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アイドル王子(自作自演)と、深窓の姫君(余計なコブ付き)の、【偽装結婚】?!  作者: 工藤 でん
第五章 働く姫君

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思いもよらぬ

ラヴィちゃんの回、これにて終了です

「……そうそう、背骨に沿って包丁を入れていくんよ」

「こうですか?」

「上手いねえ。腹側にはこの方向に骨があっから削ぎ落として」

「はい。反対側も同じようにするのですね」

「そんだ。包丁の扱いが手馴れとるね、姫様。

ほれ、できた。魚の三枚おろしだ」


ラヴィリアは骨と身に分かれた魚を得意気に見下ろした。周りで魚の捌き方を教えていた女性たちが、姫様の品のあるドヤ顔にほっこりした。

今のラヴィリアは肩までのアイスシルバーの髪を三角巾に纏めていて、遠目では町の少女と変わらない。むしろ短い髪のラヴィリアは以前より幼く無垢な子に見えるようで、構いたがりのおばあちゃま達に可愛がられていた。



センラクの町の女性たちに、魚料理を教わっているラヴィリアである。ケビンと話しているうちに、うちのばあちゃんの料理マジうまい、という話を聞き出したのだ。


「母ちゃんの料理もいいけど、ばあちゃんの魚料理はすげーうまい。魚の捌き方がいいんだって、父ちゃんが言ってた」

「魚の捌き方で味が変わるのですか?」

「みたいだよ」

「それはぜひ、わたくしも捌けるようにならないと」

「え? 姫様がやるの? 料理できるの?」

「鳥や獣なら捌けるんですけど」

「……は? え?」

「お魚は串を刺して焼く、くらいしかできないので。ここはぜひ、魚裁きをマスターしましょう……!」

「ちょっと待て、鳥や獣捌くって……あんた、姫だよな。貴族の姫が血まみれになって獣を捌くとか、ないって……おーい、ねえ聞いてる?」


魚料理までマスターしてしまえば、どこで貧困生活に陥ろうとも食うに困らないとラヴィリアは思った。海だろうと山だろうと、食いつなぐことができる。

海では魚を釣って食べて、山では罠を仕掛けて獣を食べればいいのだ。

貧乏生活に、死角無し。



今やラヴィリアのアクセサリー工場は、順調に軌道に乗っていた。工場で生産されたミニ宝石のアクセサリーは、王都や大きな町で着々と売上を伸ばしている。販売店の営業担当から、さらに増産の依頼も来ているほどで、売上は予想より大幅にアップしていた。


この工場が稼いだ純利益は、そのままラヴィリアの懐に入るようになっていた。ヴィヴィン商会会長の思惑である。エドワードを公に支援できないソーラが、ラヴィリアを介して資金提供を行うという算段だ。経営者をラヴィリアにしてしまえば、文句のつけ所もないだろう。

もちろん、ラヴィリアは初めからその意図を提示されていた。その上で工場の件を引き受けたのだ。


その話を聞いたカナメは、ラヴィリアの私的財産にすべきと強く主張していた。

しかしラヴィリアはそれを突っぱねた。エドワードの立場を支えないことには、自分の立場も危うい。しかも現状がカツカツであることも分かっているのだ。自分の財産など後回しだ。


この金はラヴィリアのものであって、ラヴィリアのものではない。あくまでもエドワードの活動資金なのだ。ブレイカー私兵団もノース港自警団もどんどん規模が大きくなっていると聞いている。軍を維持するのは、とてつもなくお金がかかると、ラヴィリアですら知っている。ほんのり、うっすらとではあるが。


工場が順調なため、今後資産としてはかなりの額が期待されていた。

その額面だけを見れば、もう貧乏生活に戻ることはなさそうなものだが。



大金ですけど、生活費ではないのですもの。

節約生活はこれからも続くと思っていいでしょう。

だけど、できたら、できるのならば……もう少し大きい魔道具の冷蔵庫、欲しい。



エドワード小屋の小さな古い冷蔵庫を思う。カルロスが古道具屋から買い叩いてきたと聞いた。

以前鳩が沢山取れたのに、三羽しか入らなかった。昨日港で見た、ブーリと呼ばれる魚なんて半分も入らないだろう。ブーリが一本入る冷蔵庫、欲しい……。


冷蔵庫っておいくらするのでしよう。使えるのなら、中古で全然構わないんですけど。


時給制のお仕事、みんなに混じって入れちゃおうかな、と考えるラヴィリアである。時給があれだから、五十時間くらい働けばなんとか…………。


本気でやろうとすれば、周囲に全力で止められるだろう。



捌いた魚に塩コショウと、緑色のさわやかな香りのするハーブを振り、粉を軽くまぶした。鉄板に油をひき、魚を両面こんがりと焼く。

隣でケビンのおばあちゃまが熱々のスープに、すりおろした魚肉を団子状に丸めて落としていた。このレシピもしっかりと記憶したラヴィリアだ。ランドレイク家のシェフは、こうした料理を出さなかったので楽しみである。


魚のソテーと魚団子のスープ、おばあちゃまのお友達が持参した野菜のピクルスをテーブルに並べた。パン屋のおばあちゃまが、焼きたての白パンを持ってやって来た。ラヴィリアの目には、おばあちゃまに後光がさして見えた。


さあ試食会の始まり! というタイミングだった。



慌てた様子のレイモンドがノックと共に入室して来た。顔色が変わっている。

ラヴィリアの耳元で何事かを囁くと、そのまま部屋を飛び出した。他にも伝令先があるのだろう。


ラヴィリアはレイモンドの言葉の衝撃を表に出さないようにしながら、ゆっくり立ち上がった。おばあちゃまたちの怪訝な視線に、仕方なさそうに苦笑してみせた。


「申し訳ありません。呼び出しがかかってしまいました」

「工場に何かあったんかい?」

「いえ。別件です。

でも急ぎのようなので、ここで失礼します」

「食べてからでもええじゃろが」

「そうしたいのですが。もー本当に、そうしたいのですけどっ。

せっかくのほかほか白パンと、パリパリ焼きたてお魚と、食べたことのない、あったかお魚スープ! 今しか食べられないのにっ……!」


拳を握って悔しがるラヴィリア。自分で初めて捌いた魚のソテーだ。本気で悔しいのだ。


それを見たケビンのおばあちゃまが、大きめの白パンをナイフで切り、バターを手早く塗って魚のソテーとピクルスを挟み込んだ。それを布巾でくるりと包むと、ラヴィリアに渡してくれた。


「持っていきなっせ」

「ああもう。おばあちゃま、大好き!」

「工場の仕事でのうて、『姫様』のお仕事じゃろう。頑張りんしゃい」


しわしわの笑顔が優しくて暖かい。

ラヴィリアはケビンのおばあちゃまに抱きついた。

何かもう、違う次元で励まされたと思った。おばあちゃまに虹色の後光がさしていた。すでに神様なのかもしれない。





レイモンドが用意していた馬車に乗り込み、ラヴィリアは副官の言葉を反芻した。


思いもよらなすぎて実感が湧かない。

遠い場所での出来事なので、その情報がいつの事なのかわからない。今現在どうなっているのか、全く分からないのが歯がゆかった。


どうなってるの?

なんでそんなことになってるの?

エディは無事なの?


とにかく詳しい情報が知りたかった。



「マフマクン伯爵がエドワード王子と共謀し、反乱を起こしました。現在、国営軍と交戦中」


お疲れ、ラヴィちゃん。書いてて楽しかった。


次回からエディくんの回です。いきなりピンチ迎えてます。


投稿まで、しばらくお時間いただきます、ぺこり。

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