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アイドル王子(自作自演)と、深窓の姫君(余計なコブ付き)の、【偽装結婚】?!  作者: 工藤 でん
第六章 いや、どうしてこうなった

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治癒魔法士

あらやだ。

また、いいね貰えてたわ!

ありがとうございます!

お赤飯が連続しちゃう。

――治癒魔法士。


治癒魔法士とは、魔法を使って治療を行う専門の職種である。治癒魔法は通常の医者とは違い、短時間での治療が可能なため『奇跡の技』とも言われている。


スファルト王国では、王国軍の衛生部隊に所属している。高度な魔法なため民間で活用されることは少ない。軍内の治療を行う衛生部隊の中でも、治癒魔法士は精鋭とされていた。


そもそも治癒魔法に適した魔力を持つ者が極端に少ないのだ。『治癒魔法に適性有り』を判断された者は、身分を問わずそのままエリートコースに乗ることになる。強制的に魔法学校に入学し、治癒魔法士としての技術を授けられる。

年に一人か二人出ればいい方、と言われるほど、希少な人材だ。



そんな、貴重な治癒魔法士が。


「なんでこんなとこで、闇医者やってんの!」

「色々あんだ、わしにもよう」

「国は治癒魔法士を手厚く保護してる。そこに乗っかれば生活に不自由することないのに!」

「わかってら、そんなこと」

「今回は、あなたがいてくれて助かったんだけどさ。

こんな貴重な能力が、こんなところで埋もれてるなんて、もったいない」

「おお、おお。ありがとよ。礼ならおめーの接吻でも構わねえぞ」


老婆は遠慮なく、浅ぐろいしわくちゃの唇を尖らせてエドワードに近づいてきた。慌てたエドワードは勢いよく両手で口を押さえて後退した。

危うく奪われるところだった。


ベッドでもぞりと動く気配がした。

治療を終えた少女だ。

上体を起こし、不思議そうに腕にあった傷や背中を覗き込むようにしている。少女の怪我は綺麗に塞がり、切られた跡が赤く細く残っているだけだった。


これが治癒魔法か、と少女を見ながらエドワードは思った。

エドワードも、治癒魔法を目の前で見るのは初めてのことだ。不思議な光と共に、あっという間に傷が塞がってしまった。少女の様子では痛みも消えているみたいだった。

切られたはずの肌は綺麗で、血を拭いさればほぼ元通りだろう。ベッドにいるのは、女性らしい滑らかな曲線の…………


エドワードは慌てて自分のシャツを脱いで、少女に手渡した。目は逸らしているつもりである。

何せ彼女の服は血だらけな上に、応急処置のために切り裂かれてしまっている。治療のためにベッドにあった毛布もどかしてしまっていた。

肌を隠すものが何も無いのだ。他に渡せるものがなかった。



オーサ邸から抜け出すのに少し時間がかかった。そのため、エドワードは変装した際に急ぎすぎて、素肌にシャツを着込んだだけだった。もう一枚着ておけばよかったと今更思う。

シャツを少女に渡したエドワードは、半裸であった。



それにしても。

ちょっとヤバかった。

――少女の露出した胸に、目が釘付けになるところだった。


人助けの一環だけど、これもラヴィに怒られる案件だろうか。

……うん、絶対だめだ。絶対バレちゃマズイ案件だ。カケラも悟られてはいけない案件だ。

てか俺、ラヴィに秘密にしなきゃいけないこと、増えてねえか?


ラヴィリアの顔を思い出しながら、エドワードは恐怖に慄く。美人の怒り顔は、迫力が段違いだ。想像しだけで、見えないナイフを首元に突きつけられているくらいの殺気を感じる。つまり、めっちゃ恐い。

後でマシューにも口止めしないと……



唐突に、エドワードは裸の自分の背中をゆっくり触れる指を感じた。怖気と共にゾワゾワっと鳥肌が立った。記憶が確かなら、そこはかつて大怪我を負った場所だろう。

老婆がエドワードの背中を、面白そうに指でなぞっていた。


「へえ。これとこれは、七、八年前の傷。これは五年ほど前かのお。ほお、この傷が一番やべえな、内蔵までいってんじゃねえか? よく生きてたな、ボウズ。へっへっへ」

「やめろっ、何すんだ、ばーさん!」

「傷跡見りゃあ、どんな怪我だかすぐわかる。医者の腕もな。この傷なんかヤブ医者じゃろ、へったくそめ」

「傷をなぞるな、気持ち悪い!

やめろって、そこ、こそばゆ……

もうやだ、 M(マシュー)、助けて――――!!!」


エドワードの悲鳴で入室したマシューは、入った瞬間に張りつめていた緊張を解いた。研ぎ澄まされた俺の緊張を返せ、と思った。


大怪我をしていたはずの少女は、エドワードのものらしいだぶだぶのシャツを着てベッドでキョトンと座っている。一方シャツを脱いだエドワードは、不気味な笑い声を上げる老婆に部屋の片隅まで追い詰められ、裸の背中をいじられて悶えていた。


誰か状況説明しろよ、と呆れながら思った。






ブレイカーの手下がシャツを調達してきて、ようやく落ち着いたエドワードである。それまで老婆にはさんざん背中をいじられた。


しかもマシューが、エドワードの背中の傷を指しながら、どんな傷だったか一つ一つ説明していた。

これは矢がぶっ刺さってできてー、これは二刀流の刺客に隙をつかれてー、という調子だ。老婆は説明を聞きながら「ほうほう」と非常に楽しそうだった。


エドワードの身体は、かつての暗殺者たちの仕事により、大小の傷だらけである。マシューの超人的な働きがあっても、刺客をすべて退けられていたわけではない。一度は本当に死にかけた。エドワードの身体は綱渡りの人生の証であった。



服を渡されたエドワードは、しっかりとシャツのボタンを首までとめた。いつもは首元は緩めているエドワードだが、もういじられてはたまらない。布地一枚でも防御を固める。


エドワードは自分のシャツを着た少女に目を移した。短い薄茶色の髪と紅茶色の目をした少女は小柄で、ダブダブのシャツに埋もれて見えた。



「名前、聞いていい?」

「……K」

「うん、そうだよねー。俺だって今、Eって呼ばれてるもんねー。できるだけ情報は出し渋りたいよねー」

「……」

「だけど、助けたからには、事情を知りたいのは、分かるよね」


エドワードの問いに、少女が身を縮めるのがわかった。

訳ありなのは、見ていればわかる。少年兵に変装してオーサ兵に追われていた少女だ。何かしらの理由がなければ、そんな事態には陥らないはずだ。

だが助けたからには事情くらい知りたいし、マシューのカンが少女を差している。



エドワードはもう一度少女に問いかけた。


「……なんで兵士に追われていたのか、聞いてもいい?」

「……」

「君、男装して追われてたくらいだから、訳ありだよね。信用出来る人じゃないと話せないかな。

……それは、よく分かるんだけどさ。そもそも俺たちがすごーく悪い奴で、君を使って悪どいことやろうとしたら、もう君はとっくに酷い目にあってるよ。今現在酷い目にあってない、ということで少しは信用してくれないかなあ。

ね、B(ブレイカー)

「まあな」

B(ブレイカー)がもし悪いヤツなら、この子どうしてる?」

「そうだな。見ての通り俺はすごーく良い奴で、悪どいことなんて想像しかできないことだけど?

もしも、俺が相当悪いヤツだった場合な」

「前置き長い」

「うるせえ。

……定石としちゃあ、これだけ若くて美人な女だし。まずは裸にひん剥いて、犯す。何日かこの場の全員で犯しつくして、飽きたら捨てるか女衒(ぜげん)に売り飛ばすわな。

そうなってたら、悪い奴らに付き合わされて、 E(オージ)もここで『初めて』を体験できたわけだ」

「初めてとかっ……余計なこと言わんでいい」

「こいつはさ、なんだかんだで甘いやつだからよ。嬢ちゃん、信用しても大丈夫だぜ」


少女は警戒したようブレイカーを見つめ、エドワードに目を移した。風采の上がらない冴えない男のように見える。


だが、気を許してもいいのでは、と思わせる男ではあった。怪我の痛みで気が遠くなりそうな時に、ずっと声をかけ手を握っていてくれた。治療の時にもいて欲しいと思った。それが信用なのかは分からない。


少なくとも、物事を受け入れる余地のある人間ではないかと思わせた。こちらを見る目が、どうにかなんないかなあと、本当に困ったように見えるからだ。


「あのよお」としわがれた声がした。

老婆がシワの深い手の中で、金色の指輪を転がしていた。少女が治療の報酬として渡した指輪だ。厚みのある高価そうなものだった。


「この女、マフマクン伯爵の手下だぜ」

「は?」

「指輪の内側によお、マフマクン伯の紋章が小さく入っとる。指輪の価値はそこまで高くはねえが、紋章付きだから治療を引き受けたんだ」

「……紋付の指輪を渡されるのは、身内か側近だろうな」

「おうよ。これを使ってうまくすりゃ、ゆすってたかれんだろ。美味い汁は吸い尽くさなきゃあな」


げっひゃっひゃと老婆は笑い声を上げた。



少女が最も隠したかった秘密が、老婆によってあっけなく暴かれた。


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