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アイドル王子(自作自演)と、深窓の姫君(余計なコブ付き)の、【偽装結婚】?!  作者: 工藤 でん
第六章 いや、どうしてこうなった

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ニセモノ

敗走してきたジュードは、膝をついてエドワードに謝罪した。

焼け残った小屋を臨時の会議室にして、エドワード・マシュー・ブレイカー・カリンが集まり、ジュードの進退を決めかねていた。


ジュードは鎧こそ既に脱いでいるが、制服には血の跡がいくつもついていた。大きな怪我はなさそうだが、幾人か部下を亡くしたジュードはかなり消沈していた。青い顔を地面に付けるほど深く下げる。


「身勝手な出撃、大変申し訳ありませんでした」


ひたすら頭を下げてエドワードに謝罪するジュード。カリンはプライドの高いジュードが、マフマクン伯爵以外に頭を下げる姿を初めて見た。

悔しそうな横顔が彼の本心を滲ませていた。


「私の不徳の致すところです。貴重な戦力も失ってしまいました」

「……」

「殿下の命令を無視し、己の力を過信して出撃し、敗退してしまったのは、全て私の重大な責任です。

この責任を取り、私は謹慎して処分を待ちたいと――」

「却下だ」


エドワードは切り捨てた。

冷たい言いざまにカリンは緊張した。エドワードはジュードに対し、今すぐに重い処分を下すのかと、息を飲んだ。


王族に対する不服従だ。不敬罪と捉えられると、重い。

処罰として考えられるのは、騎士位の剥奪と隊長からの降格、王族・高位貴族への拝謁禁止など。ジュードの未来を閉ざす、可能性の数々である。


さらに青ざめるジュードを、エドワードは怒りを含んだ口調で罵った。目が本気だった。


「ただでさえ人手が少ないってのに、一人だけ楽をしようとするな!」

「………………は?」

「ふざけんなよ! 謹慎して膝抱えてていいなら、俺がしたいわっ! つうか、三食昼寝付きじゃねぇか、羨ましい!」

「………………はい?」

「謹慎なんて楽な道に逃げられると思うなよ? お前らには血反吐吐くまで働いてもらうからな!」

「え……働く……」

「ジュード隊に衛生班向かわせろ。かすり傷なら戦線にぶち込む。メシ食わせたらすぐさま動員だ」

「エドワード王子」

「ジュード、さっさと座れ。

マシュー、報告」


エドワードはジュードに背を向けると、平然と上座に座った。粗末な椅子ではあるが、堂々と。


呆気に取られたジュードの肩を、ブレイカーが掴んだ。頬に傷のある男は面白そうにジュードを見つめ、不敵に笑った。


「別に温情をかけたわけじゃねえ。あいつはそういう奴なんだ」

「そういう……?」

「王族の威信とかどうでもいい。使えるものはなんでも使う。その場の最善を優先する」

「…………それは。

それはつまり…………俺はまだ使えると思われた?」

「察しはいいじゃねえか。

マフマクン領兵の指揮はカリンじゃ心許ねえからな。ジュードなら問題ない」

「そうか。……そうか」

「精々働け。こき使われろ」


ブレイカーはジュードの肩を離すと、自分の席に移動した。

それを見送って、ジュードも恐る恐る末席に座った。マシューの報告を受けているエドワードを盗み見る。


……あれが、カリンの惚れた男。


隣でカリンが、感無量といった風情でエドワードを見ていた。尊敬、憧憬、傾慕などが入り交じった、桃色の視線をエドワードに向けていた。誰がどう見たってカリンは王子に惚れている。


悔しいが、仕方の無いことだと思わされた。

懐の深さを見せつけられた。自分より歳下の王子が、計り知れない貫禄と威厳を備えている。

平常時はきらきらした優男、くらいにしか思っていなかった。見掛け倒しで身分だけやたら高い、へなちょこ野郎だと。


非常時になった途端、この落ち着きと図太さは何なのだ。焦りや狼狽はないのか。

エドワード王子という人物を、もう一度見直す必要がある。ジュードは気を引き締めて、エドワードの言動を見守った。






エドワードはマシューに報告を促しながら、ノミの心臓をバクバク言わせていた。


部下の処断を直接するなんて、初めてのことだ。非常に居心地が悪い。どうやれば正解なのか、全然分からないのだ。

ただ人手が足りないのは本当で、国営軍相手に戦争となると指揮官が複数欲しい。ジュードを厳しく処断して、マフマクン領兵の気持ちを落としたくないのも本音のうちだ。


あー、もうやだ。

なんでこういう時にカルロスいないかな。


そう思いつつ、今までカルロスがどれだけ汚れ仕事を引き受けてくれていたのかが実感できる。嫌われ役を、穏やかなフリで流していた姿をエドワードは何度も見ていた。


あれはあれで、苦労してだんだな。と、改めて思った。とばっちりは、ちゃんとエドワードが受けていたようにも思えるが。


「エディ?」

「ああ、悪い。

マシュー、続けてくれ」


マシューはこくんと、モッサリとした金髪をうなずかせた。出撃していたにも関わらず、こちらはかすり傷一つ負っていない。


「国営軍はナプルの町を包囲し始めている。数は五百ほどかな。南側を重点的に狙っている」

「こちらの兵の総数は?」

「三百弱。籠城には耐えられるけど、一般人もいるから長くもたない」

「国営軍へ送った使者は」

「矢で威嚇してきたから撤収させた。国営軍は交渉をする気がないな」


うーんとエドワードは腕を組んだ。

国営軍が来た、と大慌てに慌てまくってしまったが、そもそも国営軍の目的はなんだ?


ニセ金工場を隠蔽するために、オーサ公爵が国営軍を動かしたとは思えない。一個人が私的に動かせるほど、国営軍は甘くないし軽くない。

サミュエル王太子が、強権を発動したか?

それも考えにくい。そもそも融通のきかない堅物な王太子が、ニセ金造りに加担しているとは思えないのだ。オーサ公爵が私的に行っていた悪事、と考えた方が自然だ。


それでは、なぜ国営軍が来た?


思考が堂々巡りになってきたことを自覚して、エドワードは考えるのを一度放棄した。おそらく、何かしら情報が足りていない。



エドワードはマシューの金髪に目をやった。先程出撃して大暴れしていた男とは思えないほど、安らかにぼーっとしている。


「マシュー。国営軍は、やっぱ強かったか? 戦うために訓練された、本職の軍隊だし」

「いや、全然。全く手応えなし。

あれ、本当に訓練受けてんのかな」

「そうなの?

ジュードの意見は?」

「……ミケントン軍の向こうから唐突に大量の矢を射かけられ、何名か失いましたが。行軍自体は通常だったと思います」

「通常か……」

「通常よりも稚拙、でした。命令からの行動が遅く、だからこそ我々は撤退しやすかったのですが。

『金髪の小悪魔』が現れた時には、パニックに陥っていましたし。あれは軍隊の反応ではありませんでしたね」

「ふうん」


エドワードはブレイカーに目を移す。

喧嘩のやり方はプロフェッショナルな男だ。専門はゴロツキ同士のナワバリ争いだったりするが。


「ブレイカーが、オーサだったとしてさ」

「俺はあんなハゲでデブで厚かましいやつの考えることは分からんぞ」

「フサフサでナイスマッチョで謙虚なブレイカーが、例えば自分ちのニセ金工場がバレて敵に現場を押さえられてて、手持ちの兵が少なかった場合、どうする?」


ブレイカーは眉をひそめながら顎を撫でた。


「傭兵を雇って取り返す」

「傭兵を雇ったことがバレると、外聞が悪い、としたら」

「懇意にしている団長から兵隊借りるな」

「団長ってそんなに簡単に兵隊貸してくれるの? 兵隊貸してその団長は得しないよね」

「そんなもん、相手のドス暗い尻尾握っとけば、簡単に……」


ブレイカーはエドワードを見返した。エドワードもなんとなく考えが纏まってきた気がして頷いた。

推測の域を超えないが、 だいたい間違ってはいないだろう。


おそらく今回の国営軍派兵の背後に、サミュエル王太子がいる。



「……どういうことでしょう?」


カリンが恐る恐る尋ねてきた。

エドワードはカリンの紅茶色の目を見返した。自分の考えを、言葉にして纏めてみる。

全ては推測だけど、と前置きをした。


「オーサ公爵は窮地に立たされている。工場は焼いたと報告はあっただろうが、全焼か半焼かなどわからない。ニセ金工場が俺にバレてしまった可能性がある。工場の跡地は俺に押さえられていて確認が取れない」

「はい……」

「しかも手持ちの兵隊はあらかた俺に取られてしまった。どうにかして兵隊を確保して俺を撃ち、ニセ金工場もろともニセ金造りの事実を知る人間を根絶やしにしたいと思っている。だからどうしても兵隊がいる」

「そうでしょうね」

「兵隊なら近くにいる。自分の暮らす王都に存在する、国が握っている戦争のプロだ」

「あ、そこで国営軍……」


カリンは両手で口を覆った。

エドワードはこくんと頷いた。


「もちろん、オーサが国営軍を動かせるわけは無い。だが権威をチラつかせれば、動かせないこともない部隊がある。

国営軍見習い。予備軍の兵士たちだ」

「あ」

「オーサは、次にサミュエル王太子を脅しにかかる。サミュエル王太子にはオーサから多額の献金が送られている。サミュエル王太子自身は使っていなくても、喜んで金を使っている人物がいる……王太子妃だ」

「……エマニエル王太子妃は、華美で贅沢好きと、噂されてますね」

「実物、すごいよ。まとってる宝石から出る光で目が潰れるよ。

……オーサからのニセ金の献金で、いっぱいになった金庫があったとして。ドレス、靴、宝飾品、その支払いをニセ金で行っていたとしたら」

「……サミュエル王太子は、ニセ金使用の罪に問われる」


ジュードが軽く首を傾げた。


「サミュエル王太子は真面目で堅物、と評判ですが。ニセ金の存在を公にして自分も罪を認め、オーサ公爵を捕える、とはならないのでしょうか」

「人間は弱いよ。特に負けの経験が無い人間は、弱い。

今兵隊さえ動かせれば、あなたの罪は存在しなくなる、と囁かれたら?」

「ああ……」

「さらに、サミュエル王太子の妻、エマニエル王太子妃も罪を被らなければいけなくなる。あの人のヒステリーは相当らしい。

エマニエル夫人が、自分の預かり知らぬところでニセ金使用の罪人にされ、罪を償えと言われたらどうなる? エマニエル王太子妃はどんな反応するだろう。

エマニエル夫人のヒステリーが全て自分に向けられると思ったら、サミュエル王太子はビビるよね」

「やだねえ」


ブレイカーが半笑いで呟いた。

絶対に私生活でそういう修羅場何度も経験してきたな、とエドワードは確信した。そしてブレイカーは懲りてない。


「サミュエル王太子は保身のために、オーサに手を貸すだろう。

生真面目な彼が譲歩して、仕方なく許可を出すとしたら、国旗の使用くらいだろうな」

「今、我々を包囲している国営軍。奴らが掲げている、アレだな」

「見習い兵士たちには行軍演習とでも言って参加させたのだろう。参加すれば、本来正式に入隊しなければ身につけられない、国営軍の鎧が進呈される、なんてことを餌にして。

オーサ領は金属加工で有名だからな。国営軍の鎧はオーサ領から納められてるし」

「鎧の在庫があるってことだ」

「そういうこと。

今城壁の外にいる軍隊は、国営軍じゃない。オーサとサミュエル王太子に唆された、見習い兵士たちだ」

「だから、手応えがなかったわけだ」


マシューが納得したように城壁へ目をやった。城壁の向こうにいる、逃げ惑っていた見習い兵士たちを思い浮かべているのだろう。

連れてこられた予備軍の彼らこそ、可哀想だった。

オーサ公爵の必死さ、伝わるかなあ。

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