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アイドル王子(自作自演)と、深窓の姫君(余計なコブ付き)の、【偽装結婚】?!  作者: 工藤 でん
第六章 いや、どうしてこうなった

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無能と無粋

今回はミケントン視点になります。


お母さーん、リアクションに顔がついたよ!

お赤飯大盛り……ああ、お母さんそれ。

鯛の尾頭付き。

お祝いが古……ありがとう!うれしい!

突然鳴った強いノックの音に、ミケントン領主代理は眉を寄せた。会議室でオーサ領の幹部たちと談笑していたところである。この屋敷の使用人に、ここまで不躾な音を立てる者はいない。



ミケントンとその幹部たちは、エドワード王子の寝所へ送り込む相手を決めていたところだ。今夜は金髪の小柄な少女に決定した。


エドワード王子が四六時中『金髪の小悪魔』と共にいると報告が上がっている。

エドワード王子に同性愛の噂は聞かないが、彼らの様子からして有り得ないことではないと結論づいた。

確かに彼らの距離は必要以上に近い気がした。背の低い『金髪の小悪魔』がエドワード王子の肩に手を当てて耳打ちしている姿は、媚びを売っているように見えなくも、なくもない。


ならば似たような容姿の女を用意しよう。さらにその女には、エドワード王子の寵を得られなければ、家族が離散するような設定を加える。

見るからにお人好しそうな王子のことだ。女の境遇に同情して、一晩の情をあたえることだろう。一度でも関係を持たせればこっちのものだ。妊娠をチラつかせて手網を取り、意のままに操ってやる。


その後はサミュエル王太子に引き渡せばいい。弟への遺恨を積もらせ続けている王太子だ。ありとあらゆる手段をもって恨みを晴らすはずだ。

そして、兄のオーサ公爵同様、ミケントンへの信頼も高まるに違いない。


そんな、完璧な計画を打ち立てたところだというのに。



ガンガンっとさらに激しくドアが叩かれた。一体この無礼なノックは誰だと扉を睨みつけたと同時に、バタンと勢いよく扉が開けられた。


入ってきたのは、背の低い金髪の男。エドワード王子の専属護衛、『金髪の小悪魔』だ。

他国からも恐れられる、戦闘と戦術能力の高い男だと聞いていた。しかし実際に会ってみると、何を考えているのか分からない、ぼんやりした男である。


そう、昨日まではぼーっとしていたのだ。


会議室に入ってきた『金髪の小悪魔』は、張り詰めた緊張感を湛えていた。歴戦の兵士が放つ緊張は、その場の空気を一瞬で引き締めた。ヒリヒリとした威圧感を感じる。


これは殺気かとミケントンは無意識に後ずさった。椅子の背もたれに太った体を押し付けたが、逃げ場がないことを確認できただけだった。対峙しただけで死がよぎる存在など、今までに出会ったことは無い。



マシューは室内を見渡し、静かに告げた。


「エドワード王子殿下が参られる。上座を空けよ」


ミケントンは身動ぎできないでいた。何を言われたか、理解ができなかった。

上座。上座を空けるとは……自分はオーサ領、領主代理であり、は領主代理は上座にすえられるもので、自分より上の者はここにはいない…………


マシューは真っ直ぐにミケントンに顔を向けた。もっさりとした金髪の向こうから、自分に向けて真っ直ぐに殺気が放たれていた。


()()()()()()()



マシューの腰に据えてある剣がカチャリと鳴る音がして、ミケントンは慌てて立ち上がった。左側に座っていた側近を退かし、椅子を確保した。しかし座ることは許されない。



颯爽とエドワード王子が入室してきたのだ。



いつもは爽やかな笑顔で、寛容な様子の王子である。町の女たちを虜にする人物は、人当たりがよく気さくに見えた。最近は慣れきって頭を下げることもしなくなった。


しかし、目の前の王子は違っていた。いつもの甘い笑顔はなりを潜め、硬質な無表情を張り付かせている。温かみのあったチョコレート色の瞳は、冷え冷えとした威厳に満ち、その目で辺りを見渡していた。


あからさまな王族の威厳に、ミケントンは震えを覚えた。

王族がいる場で呑気に座っているわけにはいかなかった。ミケントンもその部下も、立ったまま胸に手を当てて頭を下げる。許しが出るまで頭を上げることは出来ない。



チョロい、とタカをくくっていた。こちらの言いなりになる優男、くらいに思っていた。

その侮っていたエドワード王子は、紛れもなく王族の風格を備えていた。サミュエル王太子の前に出された時、いやそれ以上の威圧感があった。


昨日までの無礼を許されていたのは、エドワード王子の温情であって、認められていた訳では無い。冷えきった雰囲気が、そんな事実をまざまざと思い知らせてきた。



王族の威厳を保ったまま、エドワード王子は先程までミケントンが座っていた席に腰を下ろした。

肘掛に肘を落とし手の指を組む。優雅なようでいてその姿勢は、周囲に威圧を与えるものだった。


「ミケントン領主代理」

「は、はいっ」

「私をいつまで待たせるつもりだ」

「はい……あの……」

「オーサ領に来て二十日ばかり経つ。マフマクン伯への面会要請の返事はまだか」



ミケントンはいつものように誤魔化そうとした。「こちらからは何度も面会要請を入れているのです」「エドワード王子がいらっしゃっていることも伝えているのですが」「どうしてか向こうからは返事がなく」


…………大嘘だ。

そもそもマフマクン伯へ面会要請など出していない。それどころかマフマクン伯からの手紙はすべて握りつぶしている。

そうやって時間をかせいでいるうちに、既成事実を作ってしまおうとしていたのに。


威厳を露わにしたエドワード王子には、誤魔化しが効くようには思えなかった。冷や汗だけがねっとりと流れて行った。


「……先方から、返事が……」

「何度も聞いた。返事を寄越さないのなら、寄越すように仕向ければいい」

「ですが」

「私が領境へ向かうことも渋っていたな。私が動くことに問題があるのか」

「で、殿下に領境まで足をお運びいただくのは、恐れ多く……」

「私は気にしない。今からでも向かうぞ」


ミケントンは慌てた。

エドワード王子自らがマフマクン伯爵と対談となれば、自分が何もしていなかったことがバレてしまう。何もしていないどころか、マフマクン伯からの手紙を破り続けていたことが公となり、妨害工作と認定されてしまう。

非常にマズイことになった。

なんとかエドワード王子には思いとどまってもらわねば……!


「殿下、今一度だけ、お待ちください! 必ずマフマクン伯との面談を取り付けてまいりますから!」

「もう二十日以上待った。もう待たない」

「私が! 私がすぐにでも領境へ向い、マフマクン伯と話し合いを……」

「ミケントン」


感情の全くこもらない声がした。

エドワード王子の無表情が、自分への期待がゼロである事を理解させた。アイドル王子と世間で持て囃されている美貌は、感情を削ぎ落とすとゾッとするほど怜悧な顔立ちに映った。

何を言っても届かない、と思わせるほどに。



「私の手足とならぬ役人などいらない。

この場にいるオーサ領府高官は、自宅謹慎とする。私が許すまで謹慎せよ」

「王子殿下、それは横暴です! そんな権限は……!」

「私にはある。私はマフマクン伯爵反乱疑惑の調査責任者だ。オーサ領領主代理の手腕では、この事態は変わらない。

そのためお前たちを更迭するという判断に至った」

「そんなこと! サ、サミュエル王太子殿下が黙っていない!」

「兄上が私の行動をお認めにならないなら、止めに入るがいい。だが、今から王都へ連絡し王都より中止命令が入るまでの間、私の権限が優先される」


エドワード王子はその他にも裁断を下す。


今より領府役所の権限は、カルロス副官が受け継ぐ。カルロス副官の指示に従うよう徹底すること。

オーサ兵団は、現兵団長とブレイカー私兵団団長との二人の指揮下に入る。ただちに領境へ向かうための選抜隊を整えること。

オーサ領府高官は自宅謹慎、オーサ領兵の監視をつけること。



指示を終えたエドワード王子は身軽に立ち上がった。そのまま部屋を出ていこうとする。


ミケントンはエドワード王子に縋ろうとした。まだやり直せる、まだなんとかなると信じていた。


エドワード王子に触れようとしたミケントンの手は、『金髪の小悪魔』によって軽く払われた。ミケントンは「ひいいっ」と声を上げて、無様に床に転がった。

何気なく払った『金髪の小悪魔』の手は、固く尋常ではない力を感じた。



見上げてくるミケントンに向けて、エドワード王子はチョコレート色の瞳に僅かに感情を乗せた。それは分かりやすく、ミケントンに対する嫌悪だった。


「……私が嫌いなものは、二つある。

無能と、無粋だ」


床に座り込んだミケントンは呆然としたまま、背の高い王子の背中を見送った。

自分が無粋の限りを尽くし、無能を晒し続けていたことを、やっと悟った。


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