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アイドル王子(自作自演)と、深窓の姫君(余計なコブ付き)の、【偽装結婚】?!  作者: 工藤 でん
第五章 働く姫君

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働き方を提案

工場は見事、綺麗に復活した。

屋根や壁の穴はブラッドが、相変わらず燕尾服にエプロンドレス姿で嬉々として埋めていった。掃除の目処が立った段階で、町の大工の息子を手下として、資材を次々に運び込ませていた。もちろん資材の費用は大工に支払ったのだが。


「見よ、古代の虫を留めるこの奇跡の石! さらにこれは植物の葉、こちらには小魚が封じられている。

何万年も前の息吹が今現代に蘇る奇跡の石。我を手伝えば、この石たちが選り取りみどり貴様の手に」

「すっげー!

エプロン親方ダセエけど、石はかっけええええ!」

「ふふん、敬え」


ただの化石である。

大工の息子はブラッドの報酬に踊らされ、いいように使われていた。



工場の一号棟、二号棟は水を流してクズ石から宝石を分別する作業棟となる。そのための設備は事前に発注していたため、今は設備工事の最中だ。

三号棟は宝石の研磨、カット。さらに土台に宝石をはめ込む作業所となる。こちらは基本的に机とイスを置き、照明の魔道具を設置するくらいなので、ほぼ終わっていた。



問題は、作業員が一人も集まっていない、ということだけで。



ラヴィリアは粗末なテーブルにティーカップを置きため息をもらした。周りは小さなお子さんのお母様たちが囲んでいた。



工場の清掃が終了し、ブラッドによる屋根・壁の修復もそろそろ終わるので、小さな作業員たちの仕事は終わったのだが。


工場近くの広場は子供たちの遊び場となっていた。特に小さな子供たちがラヴィリアと遊びたがるため、つきそいで母親たちも幾人か集まってきていた。家事の息抜き、とも言える。


ラヴィリアもさすがに設備工事には参加できないので、手が空いていた。喜んで子供たちと遊んだり、母親たちのお茶の相手をしていた。

晴れてさえいれば、木陰の下にテーブルを置いて、誰かしらとお茶をするのが恒例行事のようになってきていた。故に、日持ちのする菓子を作っておくのもラヴィリアとカナメの日課になった。

母親たちも果物や残り物の惣菜を持ち寄るようになり、軽いランチならここで賄えるくらいにはなっていた。


いつの間にか、工場の前で社交の場が出来上がっていた。

もちろん、ラヴィリアが工場責任者と知った上でだ。ラヴィリア公認で敬語も不要、となった途端、母たちの口は急に軽くなった。



「姫様、作業員は見つかったの?」

「まだ一人も見つかってません。どうしましょう」

「漁師は工場に関わるなって、伝達が回ってるよ。うちの旦那も漁師だからねえ、手伝ってやれないよね」

「漁師がやらないから、他の職種のについている人達もしり込みしてるみたい」

「若い職人なんか、給料の額見て心は動いてるみたいだねどね。世間体気にしてるんだろうね」

「工場勤務だって知れたら、バカにされんだろうねえ」


真っ当に稼ぐんだから堂々としてりゃいいのに、と母たちは言う。

妊婦の母がお腹を撫でながらボヤいた。


「もうすぐこの子も生まれるってのに、今の稼ぎじゃどうにもならないんだけど」

「船が出せないからねえ」

「出せても小物ばかりじゃ、いくらにもなんないし」

「魔獣のせいですっかり生活が変わっちゃったね」

「領主様がパンと保存食の支給をしてくれてるのはありがたいけど」

「それだけでは生活できないからね」


口々に不満が出てくる。今のままじゃいけないと、ここにいるみんなは分かっているのだ。家計を担っている主婦だけのことはある。



ラヴィリアは思い切って、彼女たちに聞いてみることにした。


「漁師さんたちが、陸で働きたくないのはどうしてなのでしょう」

「海の男はプライド高いのよ。命かけてるからね」

「海での事故は死に直結してるから。私らも波の荒い時に船が出ると覚悟する」


波に揉まれて船が転覆してないか。高波に攫われて海に投げ出されてないか。もう帰ってこないのではないか。何度そう思ったことか。

漁師の妻は常に夫が死なないようにと願い、浜で待っているのだ。


ラヴィリアはエドワードが刺客に襲われた時の、血の気が引く瞬間を思い出していた。あのまま死んでしまうかも。もう話すことも、チョコレート色の目を見ることもできないのかも。とそんな覚悟が瞬時にできなくて、気が遠のいた。

漁師の妻は、年に何度もあんな思いをしているのか。それだけで尊敬できる。


母たちは明るくラヴィリアに笑いかけた。


「うちの旦那、ちゃんと帰ってきてるから、そんな顔しないでよ」

「大漁で帰ってきた時は、ホントに格好いいんだから」

「それ、わかる。二割増しで精悍に見える」

「給料見ると三割増しね」

「わかるぅ!」


あははは、と明るい笑い声が響いた。

だからね、と向かいに座った母がラヴィリアを見た。


「男たちも海で働く自分には自信があるのよ。それが、陸で働いたら自分が同じように格好良くいられるか、分からないでしょ」

「男は、格好つけたがりだからね」

「格好つけさせて、あとは私たちが支えてやるの」

「男たちだって、それは分かってるよ」

「漁師の妻は、ずっとそうやってきたんだよ」


ふむ、とラヴィリアは考えた。

漁師の妻たちはとても強く、逞しい。

生活を支える覚悟が出来ているのだ。仕事に対するプライドはなく、夫の仕事を信じている。

だがそれより何より、先々の生活に金銭的な不安を持っている。



ラヴィリアは素早く考えてみた。

仕事の内容を踏まえ、女性たちの意欲を鑑み、ある程度はいけるのではないかと試算した。

作業員確保、空き時間、収入減の現状、色々つなげて、組み立てて……



ラヴィリアは背筋を伸ばして、その場の人々を見渡した。


「……皆さん、わたくしの工場で働きませんか?」

「姫様の工場……このアクセサリー工場?」

「はい」

「そりゃ無理だよ。家事はあるし子育てあるし、漁があれば仕分け作業なんかもやってるし」

「存じております。ですから、朝から晩まで工場で働いてください、とはいいません。

空いた時間を使って、お手伝いしていただけないかと」

「お手伝いって……」

「報酬は一時間刻みで、お支払いします」

「一時間刻み?」

「一時間働いたら、一時間分のお給料。二時間働いたら、一時間分掛ける二。三時間働いたら、一時間分掛ける三。のお給料をお支払いします」



一般的に仕事は一日かかりきりになるのが基本だ。センラクの町の公共工事で、漁師たちも駆り出されることがあるが、それに対しては日給制が割り当てられる。一日働いたらいくら、という計算だ。


ラヴィリアの提案は時給制だ。働いた時間に対して給料を支払う。これなら家事や子育ての合間の時間に働けて、生活も多少潤う。

ラヴィリアとしても多少なりとも作業員が入ってくれれば、工場は少しずつ稼働できる。砕石から宝石を取り出してさえいれば、宝石研磨の職人の手が空くことは無い。

願ったり叶ったりである。


「……それは、確かに魅力かも」

「でもねえ、私含めてここに来ている女たちは、チビから目が離せないからねえ」

「確かに。子供が小さいと働けないわよね……こらぁ、そんなに遠くに行かないの! 戻ってきなさい!」


子供の一人が勢いよく走り出していた。目ざとく見つけた母の叱責がすぐさま飛んだ。

子供たちの面倒を見ていたカナメが、走って子供を回収していた。侍女の顔が怖かったのか、子供はしゅんとしていた。


「……そこは、そうですね。

託児室を作ってみてはどうでしょうか」

「託児室?」

「工場の三号棟なんですけど、かなりスペースが余ってるんです。壁を作って作業場と分けて、そこで子供たちをお預かりできるようにしてはどうかなと」

「へえ……」

「利用料はいただくことになると思いますが、安心してお仕事に集中できると思います」

「子供だけだと不安だけど」

「そこはですね、手の空いている子供好きで元気な、おばあ様やおじい様がいらっしゃらないかと」


ラヴィリアは王都でピアスを作っていたおばあ様たちを思い出していた。圧倒されるほど、ものすごく元気だった。

センラクの母たちはお互いに目を見交わした。該当する顔を何人か浮かべたのか、力強く頷いた。


「いるわね」

「暇を持て余している元気なお年寄り」

「あまり出せませんけど、その方たちにもお給料をお支払いします」

「それは飛びつくわ。子供を見てるだけでお金貰えるんだから」

「これで憂いなくお仕事できるかと思うのですが」


ラヴィリアは首を少し傾げて母達を見渡した。

自信を持って提案した訳では無い。思いつきを広げていったに過ぎないのだが。

センラクの母たちはどう受け取ってくれるのか。



ラヴィリアの隣に座っていた母が勢いよく手を挙げた。


「私、やりたい」

「私も」

「私は産んでから、参加したいわ」

「空いている時間いつでもって、いいよね」

「実際に、生活は苦しくなってるし」

「仕事の間、子供の面倒見てくれるのもいい」

「海の魔獣がいつまで居座るかも分かんない今、少しでも収入は欲しいのよ」



全会一致でラヴィリアの案は採用された。


細かい給料や託児料の話はレイモンドと話して決めよう……というか、数字はよく分からないので丸投げしよう、とラヴィリアは決めた。


ちょうど工場から出てきたレイモンドに微笑みかけると、レイモンドはびくっと身をすくませていた。できる副官は、面倒くさいことを押し付けられる現実を、上司の清らかな微笑みだけで察していた。

異世界で時給制労働。

転生したらやってみたい

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