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アイドル王子(自作自演)と、深窓の姫君(余計なコブ付き)の、【偽装結婚】?!  作者: 工藤 でん
第六章 いや、どうしてこうなった

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ナプル攻略会議

何食べよっかなあ、て幸せ時間じゃないですか?

割り振られた天幕の中で、エドワードはカルロスから送られてきた書簡を読み終えた。灯りの魔道具の調子が悪いのか、時々点滅している。


農村への食料や生活物資の支給は、順調に進んでいるようだった。味方につけたオーサ領兵たちの一部が、配給役として動いてくれているのだ。ミケントンは呆れるほどの糧食を保存していた。地方に持つ倉庫もあければ満遍なく行き渡るだろう。

まずは領民を腹いっぱいにしないと始まらないもんな、とエドワードは配給された非常食の煎り豆をポリポリかじった。味気がない。



これが終わったら何食おうかなあ、とエドワードは天井を向いた。簡易な天幕の藍色の防水布が、頭上を覆っていた。


やっぱ、肉かなあ。

ウサギの煮込みか、鶏の串焼きか。カエルのハーブ焼きも、見かけは引くが美味い。ヘビはたまに小骨が混じってるんだよなあ。

ああ、白い豆の入った温かいスープが飲みたい。


食べたいものを連想していて、いずれもラヴィリアが作ってくれていたものばかりであることに気付く。そして、カエルやヘビを食べることに、なんの抵抗も覚えていないことに衝撃を覚えた。完全に胃袋を掴まれてるという自覚を得たエドワードである。

遠距離になってひと月も経っていないのに、粗末な自分の小屋で食べた味が、無性に懐かしかった。



エドワードは首から下げた小さな巾着袋を騎士服の上から探って確かめた。カリンに作ってもらったものである。胸の位置に確かに感触があった。

ラヴィリアの髪がここにある。

ほっと息をついて、エドワードは婚約者の顔を思い浮かべた。


ラヴィリアという人は、正装して佇めば、清楚で可憐でありながらも威厳と貫禄が滲み出すホンモノのお姫様だ。

だがエドワードの脳が探し出したラヴィリア像は、庶民服に長いアイスシルバーの髪を三つ編みにして、血まみれのウサギをドヤッと掲げているラヴィリアだった。無邪気に得意げな顔をするラヴィリアは微笑ましい。



俺、綺麗すぎて近寄り難いラヴィより、獲物が掛かったってはしゃいでるラヴィの方が、好きなんだなあ。



好き、と自然に思えた自分に、エドワードはわたわたと動揺した。はずみでカルロスの書簡が転がり落ちた。機密文書だが、今はどうでもいい。


君を好きになりたいと思う、などと格好つけてほざいていたのは自分である。普通にラヴィのこと好きとか思ってんじゃん、と自分にツッコミを入れたい。

しかしながらそれが、恋愛的な好きなのかは五里霧中である。好きか嫌いかでいえば圧倒的に好きだ。

ところが、それがラヴィリアが自分に向けてくれる好意と同じものか考えると、途端によく分からなくなる。


ラヴィリアに 触れてみたいとか、キスしてみたいとか、考えなくも……なくもなくもなくもない。

だが、男の本能の部分だとも思う。生理的な欲求を恋愛にかこつけて押し付けるのは違う気がするし、気も引ける。それになんだか犯罪っぽいし。

そもそもラヴィには、『王族接触拒絶症』があるんだし。



その『王族接触拒絶症』についても、よくわからなかった。初めて会った時にエドワードの手を握ったラヴィリアの手は、赤い発疹が出ていた。しかし、ほかの接触で症状が現れたことはない。

サミュエル王太子の時は激烈な反応をしていたから、『王族接触拒絶症』自体は確実に持っているのだろう。


エドワード自身の接触は……手袋をしてのエスコートは問題なし。土下座案件のコメカミチューも、異常はなかったように思う。


それどころか、ラヴィリアから頭を抱きしめられたことがある。それどころか、ラヴィリアから俺のほっぺにちゅーしてきて、優しく触れた柔らかい唇が…………ああああああっ。


思い出して一気に顔に血が上った。頬に触れた唇の感触までしっかりと覚えていた。

ラヴィって、実は大胆で積極的。らぶきゅん王子並の行動じゃん。翻弄されてるわ、俺!



……えーと。

今日も結論先延ばし。

考えないようにしよう。



エドワードは書簡を拾いながら外の様子に意識を転じた。何やらザワザワしていることに気付いたのだ。

通り過ぎるだけで兵士をザワつかせる男を、一人知っている。


「エディ」と声がかかり、マシューのもっさりとした金髪が入口から覗いた。身につけた簡易的な鎧は埃にまみれている。どうやら前線に出陣していたらしい。


「会議、始まる。来い」



◇ ◇ ◇



領府から逃げ出したミケントン領主代理は、自身の息子であるオーサ軍団長と、かき集めた手勢を伴って、領内の東へ移動した。金属加工の職人が多く集まる町、ナプルである。


ナプルはスファルト王国建国より、古くからある町だ。東側はマリ王国との国境を有する山脈を背負い、切りだった崖に接するように町が作られている。さらに崖から町を囲うように城壁を張り巡らせた城塞都市だ。城壁は古く、全てを囲えるほど維持はされていないが、籠城するには有利な町であった。


エドワードたちはナプルを包囲して一週間、降伏勧告を突っぱねたミケントン軍を相手に、小競り合いを繰り返していた。





エドワードが作戦司令を行っている天幕へ近づくと、兵士たちが一斉に胸に拳を置いて敬礼した。

偉くなったみたいで勘違いするからやめて欲しいとブレイカーに頼んだのだが、「お飾りでも大将なんだから平然としとけ」と一蹴されてしまった。

ガラじゃないんだけどと思いながら、生真面目な顔を意識して、通り過ぎるようにしている。



天幕にはブレイカーと部下が三名、マフマクンの息子であるジュード、カリンがいた。

ジュードはマフマクン伯爵からの支援で、マフマクン領兵の部隊を率いてくれている。年はエドワードやマシューより年上の二十五歳だが、エドワードより血気盛んな性格であった。



入室してきたエドワードに全員敬礼する。ブレイカーまで敬礼するのはとても面映ゆい。お前そういうんじゃないだろ、と言いたい。

これは演技、ただの演技、と自分に言い聞かせるエドワードであった。


「皆の意見を聞きたい。思ったことを言ってくれ」

「じゃあ、俺から」


ブレイカーが腕を組む。歴戦の戦士のような貫禄があるが、本来は町のゴロツキである。


「ナプルの町の立地は皆、頭に入っているだろうが」


エドワードは中央のテーブルに広げられた地図を覗き込んだ。ナプルの町は南北に伸びている形で、南側にはS字を書くように川が流れている。エドワードの手勢は北側から川に向けて包囲するように布陣していた。

北側の城壁は経年劣化により傷みがひどく、何度かの小競り合いは北側で起こっていた。その北側を破り、エドワード軍が進撃に成功し、一部の町民はエドワード軍の庇護化にある。

もう一枚ある城壁を挟んで、今は睨み合いが続いていた。

そろそろ降伏勧告に応じてもよさそうなものだが。



「ナプルは防御には適した町だ。だが、他から支援がないことには、ミケントン軍は孤立無援になる立地でもある」

「援軍を待っている可能性がある、ということか」

「おそらく。オーサ公爵と懇意にしている貴族からの支援だろうが」

「今、オーサ公爵は人気が底辺です。エドワード王子暗殺の首謀者として知られてしまいましたから。オーサ公爵に肩入れする貴族がいますか?」


厳しい顔をしたジュードがブレイカーに意見した。ジュードは攻勢を強めて短期決戦するべきだと、前々から主張していた。

そこなんだよなとブレイカーは唸った。


「ナプルを包囲して一週間、援軍が来る様子は無い。近隣の貴族から支援を受けているなら、そろそろ到着してもいいはずだが」

「援軍がなければ、ミケントン軍はこのままナプルの町で自滅しますよ。ナプル町民も道連れに」

「最悪だな」

「ここは無理にでも城壁を突破して、町民を解放し、ミケントン軍を叩きませんか」

「一般人に犠牲が多く出るだろう。嫌だな」

「エドワード王子は、甘い」


ジュードはエドワードに厳しい。

甘い、と言われるのも何度目かである。

ジュードのキツイ視線を受けて、エドワードは目を逸らした。父親のマフマクン伯爵は話しやすかったが、息子のジュードはとっつきにくかった。


実際にエドワードにも自分が甘いという自覚もあるし、きつい選択についていけないこともある。そんな時はカルロスやマシューが肩代わりしてくれることが多かった。

こうして、自分の甘さを突きつけられるのは初めてなんだな、とエドワードは思った。周りに頼ってばかりで、それでなんとか生き延びてきたけど、そろそろ腹を括れってことか。

人の生き死にに関わることで、腹を括らされるの、キツイな。


ジュードの、早く決断しろよという視線が痛いが、踏み切れる決心がつかない。



結局、その日は結論には至らなかった。

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