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アイドル王子(自作自演)と、深窓の姫君(余計なコブ付き)の、【偽装結婚】?!  作者: 工藤 でん
第六章 いや、どうしてこうなった

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闇医者

大変です!

いいね、いただいてました!

ありがとうございます!励みになります!

お赤飯炊きます!

ブレイカー私兵団は、生粋のゴロツキである。荒んだ町に馴染むのが早く、町も彼らを受け入れやすい。


傷だらけの少年兵の救護が必要と判断したブレイカーは、すぐに空き部屋を探し出しベッドを確保した。ブレイカーの手下が少年兵を担ぎ、空き部屋に運んだ。騒動の後処理は何度もやっている男たちである。手馴れたものだった。


マシューが倒した兵士たちは、全員昏倒させた。彼らはブレイカーの指示で貧民街の外に放置することにした。

貧民街から出してしまえば、貴族街の衛兵がいずれ気づく。



少年兵は意識はあるが、朦朧としているようだった。短く切られた薄茶色の髪が額に張り付いていた。熱も出ているようだ。

細かい物を含めると十箇所以上の傷がある。背中の切り傷がいちばん酷かった。

ブレイカーが懇意にしているという娘が、医者を呼んできてくれるという。それまでに応急処置をしておきたい。



「おい、シャツ切るぞ」


うつ伏せで寝かせている少年兵に一言かけて、マシューが一般兵士に支給されているベージュの兵隊服を切り裂いた。血でべったり汚れたシャツを剥がすと、その下には包帯のようなものが現れた。胸の当たりをぐるぐる巻きにしている。

もともと手負いだったのか、とエドワードは思ったが、マシューは黙って包帯も切り裂いた。「やめろ」と少年兵の高い小さな声がした。

包帯にしては幅広い布だ。やはり血を吸ってどす黒いような赤になっていた。それを剥がすために少年兵の体をブレイカーが持ち上げた。マシューがすぐに包帯を剥がしにかかった。


二つの双丘が、ぽろんとこぼれ落ちた。


「いやっ」と声を上げ少年兵が胸を隠そうと抵抗するのを見て、エドワードは目を見開いた。


「え? 女?」

「お、E(オージ)には刺激が強すぎたか」

B(ブレイカー)、女の子だって気づいてたの?!」

「まあな」

M(マシュー)は? 」

「シャツ脱がしたとこで、確信」

「なんで? どこでわかった?」

「「「 経験の差 」」」


その場の男全員に、声を大にして言われた。



ちくしょうと、エドワードは心の中で毒づいた。

なんだよみんな、当たり前みたいに。

そりゃ、そういう経験、ないけどさ。


ちろっと、横目でスカートを身につけているマシューを見る。おいこらマシュー、お前もか。



うつ伏せにしてじっとしてろ、とブレイカーの声がした。マシューが少年兵……少女に布を噛ませ、体を押さえつける。足の方はブレイカーの手下が押さえている。ブレイカーは酒場から持ってきた酒を口に含み、少女の背中の傷に向けて勢いよく吹き出した。


「ううううっっっ!!」

「痛えよなあ。よく我慢した」

「血が止まらない。圧迫してた方がいい」

「医者は? すぐ来れんのか?」

「わかんねえ」

「他の傷も、汚れ落とせ。消毒する」


布で押さえた背中の傷口から、ジワジワと血が流れ続けていた。少しずつ体力が、命が削られていく。少女が目に見えて弱っていく。



エドワードは、リアルに少女の状態を想像することが出来た。自分も似たような状態に陥った事があるのだ。痛みなのか熱さなのかも分からない、衝撃で朦朧となる意識。


刺客に襲われて怪我を負うことが、度々あった。マシューも自分も未熟だったと、今なら思う。死ななかっただけ、儲けものだった。


死にかけたエドワードに、駆けつけたカルロスと、刺客とやり合って怪我を負っているはずのマシューの二人が、声をかけ続けてくれていた。

『死ぬな』『起きろ馬鹿』『目え覚ませ』とか、『頼むエディ』『生きなさい』『ごめん』とか、かけられた言葉を断片的に覚えている。だから死ななかったのだと思う。



エドワードはしゃがみ込んで、痛みに耐える少女に声をかけた。涙に濡れた少女の瞳は、紅茶の色をしていた。


「死ぬな。大丈夫だから。死んだらだめだ」

「……」

「必ず助かる。信じて」

「……」

「明日はちゃんと来る。明日のために、今頑張れ」


紅茶色の瞳は驚いたように見開かれた。その後、少女は頷いた。

中指に指輪をした少女の手がエドワードに延びてきたのを、エドワードは躊躇いなく握った。

医者が来るまでの間、エドワードは少女の手を握って、何度も声をかけ続けた。





到着した医者は、医者にはとても見えなかった。

連れてこられたのは、薄汚れた服を重ね着した、老婆だ。背骨は九十度に曲がり、杖というより棒切れをついてやって来た。ボサボサの白髪は自由奔放に跳ね、何のまじないか、がらくたを繋げたようなネックレスや腕輪を何本も付けている。シワだらけの顔は浅黒く、口はへの字に結ばれていた。

町の怪しい呪い師、と紹介された方が納得感のある風貌だった。


ブレイカーが、知り合いという女性の耳元に口を寄せて尋ねた。


「……本当に、医者か?」

「ちゃんとしたお医者の先生が捕まんなくって、友達の知り合いの従兄弟のお父さんの知人から紹介されたのお」

「まあ、医者だったら構わないんだけどよ。ありがとな、手間取らせた」

「ねえ、ビート、お礼なら今夜」

「わかったわかった。また、な」


ブレイカーが女性の頬にキスをして、帰らせようとしていた。女性が不満そうにブレイカーの首に両手を絡めた。身体はぴっちりと密着している。煽情的な仕草が板についた女性だ。


それを見ながら、エドワードは思う。


なんでいつもいつも、ブレイカーってあんなにモテんだ? ていうかビートって誰だ偽名かうわあーディープなキス始まちゃったよ場を弁えろよ普通に腹立つ……。



キスの後に女性の尻を撫でながら部屋から出るブレイカーを無視して、老婆がカツカツと杖を鳴らしながら、エドワードと少女の方へ歩み寄ってきた。目は白く濁り、あまり見えていないようだった。


「患者は、これかっっっ!!!」


声がでかい。



老婆は少女の顔に自分の顔を近づけた。

少女に声をかけ続けていたエドワードが、一歩引いた。

なんだかものすごく圧迫感があった。


「わしゃあ、闇医者じゃ。はした金じゃ治療はできん。おめー、いくら払える」

「…………」

「周りのおめーらは払えんのか。ざっと見たところ、傷くっつけて血ぃ止めて毒消して熱止めにゃならんだろ。全部で金貨二百枚」

「ぼったくりか!!」

「あたりめえだろーが、ナメてんじゃねえ!

闇医者は闇医者のルールがあるんだわい」

「自分に都合のいいルールだろうが」

「何が悪い。わしゃあ安くはねえが、仕事はするぞ。

おら、払うのか払わねえのか、今決めな。さっさとしねえと小娘が死ぬぞ」


エドワードは身動きが取れなかった。

お金に関しては全く支払える気がしない。自由に使える金が、金貨二百枚あるはずがない。把握している金額は、桁が一つ下だ。


……ブレイカー私兵団に回している金の一部を、一時的に治療費に回す……この前また団員が大幅に増えたばっかだ、マズイ……ノース港自警団は……ただでさえ安く雇っているのにさらに減額は、無理、キースのキレ顔しか浮かばない……母ちゃんに借金……金の動きでまた母ちゃんに危険が及ぶかも…………。



思案に暮れているエドワードの右手が少し動いた。ずっと繋いでいた少女の指が動いたのだ。中指には金色の指輪があった。

エドワードにだけ聞こえるくらいの声で「使って」と囁かれた。紅茶色の瞳が瞬かれた。


エドワードは少女の指輪を抜き取り、老婆に差し出した。


「これでどうだ、ご老人」

「んあ? なんじゃあ、指輪か。金貨じゃねえのか。

……ほーう、これはなかなか良いもんじゃ。なるほど」

「治療費になるか。あんまり俺も蓄えはないんだ、頼むよ」

「まあ、ちいと足りねえけど、後で補填させてもらうかね。

……つーか。おい、おめえ」


老婆の濁った目がエドワードを覗き込んだ。ボサボサの白髪が顔に触れるくらい近づいてきた。

ひいっと悲鳴を上げかけて、エドワードは仰け反った。声が出なくてよかった。老婆の機嫌を損ねてはまずい。


「おい、おめえ、いい男だな」

「え?」

「近頃見ねえいい面構えだ。そこで接吻かましてたチンピラより、よっぽどいい」

「俺が? いい面?」

「わしがもうちーっと若かったら、今夜にでも夜這いに行っとるわ。超絶技巧で一滴残らず搾り取ってやるんだが。かーっかっかっか」


老婆は黄色い歯を見せて哄笑した。何本か抜けているのが見えた。

急に上機嫌になった老婆を、エドワードは完全に引いた目で見た。存在が、訳が分からなかった。



大丈夫か、このばーさん。

しかも今の俺がいい男って、どういう事だ。

ガチのスッピンで、らぶきゅん王子じゃないっての。


機嫌のいい老婆はトンと杖を鳴らした。


「いい男の頼みじゃあ、断れねえ。きっちり代価はもらうがね。

いいぜ、治療しよう」


老婆の治療が始まった。





老婆の指示で、患者以外全員外に出てろ、と部屋を追い出された。例外がいる。エドワードだ。


少女がエドワードの手を離さなかったのだ。

老婆が「手ぇ離せボケェ!」と何度言っても少女はエドワードの手を握り、首を横に振り続けた。

老婆は忌々しそうだっが、エドワードの同席を許した。老婆のお気に入りだったのも影響したかもしれない。

エドワードも困惑していた。


「かなりの重症だからよ、完治はできねえぜ。金も足りねえしな」

「仕方がない。できる全力で頼む。

……俺、素人だから詳しくないけど、傷塞ぐのに助手とかいらないの?」

「ああ?」

「傷口を縫ったり消毒したり、俺の時は何人かいたと思うんだけど」

「おめえも、そんな大層な怪我したことあんのかい。難儀なこったな」



老婆は懐からボロボロの紙を取り出した。複雑な模様が円形に書かれ、見たことの無い文字のようなもので埋め尽くされたものだ。

エドワードの知識では、何に使われるかは分からない。だが、その紙が何だかは分かる。



魔法陣だ。

老婆は、魔法を使おうとしている…………?



「ご老人、あなたは……」

「わしは、闇医者じゃ」


老婆が呪文を唱えだした。魔法陣に徐々に光がやどり、文字が浮き出していく。さっと、産毛が立つような、弱い風が走った気がした。


魔法陣は老婆の手から離れ少女の傷の上で浮遊していた。見たことの無い文字がきらきらと光り、少女を照らす。

青いような、黒いような、白いような、幾種類もの光が交錯して踊り回った。


しわくちゃの老婆が、神秘的に見えていた。


「わしは、闇の治癒魔法士じゃ」



視界を塞ぐような強い光が、部屋に満ちた。



異世界設定ですので、魔法なんかも使いたいわけですが、ヒーローもヒロインも貧乏に極振りしていて生活だけでいっぱいいっぱいでした。

やっと魔法だよ。小汚いばあさんの魔法だよ。

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