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アイドル王子(自作自演)と、深窓の姫君(余計なコブ付き)の、【偽装結婚】?!  作者: 工藤 でん
第五章 働く姫君

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うぬのおーしゃ 2

この件とは関係ないかもしれんけどよお、とケビンの父が切り出した。


「何度かシーリザードに近づいた時、ちょっと変わったことがあって」

「なんですか?」

「何艘か同時に船が近づいたんだが、俺の船にばかり執拗に執着するんだ」

「……よく生き延びましたね」

「船が最新なことが幸いしたな。逃げることだけに集中すれば振り切れた」

「危ない……」

「まあな。

しかもな、シーリザードは青いヘビみたいな魔獣なんだが、俺の船を狙う時は鱗が白くなるんだ」

「白くなる……そういう生き物って、他にもいます?」

「いや、見たことねえな。なんだか気持ちわりぃなって、船員たちと話していたんだが」


鱗が白くなる魔物。関係があるのかないのか。

白いもの、今までの話で出てきたような……



「ラヴィ、ただいまー」


ぬっと、テーブルの真ん中に黒い生首が湧いた。ラヴィリアは慣れたものだが、他の人々は大いに驚いた。椅子から転げる者、勢いよく立ち上がって後ずさる者、誰かの背中にすがる者、色々である。

ラヴィリアは生首なブラッドに話しかけた。


「おかえりなさい、ブラッド。

皆さん驚くから生首の登場はやめなさい、と何度も」

「天井からの登場も禁止されてるし。我はどうやってラヴィの元へ帰ればいいのだ」

「いつも言っているでしょう。

ドア! ノック! 開ける! 入る!」

「やだ。カタコトのラヴィ、可愛い」


ブラッドは話しながらにょきにょきと身体を現し、テーブルに立った。そのままぽんと床に飛び降りる。

余計な仕事増やすなと、剣呑な様子のカナメが布巾でテーブルを拭きあげた。


ラヴィリアに擦り寄って、なんとか触れようといつものようにわしゃわしゃ手を動かしているブラッドに、ラヴィリアはチロリと目を向けた。結局一週間帰ってこなかったブラッドである。サボってたとは思わないが、余計なことはしてそうである。


「ブラッド、何か収穫はありまして?」

「収穫? あれ、なんで女収穫してたのバレたの?

いつの時代も、港の女は激しいからいいねえ。都の女はプライド高いからノッてくるの遅くてさ。その点海の女はもう、初めから執拗で欲しがりで放っておいても勝手に……」

「な・ん・の、話をしてますの?」

「おー。

昔の噂、調べ出してきた。

というか、ここ、やべえのいる」

「やべえの?」

「我の天敵、の眷属。

昔の噂って、そいつ」


目を瞬いたラヴィリアは、ブラッドに座るよう勧めた。空いた椅子に行儀悪く片足を乗せて座る悪魔。もう注意するつもりもない。


「昔の噂とは、どんな噂でしたの?」

「三百年以上前、海の魔獣シーリザードが現れた時のことだな。やっぱこのあたりの海のことでさ。人間は為す術もなく数も減らしたりしたもんだから、この海捨てるかって話になってたんだが」

「それで?」

「村の外から来てた人間が、たまたまシーリザードの好物を持っててな」

「好物?シーリザードの好物って何ですか?」

「魔鉱石」


ラヴィリアとサクタは目を見交わした。

石だ。

伝記にあった、聖なる石の正体だ。


魔鉱石は、魔力を使う魔道具の素材としてよく知られている。石自体にも魔力があるが、魔力を貯めたり魔力の動作を円滑に動かすための補助剤としても重宝されている。ラヴィリアの故郷マリ王国でも採掘されている石である。


「あの当時、魔鉱石は利用方法に気付いた人間が、山で盛んに掘り始めた。そんな時期だから、他所から来たそいつも、海辺で高く売りつけにきたんだろうよ」

「なるほど。

そして、シーリザードは魔鉱石が好物なのね」

「魔鉱石じゃなくてもいい。魔力のある物が好物だ。魔力を帯びたものを食うと、シーリザードは酔っ払って興奮する。

その時の魔鉱石を持つ人間が馬鹿なヤツでさ。珍しい海の魔物を見てみたいつって、海のそばまで近づいたんだ。そうしたら陸の上にいたにも関わらず、シーリザードに襲われて」

「……まあ」

「魔鉱石ごと一呑みで食われちまった。シーリザードは興奮すると体が白くなるから、白い体うねらせて海を泳ぎ回った。

白い体は目立つだろ。しかも海の底に棲む我の嫌いな眷属は、魔獣を好んで食べる悪食なヤツなんだ。白い魔獣にすぐに気付いて喰らいついて、海の底まで引きずり落ろした。その後自分のねぐらで、ゆっくり魔獣を貪り食ったんだと」

「それが、ブラッドの言っていた昔の噂、ね」

「そゆこと。

ラヴィ。役に立った我に、ご褒美」

「前払いしましたでしょ」


ガーンとショックを受けたようなブラッド。驚愕の表情のまま石化している。壮絶な裏切りを受けたかのような顔をしているが、ご褒美のおまけを断られただけである。

ラヴィリアは全く気にしない。過払いなどするつもりはないのだ。



ケビンの父が納得したように頷いていた。


「俺の船がシーリザードに狙われる訳が分かった」

「それは?」

「俺の船は最新型だ。船の一部に魔力で動く装置がある。それを嗅ぎつけたんだろう。鱗が白くなったのも、魔力に当てられて興奮してたんだ」

「祀りの意味も繋がるわい」


ケビンの祖父がゆっくりと腕を組んだ。


「海溝の主は魔獣を好く。藁に白い布を巻いたもんを、白うなったシーリザードに見立てて奉納しとるんだ」

「だが、童謡にも繋がるか?」

「あのう、わたくし、童謡の言葉が方言でわからなくて。直訳すると、なんと言ってるのですか?」


ラヴィリアの発言に、サクタはすぐに紙に書き付け始めた。

普段は全く訛りのないサクタだが、この地方の方言には精通しているようだった。

ラヴィリアは文献の内容と、童謡の直訳を見比べた。



~~~

ある時、海の一部にヘビのような生き物が棲みついた。ヘビに見つかれば船はことごとく沈められ、人を食った。


困り果てた村人の元に、徳の高いお坊様が訪れた。お坊様は神の使いがいると言った。お坊様は聖なる石を村人に授けた。


村人は神の使いの元へ船で向かい、聖なる石を海に投げた。聖なる石を追って、ヘビは海の底に消えて行った。

~~~


『うぬのおーしゃ れんこした

つくのようさに れんこした

すいたあ つくのようさ かって

うぬのおーしゃ おいなとさ』


『海の(ヌシ) 恋をした

月の妖精に 恋をした

好きが過ぎて 月の妖精 食って

海の(ヌシ) 去って行ったとさ』



ラヴィリアは文献と、サクタの書き付けた文字を見て理解した。


なるほど、そういうことか。

一部を誤解してたんだ。

だから混乱したんだ。

これで、全て繋がった。



「わかった、と思います」

「姫様?」

「文献の、神の使いの書き方が曖昧だったせいで、混乱したんです。神の使いは、魔獣ではなくてうぬのおーしゃ、海溝の主ですね」

「ええ?」

「月の妖精は聖なる石のことではなく、白い魔獣のことです」


ラヴィリアはサクタの書き付けた童謡の歌詞に指を伸ばした。

うぬのおーしゃが、魔獣なのか海溝の主なのかで、話が変わってくる。そこを見極めることが重要だった。


「もともと海の底に住んでいたうぬのおーしゃが、月の妖精みたいな魔獣に恋をした。好きすぎて月みたいな魔獣を食べてしまったうぬのおーしゃは、海の底に戻って行った。

これが童謡の内容です」

「確かに、そう考えれば筋は通る」

「月の妖精は、興奮した白いシーリザード、ですよね。情緒を出すために恋愛風にアレンジしたのかもしれません。

もしかしたら、次にシーリザードが現れた時の対処法を、誰かに伝えたかったとか」

「後世に残すために、歌い継がれるよう簡単な歌詞にしてか」

「祀りも絶やさずせいと、昔から言われとう。ここいらの漁師は、うぬのおーしゃを祀っとるんよ。

うぬのおーしゃは、昔から海溝の(ヌシ)じゃけえ」


ケビンの祖父が、腕を組んで深く頷いた。



皆の話を聞きながら、ラヴィリアは頭の中を整理した。

魔獣の情報は出揃った。

あとは現実に適応させていくだけだ。


今、あの海で暴れているシーリザードを、どうにかしたいのだから。


『うぬのおーしゃ』に、『つくのようさ』を食ってもらおう。

海溝の主に、シーリザードを食べてもらうのだ。

そのために、必要なものは…………

地方の方言が好きです。もう、西も東も大好きです。何言ってるかわかんない言葉を操るおばあちゃまとか、愛しくて仕方ない。

なので、じいさんの言葉は東西ハイブリッドでお送りしました。じいさん訛ってんなあ、と思っていただけたら成功です。

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