったぜ」

「待ってた……?」

「姫さんの存在はすげえなあ。

マシューとカルロスにも、それすぐに言えよ。カルロスなんか、光の速さで動き出すぞ」

「どゆこと?」


ブレイカーはいつものようにニヤリと笑った。

いつもと違うのは、目尻に涙が溜まっていたこと。ブレイカーの涙なんか初めて見て、エドワードは戸惑った。



ブレイカーはエドワードの肩を叩いた。強すぎてエドワードがよろける程だったが、ブレイカーは心底楽しそうだった。


「そうだな。滅ぼしてやろうぜ、大将」

滅ぼしちゃおっかな、と言わせたかったのです。エディっぽくていいなと。

70話までかかっちゃったね!

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