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アイドル王子(自作自演)と、深窓の姫君(余計なコブ付き)の、【偽装結婚】?!  作者: 工藤 でん
第六章 いや、どうしてこうなった

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そうです、私がエドワードです

どうしよう。またいいねもらえてる。

告ってみよう。好き。


「ひとつ、お聞きしてもいいですか?」

「はい?」

「あなた、この場では年少の方かと思うのですが、あなたが責任者ですか?」


少女から真っ当に質問されて、エドワードは初めて思い当たった。


通常は年長であるブレイカーが責任者に見えるものだろう。ブレイカーは見かけからして、ガタイはいいし貫禄もある。ブレイカーの手下二人は、ブレイカーに従う空気が自然と出来ている。


エドワードとマシューが異質なのだ。

マシューは常にぼーっとしており、傍から見て何を考えているか分かりづらい。

エドワードは誰かの下についた経験がほとんどない。ブレイカーですら、野次を飛ばしたりからかったりはするが、エドワードを立ててくれている。

傍から見ると、おかしな関係に見えるのか。


言われなきゃ分からないもんだなと、脳に刻み込んでおく。


「察しの通り、この中では俺が責任者にあたる。君の身の安全は保証しよう」

「……それは、信用できるの?」

「そもそもこいついれば、どんなヤツ来ても撃退できるし」


エドワードが女装のマシューを指させば、その手をすぐに叩き落とされた。無駄に痛い。


手を抱えて唸っているエドワードから、少女はマシューに目を向けた。

襲われていた時に、助けに入ってくれた金髪の女の子かと思う。キョトンとした大きな目で唸っている男を見ているが、あの時の超人的な働きをした同一人物には見えなかった。


あの時の金髪の女の子の動きは、とても人とは思えなかった。踏み込みの速さといい攻撃の多様さといい身体の使い方といい……マフマクン領の騎士たちの中でも、あれ程の技量の持ち主は見たことがない。

確かに彼女がいれば安全だと、少女は思う。

それにどうやら、治療費として渡した指輪から、身元がある程度バレたらしい。


「……命を救っていただいた恩もある。話せることは話そう」

「うん」

「話すからには、できれば手を貸していただきたい。うまく事が進んで私がマフマクン領に戻ることが出来れば、この度の礼を返すことができる。それは約束する。

……私はマフマクン伯爵の、護衛騎士の娘だ。名はカリンという。歳は十九だが、マフマクン領の騎士免許は取得済みだ」


エドワードはマシューと目を見合わせた。

マフマクン伯爵に近い人物の娘。接触を計りたいが手段がなくて、手をこまねいていたところである。マシューのカンは、この娘だから働いたのか。


カリンは紅茶色の瞳で、エドワードを見据えた。


「E氏も町を見ただろう。ご覧の通り、オーサ領は疲弊している。オーサ公爵の圧政のせいだ。

重税に苦しんだ農民が、少しでも稼ぐために町に出稼ぎに出る。だが町には仕事などほとんどない。

町に仕事を求めてやって来た農民が、町に仕事がないとわかったら、どうするか分かるか」

「……村に帰る」

「そうだ。だが村で畑を耕すだけでは生きられない。そんな農民はどうするかわかるか?」

「…………」

「土地を捨てて逃げるんだよ。少しでもまともな土地へ。

今、マフマクン領が最も対策を求められているのは、オーサ領から流れてくる難民だ」


カリンの言葉にエドワードは眉をひそめた。お飾りとはいえ国の中枢で仕事をしてきたエドワードだが、マフマクン領への難民の話など聞いたことがない。そもそもここに来るまでオーサ領がこんな統治をしている事も知らなかった訳だが。


情報が入ってきていない。もしくは何らかの力により、情報が遮断されている?



「……難民は、どれほどの規模になっているんだ?」

「領境近くの町や村で保護している人数だけでも千人以上に上る。その他にも入領している者もいるだろうから、かなりの数だ。マフマクン伯はできる限り支援をしているが、マフマクン領だって無限の財源がある訳では無い。さらに――」

「さらに?」

「食い詰めてきた人間が、マフマクン領の裕福な町の様子を見て、正常でいられるわけはないだろう。難民は、強盗となり殺人を犯す。

だからマフマクン伯は、領兵を領境に置き、警戒しているんだ」


マフマクン兵は領内に難民が入り込まないよう、領境を警戒する。マフマクン領の秩序を保つためには当然の措置だ。

マフマクン伯が軍備を整えている、という情報のソースはこれか、とエドワードは思い至った。オーサ公爵が流した噂である。オーサ公爵の圧政に原因があるというのに、面の皮の厚いことだ。



オーサ公爵の情報だけを鵜呑みにして、マフマクン伯の領兵の配置を見れば、領地侵犯の疑いをかけることは容易い。マフマクン側の事情を知らなければ、領境に布陣するマフマクン領兵は、威圧的に見えるだろう。

エドワードは、兵を撤退させるための軍事行動を起こす判断を下したかもしれない。


そこまでオーサ公爵が狙っているかは不明だが。


カリンは眉をひそめながら淡々と話す。


「オーサ領にも、国にも、マフマクン領の困惑を訴えているが、まったく返答がない。それどころか、エドワード第二王子がマフマクン伯へ諮問に来るという情報まで入ってきた。

あの、エドワード王子だ。ここ数年だけでも数多くの大仕事をこなしてきた、エドワード王子だ。あの王子によって、領地侵犯についての下問が行われるそうだ」

「…………」

「エドワード王子がオーサ領へ入ったことは分かっているが、王子からの出頭の要請は来ていない。オーサ領へ問い合わせてもナシのつぶてだ。

マフマクン伯はエドワード王子の今までの手腕を評価している。エドワード王子は公正に判断はされるだろうが、オーサ公爵からありもしないことを吹き込まれている可能性は大いにある。

そこで、極秘任務が発令されたんだ」

「……なんだ?」

「オーサ領府内に潜り込んで、秘密裏にエドワード王子と接触し、真実を訴える。マフマクン伯に二心はないとお伝えする。

我々はその部隊の一つだ。

私が殺されかけたのは、私がマフマクン領兵だと、オーサ領兵に勘づかれたからだ。

オーサ領兵は、我々がエドワード王子と接触したいという意図を見越して、マフマクン領兵を警戒している」


私は部隊とはぐれてしまったが、と悔しそうにカリンは目を伏せた。



しばらく、沈黙が流れた。



耐えられないように沈黙を破ったのはブレイカーである。口元がむずむずしているのが見て取れた。

あ、面白がってる、とエドワードはブレイカーの心中を正確に見通した。本当は笑いだしたくてたまらない顔だ。

ブレイカーはぽん、とエドワードの肩を叩いた。


「おい、かましてやれよ」

「……俺がか?」

「それが一番、面白い」

「いや、面白いって理由だけで俺が口火切るの、なくない?」

「いいや、ありだな」

「あり」


マシューまで頷いた。人前に出ると表情の読みにくいマシューだが、口の端がひくついていた。面白がっている。

つまり、かませ、ということだ。



露骨に嫌な顔でブレイカーとマシューをじと見したが、二人とも確実に傍観に徹する構えだ。助けは期待できそうにない。

ほら早くやれと、深刻そうな顔だけ作ってけしかけている。


俺だって傍観してたいよ、と渋々エドワードはカリンに向き合った。本人がやるのが一番小っ恥ずかしいというのに。

だが、カリンの信用を得る、またとないチャンスでもある。


カリンは緊張しているのか、血の気が引いて頬が白かった。かなり踏み込んだ情報を提示した。裏目に出れば、このままオーサ領兵に突き出されて、殺される。覚悟を決めた気配がしていた。



エドワードはカリンの紅茶色の目を見ながら、すぐに信じてもらえると楽なんだけど、と脳裏で呟いた。



「君の事情も聞けたことだし、俺もちゃんと名乗ることにする。

俺の本当の名前は、エドワードといいます」

「……エドワード王子と、同じ……?」

「正式には、エドワード・オグ・ヴィヴィン。スファルト王国第二王子。王位継承権は四位にあたる。

絵姿は国内で広く販売されてるから、国民にはよく知られてると思うけど?」

「え?……え?」

「オーサ公爵より依頼を受けて、マフマクン伯爵の反乱疑惑を調査しに来た。二週間前からマフマクン伯へ面会の要請はしているが、返答は来ていない。

今は下町の様子がおかしいので、変装して査察中。もちろん、ミケントン領主代理には内密にだ」

「うそ……」


呆然とするカリンの様子を見て、ついにブレイカーと手下二人が吹き出した。遠慮のない笑い声にカリンがさらに困惑している。

マシューの口元も、にやーりと歪んでいる。楽しんでいるらしい。

そんなマシューを、エドワードが振り向いて見せた。


「こっちの、金髪の女子に見える奴は、こう見えて男。俺の専属護衛のマシュー」

「え? ええっ?

エドワード王子の、専属護衛って。

あの、兵士の間で噂の絶えない、『金髪の小悪魔』……ですか」

「お、マシューの二つ名知ってた。さすが騎士」

「『金髪の小悪魔』に、なんで女装させてんですか!」

「変装が絶対バレないから。

言っておくけどその言葉、そっくり君にお返しするよ」


カリンはハッとして髪に手を当てた。少年兵に成りすまして領府に忍び込む作戦で、切ったばかりの髪だ。性別を変えればバレにくく融通が効く。そんな打算での変装だった。


今目の前にいるマシューは、翠の目の大きな可愛い女の子にしか見えない。確かに正体を隠すには最適な方法と言えるが。


いや待て、とカリンは気づいた。

マシューのことは一先ず置いておいて。


エドワード王子は、とんでもない美形のはずだ。絵姿のエドワード王子は、物語のヒーローのような、女性の憧れのイケメンだ。

目の前のエドワード王子と名乗る男は、見かけは下町の冴えないにーちゃんでしかない。カリンの持っている絵姿とは似ても似つかない。確実に別人だ。


「見た目が! エドワード王子の絵姿とは別人じゃないですか!」

「あれはね、城に向かう度に特殊メイクをほどこしていてね」

「特殊メイク!」

「見たら早いんどけど、今メイク道具ないし」

「あるぞい」


老婆が懐から色々取りだしていた。アイブロウ、アイシャドウ、口紅、ハイライトもある。浅黒いしわくちゃの老婆がこれらを使っているとは思えないのだが。


マシューがさっそくエドワードの顔を塗りたくり始めた。「口紅はやめろ、絶対!」とエドワードが懇願している。老婆が使ったと思しき口紅には抵抗があるようだ。


というか、『金髪の小悪魔』がメイクするの……? しかも手馴れてる、早い……。


ものの数分でアイドル王子の顔を作り上げたマシューは、勢いよくエドワードの顔をカリンに向けた。首がごきっと鳴った。


「痛ってーな、マシュー!」

「ファンデ、色合わないから、目鼻中心の簡易メイク」

「おいマシュー。俺に対する謝罪は」

「その前に首の柔軟と、首の筋肉鍛えとけ。

描けた。アイドル王子」

「…………嘘」


カリンの目の前には、マシューに文句をつけるイケメン王子がいた。顔が全体的にキラキラしている。細かった目が大きくなり、鼻筋が通っている上に、薄い唇には少し色気が漂っている。キリリとしながらも甘い雰囲気を感じさせる男性だ。


何度も絵姿で見ていた、あの。


「……本当に、本物のエドワード王子、なんですね」

「信じてくれた?」

「嬢ちゃん、やるなあ。領府役所に忍び込まなくても、ここで本物掴んだな」


いい引きしてるぜ、とブレイカーがニヤリと笑った。




いい引きしてるのは、カリンなのかエディなのか。ダークホースでマシューってことで、いいね?

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