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アイドル王子(自作自演)と、深窓の姫君(余計なコブ付き)の、【偽装結婚】?!  作者: 工藤 でん
第五章 働く姫君

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おうたをうたおう

「ひめしゃま、あのね」

「はい」

「あのね、あのね、あたしね、あのねえ、えーとね…………なんだっけ」

「ぷっ……はい」

「ひめしゃま、きょうねー。ゆかをごしごしするのにねー、おみずまいたのよ」

「お手伝いえらいですね」

「ねえ、そろそろひめしゃまのおひざ、こうたい」

「えー、やだあ」

「じゅんばん、でしょ!」


ラヴィリアの膝には、代わる代わる小さな子供たちが座りにきた。そして好き勝手に喋っている。シートの上でごろごろしている子もいれば、飛び跳ねている子もいる。見て触れて話して、すべてが可愛い。


ラヴィリアは小さな労働者たちを、焼き菓子で接待中だ。テーブルで話すよりも、シートを敷いてピクニックのように座って話す方が子供たちは喜んだ。が、どちらかというと、より楽しんでいるのは自分ではないかとラヴィリアは思った。ちびさん達のあどけなさと無邪気さ、少し年長になって大人びた物言いをする背伸びした顔、どれをとっても皆、可愛い。


「ひめしゃま、おかし、おいちいね」

「よかったですね」

「おかあしゃんのね、おかしもおいちいの。でもね、いまたいへんだから、がまんなんだって」

「そうなんですか」

「ひめしゃまはたいへんで、がまんじゃないの?」

「そうですねえ。今は平気ですが、一番大変なときは、たくさん我慢しましたよ」

「……何が我慢だ、貴族のくせに」


ケビンが離れた所にある切り株に腰掛けて、聞こえよがしに毒づいてきた。ちゃっかり焼き菓子は手にしている。気のない風を装っているが、完全に当てこすりであった。


またかーとラヴィリアは、十二歳になるという生意気なケビンに目を向けて嘆息した。毎回このように、近寄らないくせに文句だけは一丁前に言う。ラヴィリアの言葉に反発したり、否定したりと、とにかく気に入らないらしい。五歳の弟ユウゴの付き添いなのだが、工場の掃除には参加せず、仏頂面の保護者面でお茶会にやって来る。


貴族は金持ちでなんの苦労もしていない、というデフォルトでラヴィリアに接してくるため、常に喧嘩腰である。ラヴィリアが自分が食べるために、獲物を狩り私物を売り払い家事全般は全部やっていた、などと想像もつかないのだろう。


子供たちのつきそいの母親たち(こちらはテーブルでカナメが接待中だ)の、ケビンに対する様子が他の子供より丁寧なのは、漁労長の息子だかららしい。この町の有力者の子供となればうなずける話だ。



面倒くさい子なのよね、とラヴィリアは膝に乗っている子の頭を撫でた。たまたまケビンの弟のユウゴであったが、弟の方は屈託なくラヴィリアに懐いている。「ひめさま、しゅきー」とか言ってくる。可愛い。



とりあえず話題を変えよう、とラヴィリアはマドレーヌを大事そうに食べている女の子たちに目を向けた。


「皆さんは大きくなったら何になりたいですか?」

「およめしゃん!」

「あたしもー」

「おとなりのおねえちゃんがけっこんしたのよ」

「すごくきれいだったの」

「ドレスがすごかったよね」

「おかおもきれいにしてたよね」

「ぴかぴかのが、みみについてた」

「いやりんぐだって、おかあしゃんがいってたよ」

「おいしいごはんが、たくさんでるのよ」


女の子たちはきゃっきゃと結婚式の素晴らしさを語ってくれる。


自分がこの子くらいの時、結婚式に何の憧れもなかったことにラヴィリアは思い至った。王族としてどこかに嫁がされることをなんとなく分かっていたからだろう。結婚に無邪気に憧れるって素晴らしい、とラヴィリアは感慨にふけった。



偽装結婚の予定は解消されたが、ラヴィリアには『王族接触拒絶症』がある。さらに付け加えるなら、エドワードの気持ちはまだラヴィリアに向いていない。未だにラヴィリアは、絶賛片思い中なのである。


普段は抜けているようで、エドワードは自分をわきまえるタイプである。ラヴィリアの告白に調子に乗ってくれたら楽なのだが。

残念ながらエドワードという男は、一旦踏みとどまって自分を見つめ直すタイプ……どころか、自分のマイナス方向に向き直り課題を積み上げて身動き出来なくなるタイプの堅物である。

前途が多難で気持ちが暗くなる。



ラヴィリアは首を振って気を取り直した。

自分のことはいいから、今はお子様を接待中だ。

ラヴィリアは膝に座るユウゴに声をかけた。



「男の子たちは、大きくなったら何になりたいのですか?」

「りょうし!」


ユウゴがすぐに答えた。飛び跳ねていた男の子たちも「りょうし、りょうし!」と次々と口にした。


「だって、りょうしかっこいい!」

「ふねがしずみそうなくらい、さかなとるし」

「うちのとうちゃん、にめーたーごえのさかなとったことある」

「うちのとうちゃん、さんめーたーこえたし」

「うそだ、そんなのみたことない」

「うそじゃないもん。ゆってたもん」

「うちのふねは、こうきゅうぎょねらいだから、おおきさじゃないし」

「なにそれ、かっけー!」


男子は男子で盛り上がっている。

話題変更は成功したな、とラヴィリアは胸を撫で下ろした。この場を楽しんでくれるならそれがいい。


ケビンがボソリと呟いた。


「漁師が格好良いのは当たり前だ。世界で一番格好良い。

漁師は皆、すごく苦労して海に出てんだ。命かけて生活支えてるんだ。それに、この町を作ったのは漁師だからな。漁師なくしてはこの町は成り立たない。

何の苦労もしてない貴族様には、分からないだろうが」


ほんとこの子、一言多い!

ラヴィリアは、いらぁっとケビンに目を向けた。一度ちゃんと話し合った方がいいのだろうか。貴族に対する偏見が強すぎる。



センラクの町を治めているのはランドレイク伯爵家。災害に見舞われたセンラクの町に迅速に支援を行ったのは、ランドレイク家のサクタである。支援物資やその他の資金だって、ランドレイク家の懐から出ているものだ。


悪徳な貴族であれば高額な税金を取り立てて支援すらしない者もいるだろうが、ランドレイク家はまっとうに統治していると思われる。そうでなければセンラクの町はもっと悲惨な状況になっていただろう。そこに対する恩義や尊敬はないのだろうか。



肩を持つつもりはないのだけど、とラヴィリアはケビンに目を向けた。


「サクタ様はセンラクの町をよく支えていらっしゃると思いますよ。貴族の全てが苦労していないような言い方は、よくないです」

「支えてる、ったって俺たちの税金でじゃねえか」

「そうです。

貴族の仕事、統治者の仕事は、皆様からいただいた税金を皆様の生活に……」

「うるせえな。やって当たり前の仕事をして偉そうにすんなってんだよ」

「そのおかげでセンラクの町は、現状を維持出来ているんです」

「わかってるっての、しつけえな!」


聞く耳を持たない、の典型例ここにあり。



この十二歳のケビンの言葉が、センラクの漁師たちの言葉と思っていいのだろう。おそらくケビンのセリフは、大人たちの受け売りだ。

酒場で漁師たちは、領主を敬う様子があまり見られなかった。サクタがあまりに若いのと、もともと漁師が一番という風土のせいなのだろう。



ねえねえ、と膝に乗ったユウゴがラヴィリアを見上げてきた。


「むずかしいおはなし、いや」

「……そうですね。ごめんなさい」

「ひめさま、おうた、うたって!」

「おうた……歌はあまり嗜んだことがなくて」

「たしなむ?」

「歌を歌ったことが、あまりないんです」

「なんでー?」

「歌は鑑賞するもので、自ら奏でるものではないと」

「? ? ?

うたったことないの?」

「そうですね」

「じゃあ、おれがおしえてあげる」


ユウゴが大きく息を吸って歌い出した。ユウゴが歌い出すと、その場にいた子供たちが楽しげに続けて歌った。可愛い声が重なって辺りに響いた。この辺りでよく歌われている童謡なのかもしれない。



『うぬのおーしゃ れんこした

つくのようさに れんこした

すいたあ つくのようさ かって

うぬのおーしゃ おいなとさ』



幼い声で一生懸命に歌う姿が愛らしい。

歌い終わった子供たちに、ラヴィリアは惜しみなく拍手をしていた。テーブルでお茶をしている母親たちも拍手している。子供たちは照れくさげにモジモジしたり、飛び跳ねたりしていた。

可愛さがまた爆裂している。ラヴィリアの胸がほんのり温かくなった。


「みなさんお歌、お上手ですね」

「えへへへへ」

「いっつもうたってるもん」

「どういう内容のお歌なのですか?」

「わかんない!」

「……分からないのね」

「むかしのことばなんだって」

「ばあちゃん、たまにそういうことば、つかってるよ」

「おうたに、ないようなんかあるのかな」

「おれのにいちゃん、しってるよー」


ユウゴがケビンの座る切り株までやって来て、ケビンをぐいぐい引っ張ってきた。仕方なさそうにケビンはシートの傍までやってきて、端に腰を下ろした。不貞腐れた様子だが、弟に頼られたことは嬉しいらしい。ピクピクと眉が誇らしげに動いていた。

ラヴィリアがケビンに問いかけた。



「どんなことを歌った、お歌なのですか」

「……この町の昔話だ」

「昔話」

「俺もじいちゃんに聞いた話だから、よくは知らないんだけど。

昔この近くの海に、海の(ヌシ)が住んでいて、月の妖精に恋をしたんだって。月を見上げては妖精の姿を眺めて暮らしていたんだけど。妖精を好きでたまらなくなった海の(ヌシ)は、ある日妖精を丸呑みしちゃったんだ」

「……まあ」

「でもその妖精って、月だから重いんだ。海の主はお腹の重さに耐えられなくなって、そのまま海の底に沈んでしまった。

……そんな話」

「楽しげな童謡でしたけど、切ないお話でしたのね」

「童謡なんてそんなもんじゃないの?」



ケビンがそっぽを向きながら話している。毒づくことなく話すのは初めてかもしれない。それがラヴィリアはなんだか嬉しい。


ユウゴがケビンの袖をつんつん引っ張った。何気にお兄ちゃん大好きな弟である。


「ねえ、にいちゃんもうたおう」

「ば、馬鹿! なんで俺が」

「おうちでいっつもうたってるじゃん」

「歌ってねえし! 何言ってんだお前!」

「うたいながらみずくみしてるの、おれしってるもん」

「してねえし! ふざけんなだし!」

「にいちゃぁぁん」

「わ、わかった。泣くな。そんなことで男が泣くな」


ケビンも弟大好き兄貴である。

ケビンはやけくそになってでかい声で歌い始めた。子供たちが笑いながら後に続いた。

テーブル席の母たちと、ラヴィリアのクスクス笑いが止まらなかった。



『うぬのおーしゃ れんこした

つくのようさに れんこした

すいたあ つくのようさ かって

うぬのおーしゃ おいなとさ』


ラヴぃちゃんは王族出身なので、楽器の演奏は嗜みますが、お歌は歌わなかったんですね。声楽を耳で嗜む、といったところでしょうか。

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