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エドワード王子情報

スファルト王国首都リュタまでは、馬車で半月ほどの距離であった。ラヴィリアは揺れる馬車の中で己のお尻の痛みと戦うのみで、順調に旅程をこなしていた。首都のリュタまではあと半日ほどだ。


スファルト王国は穀倉地帯が多い。馬車の窓から見える景色は麦畑が多かった。これだけの国土で麦を作れば国民が食いっぱぐれることはないだろう。山岳地帯の多いマリ王国では耕作部が少ないため羨ましい限りである。


馬車にはカナメが同乗している。別邸にいた頃はありとあらゆることをしなければいけなかったため常に働いていた様子だったが、移動となると仕事にも限りがあり時間を持て余しているようだった。それはラヴィリアも同様で、車内でうとうとしているか爆睡しているかのどちらかで、目が開いている時間の方が少ないような状況であった。

ブラッドはといえば護衛だからという理由で馬車と並走しながら馬上の人となっている。ブラッドでも態勢を取り繕うという気遣いくらいはできるらしい。マリ王国出発前に黒毛の馬を連れてきた。ラヴィリアがブラッドって馬に乗れたんですねと、黒い馬に近付いた――途端に、馬は前足をバシバシと踏み鳴らしながら鋭く並んだ牙を向けてきた。ブラッド曰くラヴィリアに近寄れて嬉しい馬の反応らしいが、ラヴィリアの認識では牙が生えている馬は馬とは呼ばない。よく考えたらブラッドを平気で背に乗せる馬がいるはずがない。

馬ではない生き物に乗ったブラッドは素知らぬ顔で、護衛っぽい顔をしながら馬っぽい何かを走らせていた。



さすがにあと半日で王都に着くのだからと、ラヴィリアは頭の中でかき集めた情報を整理することにした。カナメが王都より取り寄せたスファルト王国の資料と、ブラッドが実際にスファルト王国首都リュタとマリ王国の王宮に潜入して得た情報。これがラヴィリアの情報の全てだ。



まずはスファルト王国の王家の構成だ。国王のアーネスト陛下とミシェル王妃。この二人の子供が第一王子サミュエル王太子と第一王女マリアンヌ王女。さらに王弟マキシウエル殿下がいる。マキシウエル殿下は王国騎士団の総裁を務めている国の幹部だ。王位はサミュエル王子が継ぐべきと公言しているが、王位継承権は三位を持っている。


ここでやっかいなことをしたのが国王のアーネスト陛下である。アーネスト陛下は王宮に商売に来ていた商売人の女性に手を出した。しかも女は王の子を孕んでしまった。王は自分の子を孕んだ女を別邸で囲い、生まれた子供を自分の子として王家に組み込んだ。その商売人の女性の子供が、エドワード王子ということになる。


王位継承権はどうなっているのか、とラヴィリアはカナメが作った表を思い出した。



王位継承権 ()内は年齢

第一位 第一王子サミュエル王太子(25)

第二位 第一王女マリアンヌ王女(29)

第三位 王弟 マキシウエル殿下(50)

第四位 第二王子エドワード王子(20)



(エドワード王子は王家の中では立場がとても弱い)


半分は庶民の血なのだから、当然だ。後ろ盾も持っていないだろう。

そこに嫁ぐマリ王国の王族のラヴィリア。マリ王国も明らかに軽んじられている。


ブラッドが仕入れたマリ王国の状況も照らし合わせた。二年前に起こったパルカ王国との戦争で大量の糧食が必要となり、スファルト王国から大部分を輸入したらしい。しかしパルカ王国と賠償の交渉は思ったように上手くいかず、糧食の代金はまだ未払いで――


(妹を嫁に出すから支払いは少し先延ばしにしてほしいとか………………あのバカお兄様ってば!)


人質兼担保とか、ちゃんと説明しなさいよ!

とは思ったものの、ラヴィリアも生活が行き詰まっていたのだからこの縁談は避けようがなかったのかもしれない。



スファルト王国での自分の立ち位置は大体分かった。目立たずにいれば影を薄くして静かに過ごせるかもしれない。衣食住が確保されて穏やかに生きられればラヴィリアとしては何の問題もない。しかし、ブラッドのスファルト王国首都リュタの報告を聞くと、胃に穴が開きそうになる。


リュタの街を出歩くとマリ王国では見られない光景があるという。女性が群がる小さな商店がいくつかあり、そこで商品が飛ぶように売れている。エドワード王子の絵姿を売る店だった。その日は新作が発売されたらしく、若い女性の群がり方が尋常じゃなかったそうだ。あのまま放っておけば死人が出るんじゃねえか?と半笑いのブラッドが新作エドワード王子の絵姿をラヴィリアに渡しながら話していた。

絵姿は、剣を片手に振り返る全身姿だった。眼光鋭くこちらを見据える姿は、武人として威厳に溢れたように描かれている。頑強で人を寄せ付けない武人風に描かれた姿は、女子だけでなく男子をも惹き付ける憧れの具現化のようだった。実際に男性の購買客もいたようだ。


ブラッドは実際に王宮へ馬で向かうエドワード王子を見かけたらしい。馬上でにこやかに手を振りながらゆっくりと進むエドワード王子の人気は尋常ではない様子で。道路は人でごった返しエドワード王子を呼ぶ女性の黄色い声がうるさかった、とブラッドは興味無さそうにこぼした。エドワード王子は国民、特に女性に絶大な支持を受けている王子様ということになる。

ラヴィリアは軽く目眩を起こした。

このままでは大人気王子の嫁になってしまう。そんな女って、女性の敵みたいな扱いにならないだろうか?



エドワード王子がそこまで人気になった理由。

これにはカナメがくわしかった。


「まず有名なのが魔獣退治ですね」

「魔獣、ですか」

「国中だれも退治できなかった魔獣をエドワード王子率いる軍が退治したのです」

「お強いのですね」

「はい。

さらに最前線の砦の修理も有名です。パルカ王国との国境沿いで常に緊張をはらんでいる砦の修復を、短期間で実行してしまったのです。パルカ王国との小競り合いもすべて指揮をとって撃退したそうです」

「……はあ」

「魔法使いのようだと称賛されたようですよ。

そのあと特筆すべきは、王都に近い古い港の修繕ですね。小さくて使い勝手の悪い港だったそうなんですが、エドワード王子の采配により見違えるようなよい港になったそうです。勢いを伸ばしているスファルト王国の発展に大いに貢献したと評判ですわ」

「…………はあ」

「多大なる功績の褒章を、アーネスト王自らがエドワード王子に与えたと聞いております。

何をやらせても完璧! スマートで実力のあるイケメン王子様ですわ!

……いかがいたしました、ラヴィリア様。顔色がお悪いですよ」

「気にしないでカナメ。現実についていけないだけ」




……いや、なんだこの完璧超人。強くて仕事できてイケメンで王子様って、これはもう人じゃないわよね? いえ、だから絵姿が飛ぶように売れるわけですか。

と、ラヴィリアは情報収集した我を褒めろと言わんばかりに擦り寄ってきたブラッドの頭をイイコイイコと撫でながら、目を糸のように細めていた。ラヴィリアに触りたくて触れないブラッドの手がわしゃわしゃと蠢いているが綺麗に避けている。


輿入れしたら影をひそめて静かに生きよう、という目的と正反対な人物が夫になるようだった。目眩が酷い。胃が痛い。

ラヴィリアは片手で自分のおなかを押さえた。


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