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アイドル王子(自作自演)と、深窓の姫君(余計なコブ付き)の、【偽装結婚】?!  作者: 工藤 でん
第六章 いや、どうしてこうなった

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三角関係

ひと息つこうぜ、の回。

いくつかの天幕を張った外れに木立があった。鬱蒼としているほどではなく、陽の光が差し込むくらいのまばらな木立である。

狭い天幕に篭っていると気が滅入ってしまうエドワードである。エドワード用の天幕は個人用としては大きいが、それでも息が詰まる。余計な事を考えそうだ。


エドワードはマシューに居場所を伝えて、木立の方へ向かうことにした。気晴らしの散歩にはちょうどいいのだ。

マシューは部隊の指揮官と戦術の細かい内容を話し合っていた。実戦経験もあるマシューは、なんやかんやで忙しい。実質司令官のような立ち位置になっている。

エドワードと話す機会も少なくなり、マシューは最近ピリピリしていた。ボヤく暇もないほど頻繁に呼び出されるのだ。

どこかでマシューの息抜きもさせてやらないとなあ、とぼんやり思いながら足は木立の方へ向かう。



夕方に向かう、陽の光に茜色が混ざってくるような時間帯だった。

ここに布陣している兵士の中で、のんびりと散歩できるような者はエドワードくらいだ。カルロスがいたら容赦なく仕事を振ってくるが、今はいない。ブレイカーの仕事の割り振りは自分の部下に託すことが多いので、エドワードは珍しく手が空いていた。

またとない待遇だが、時間の使い方が分からなかった。そのため、エドワードは兵士の雑談に混じったり、今のように散歩をしたりしていた。



エドワードは木立の間をのんびり歩いた。木漏れ日は明るく差し込み、下生えまで照らしている。ラヴィリアがいたら食べられる草とか見つけるんだろうが、エドワードにその知識は無い。今度教えて貰おうかと思ったが、そもそもエドワードは調理がほとんどできない。採取した食べれる草は、調理しなければただの草だ。


ラヴィがいないとダメだよなあと、ボヤボヤしながら歩いていると、ふいに人の声が聞こえてきた。

聞き覚えのある男女の声だ。

太めの木に身を隠して覗き込むと、カリンとジュードの二人である。思わず身を隠してしまったのは、二人が言い争いをしていたからだ。


「……は、よくない。きちんと真摯に向き合うべきよ」

「向き合ってるさ。意見が合わないだけだ。あの甘さは最終的に無駄死にを量産させる」

「だからといって、ジュードみたいに特攻して戦端を開けば、一般人がたくさん犠牲になるの。それはエドワード王子が一番避けたがっていることでしょう」

「多少の犠牲より、短期決戦が最良だ」

「あの方はそれを望んでいない」


………………俺の話じゃん。


嫌なタイミングで出会ってしまった。そして出るに出られなくなった。

エドワードは木に背中を預けると、自分も木の一部になりきる事にした。

俺は、木。何も聞いてない、何も感じない。ただここに立っているだけ。だから早くどっか行け。


「カリン、やけにエドワード王子の肩を持つよな」

「……何よ」

「いつも王子を目で追ってる。時々話す時、顔が紅潮してる」

「…………」

「惚れたのか。エドワード王子に」

「あなたには関係ないでしょ」

「……本当に、惚れたんだな」


……ちょっと待てー!!!

エドワードは片手で口を塞いだ。思わず叫ぶ所だった。

なんつった、今。誰が誰に惚れてるって?

マシューやブレイカーが前から言ってた、「「 にっっっぶ 」」とはこのことか!



カリンが、俺を好き?

カリンには素顔も晒して、アイドル王子じゃないことバラしてるのに。イケメンのフリした偽物だって知ってるくせに。

なんで俺?


思い当たるフシは……あれか。

大怪我した時に声をかけたから。


そんなん、典型的な吊り橋効果じゃん。命がヤバいから手近な異性に惚れるやつ!

カリン、正気を保て!

今は生きてる元気、もう大丈夫!


ジュードの蔑むような声音がした。


「剣に命を捧げた女。そう呼ばれたカリンがな。お前、意外とミーハーじゃないか」

「……そんなんじゃないわ」

「よりによって、アイドル王子か。顔と雰囲気だけで女を魅了する軽い男。そういうのが好みかよ」

「ちがう!全然違う!」

「カリンは人を見る目はあると思っていた。カリンが惚れる男はどんな男か興味があった。

それが、見かけだけの軽薄な女たらしが好きだとか。見損なったよ」

「エドワード王子はそういう人じゃない!」


バチン、と派手な音がした。

カリンがジュードを平手打ちしたのだと思った。

エドワードは必死で沈黙を守る。


カリン~、殴るほどのことか~?

世間では割と軽薄に売ってるよ、俺。

ジュードの意見は正しいよ?


カリンの激情した声が聞こえた。


「エドワード王子はっ。

……軽薄じゃないの。見た目が整ってるだけじゃないの!

すごく普通の人なの。すごく普通で真っ当な人が、自分を殺して自分を晒して生きてるのっ」

「……なんだ、それ」

「煌びやかなフリして、高圧的な態度取って、後で後悔して縮こまってる。無理して笑顔振りまいて、無理して王族らしく振舞って、自分と自分の周りの人を守ってるの」

「おい、どういうことだ?」

「エドワード王子は、エドワード王子を完璧に演じてる。

エドワード王子は、表面を見るだけでは測れない人なのよ。それがわからない人に、彼を語る資格はないわ」


……いたたまれない。ものすごく、いたたまれない。

エドワードは逃げ出したかった。

なんか、すっごく美化された自分を話されている気がする。

そんなんじゃないよ、俺。

生きるために仕方なくやってる結果だから。

そんなに深く考えてないって。


ジュードが思いの外冷静な声で、カリンに語りかけた。


「カリンは、エドワード王子のどこに惚れたんだ。言ってみろよ」

「……あなたにはわからないわ」

「いいから、聞かせろ」

「……誰も太刀打ちできないほど、優しいところ。誰にでも優しいけど、その優しさが自分を傷つけていることに、気づいていなくて。なんとかしてあげたい、と思う」

「優しい、か」


………いや、違うって。

ただ小心者なだけなんだって。


カリンのエドワード王子像は、計り知れないほど懐が深いらしい。

本当に、誰だそれ!

少なくとも俺じゃない。


「他にもたくさんある。見てるだけでどんどん好きが増える。

こんなに好きになるなんて、思わなかった」

「身分違いだ。その恋は実らない」

「知ってる。いっそ、アイドル王子に憧れる女の子みたいだったらよかったよ。ただ明るい王子様を思って、心を焦がすのならよかった。

それにね……」


唐突にカリンの言葉に涙が混じった。

湿った声がカリンの心を表していた。


「エドワード王子の心は、婚約者様でいっぱいなの。彼の心は婚約者様にしか向いてなくて、心の隙間に入り込むことすらできないの」

「カリン」

「私はもう、失恋しているの。でもエドワード王子が好きなの。止められないの」

「カリンっ」

「だって、こんなに好き! エドワード王子しか好きなれない!」


激しい衣擦れの音がした。誰かが誰かを抱きしめたような音だった。

激しそうなリップ音も聞こえた。

時々カリンの「ん、んんっ」という声がしていた。


長い沈黙が長い行為を示していた。

エドワードは両手で口を押さえたまま、棒立ちになっていた。いつまで続くかも分からず、目だけを動かして待つ。


……これは、ジュードがカリンにキスしてる、ってことでいいのかな?

ジュードって、カリンのこと好きだったのか?

俺にやたら突っかかってきたの、恋敵みたいに思ってたから?

いや、やめてくれよ……。

八つ当たりかよ……。

ジュードのせいで、俺すっげー悩んだんだけど。


ジュードの、いつもに比べると糖分強めな声がしてきた。


「カリン、俺がいる」

「…………」

「俺はお前に惚れている。ずっと前から」

「……ジュード」

「俺はこの恋を叶えたい。お前と全てを分かち合いたい」

「そんなの……」

「必ず、俺を選ばせてやる」

「ジュード」

「お前が惚れるような、男を見せてやる」



ジュードが立ち去る音がして、しばらくしてカリンの遠ざかる足音が聞こえた。

二人が立ち去ったのを確認して、エドワードは背中を預けていた木から顔を覗かせた。誰もいないことを確認して息を吐いた。



エラい現場に遭遇してしまった。


カリンが俺を好きで、ジュードがカリンを好き。俺はラヴィにベタ惚れで…………って、俺たちそういう関係なの?

あれ? 俺はそもそもラヴィにベタ惚れなのか。そうなのか? いつの間にそうなった?


ラヴィのこと好き、だけど。

俺、そんなに惚れてるの? ベタ惚れって何?

いつもラヴィのことばっかり浮かんでくるのは、すでにベタ惚れ?


エドワードは無意識に声を漏らした。


「え? おお?

おおおおおお?」

「すっげ、面白かった」

「マシュー!!?」


いつの間にかマシューがエドワードの隣で、カリンたちのいた空間を見ていた。にやーりと唇が歪んでいる。

気配を殺して近づくのはやめて欲しい。


「最高。いやあ、傑作」

「何がっ?!」

「激しくキスするジュードと抗えなくなって無抵抗なカリンの背後で、木にへばり付いて目を剥いてるエディ」

「マシュー!」

「ゆがんだ三角関係。錯綜するこじれた関係。うけけけっ。

当事者のエドワードくん、感想は?」

「知らんわ!」

「モテ期到来だな、エディ」

「マシュー、他人事だと思って」

「他人事だもん」


ブレイカーにも言っとこう、話盛ろう。とマシューは天幕に向かって歩き出した。足取りが軽い。ものすごく機嫌がよくなっている。


「話は盛るなよ!」と声をかけながら、エドワードは他人事だったらどんなにいいかと嘆息した。

シリアス展開書いてると……ぬああああっ!ってなるので。

私のモチベを上げる回でした。

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