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アイドル王子(自作自演)と、深窓の姫君(余計なコブ付き)の、【偽装結婚】?!  作者: 工藤 でん
第四章 無茶ぶり、きたー

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俺は何になる

情報の共有と手段、センラク港への警護配備など細かな打ち合わせを終えて、会合は終了した。


ラヴィリアはソーラに呼ばれて別室に同行している。センラク港にある工場についての打ち合わせだろう。カルロスも同行しているのは、細かい内容を把握しておくためだ。副官の仕事は多岐にわたる。



エドワードは手元の書類に書き込みをしながら次の課題をチェックしていた。やることが多すぎて、時間がないと整理すらおぼつかない。さらにカルロスからいくつも課題を出されている。

次は兵糧の輸送計画を三パターン上げろってか、カルロスの鬼。こういうの任せられる事務官、欲しい。



そこへキースとブレイカーが絡んできた。キースは隣の椅子へ腰掛け足をテーブルに投げ出し、ブレイカーはテーブルに片膝立てて座っている。お行儀とはなんだろうかと問いかけたい。


「オージ。お前の嫁、あれはすげえな」

「……ラヴィのこと?」

「ああ、あの姫さんだ。ありゃ本物だな」

「確かに本物のお姫さんだ。よくもオージに嫁いできたもんだ」

「完全に、政治的な政略結婚だよ」

「それでもさ。随分馴染んでるじゃねえか」

「お互い愛称呼びだろ。仲良いねえ」


キースとブレイカーがニヤニヤしている。目的は明瞭だ。思う存分からかいたい。

恥らえ、照れろ、なんなら逆ギレろ。すべて揶揄しまくってやる。


エドワードに女っ気が全くなかったことは、二人とも側にいて確認済みだ。物足りなくもあった部分である。からかう最大のチャンス、これを逃す手は無い。


エドワードはうんざりしたようにペンを投げた。


「何が言いたい」

「同居して二ヶ月以上経つんだろ」

「どこまでやった」

「いくらお前でも、口づけ以上はしたよな?」

「さすがの俺でも王族は脱がしたことねえからなあ。どんなだ? ちゃんとエロいか」

「ベッドのお作法とかはあんじゃねえ?」

「王族は血脈絶やすわけにいかねえからな。逆に煽情的とか? そそる」

「……他に考えることないのか、あんたたち」

「照れんなよ、オージ」

「暴露っとけ、オージ」


エドワードはあからさまにため息をついた。

この二人に品性を期待したことはなかったが。やっぱりか。

エドワードは散らかった書類を集めだした。


「手は出してないし、出す気もない」

「はあ?」

「そもそも条件が揃ったら婚約破棄するし、婚姻まで進んでたら離婚する。それが前提だ」

「……何言ってんだ、お前」

「あの人をこんな所で繋ぎ止めておくわけにはいかないでしょ。見たら分かるじゃん。完全に雲の上の人なんだから。

王族としてのあの人の能力を活かせる所に嫁がせないと」

「おい、オージ」

「そのこともあの人に伝えてる。それまでここで我慢してもらうことも折り込み済みだ。

だから俺が話すことは何も無い」


書類をまとめて出ていこうとするエドワードの肩をキースが掴んだ。思いの外強い力でエドワードは困惑する。まだ何かあるのか。


恐ろしく真面目な顔でキースはエドワードを見据えていた。強い視線に、エドワードは目を逸らした。悪いことをしているつもりは無いが、よくないことを言われる気がする。

今までこの目をしたキースに勝てたことはない。キースが本音を話す時の目だ。本能的に怯えが走る。


「お前、正気か?」

「……正気だよ。

俺はあの人の未来への、繋ぎでしかないんだから」

「おい」

「あの人の未来に傷がつかないように、綺麗なまま次へ渡さないと」

「おい!」

「白い結婚の証明貰っておいた方がいいな。その方が有利に動ける」

「……」

「ラヴィの枷にならないようにするのが俺の目的だ。いつ死んでもおかしくない俺には、それくらいしかできない。

なるべく早く解放してあげないとね」


目を逸らしながら滔々と語るエドワードから、キースは手を離した。感情の伴わない言葉に唖然とした。無性に殴りたくなって拳を固めた。


なんだコイツは。こんなヤツだったか。

チョコレート色の髪がエドワードの表情に影を落としていた。影がエドワードを支配していると、キースは感じた。

エドワード本人はどこに行った。がらんどうじゃないか。


いつからだ。ノース港の工事の時はこんなヤツではなかった。それとも隠していたのか。見破れなかったのは、俺か?


「……お前はそれでいいのかよ」

「いいよ。他に彼女にあげられるものは何も無いし」

「お前の気持ちは」

「どうでもいい。そもそも、俺の気持ちなんて関係ある?」

「姫さんの気持ちは、知ってんのか」

「知ってるよ。そんなの、すぐに忘れるって。俺よりいい男なんて掃いて捨てるほどいる」

「それでも姫さんはお前を選んでんだろが!」

「それはラヴィの都合だ。

俺には関係ないだろ?」

「お前っ……!!!」


キースが拳を振りあげようとした次の瞬間、エドワードは壁に向かって吹っ飛んでいた。肩から壁にぶつかり、ずり落ちる。

ブレイカーが殴り飛ばしたのだ。



ブレイカーは怒りの形相を露わにしていた。それなりに付き合いの長いキースも、これほどの怒りを見せるブレイカーを見たことがない。

彼はエドワードが下町で暮らしていた頃からの付き合いである。兄のような心持ちでいるのかもしれない。

怒りを隠さないブレイカーは、そのままエドワードを怒鳴りつけた。


「テメエの都合だけで喋ってんじゃねえぞ、ガキ!」

「しょ、しょうがねえじゃん! 俺にはこうすることしか出来ないし!」

「テメエは自分自身をどこに捨ててきた! 都合を語るな、テメエがどうしたいか、言え!」

「どうしたい……」

「テメエは人形じゃねえ、人間だろが!

人間だったら欲出してけ! お前は何がしたい? どうしたいんだっ?!」

「……」

「欲望を出していけ、本能を抑え込むな!

おまえがやりたいことを、言ってみろ!!!」


怒りで真っ赤な顔したブレイカーをエドワードはただ見ていた。殴られた衝撃で口の中を切ったらしい。血の味がしていた。



エドワードは何度も頭の中で反芻した。

何がしたい?

どうしたい?


そんなこと、聞かれたことがない。

考えたこともなかった。



エドワードは自分の中の引き出しを探ってみた。やりたい事、やってみたい事。そうなれたらいい理想像、未来における輝かしい自分。

そんな物はどこを探しても、見つからなかった。


自分が何をしたいか、わからなかった。

王宮に上がってから、したいことが叶えられたことがなかった。いつもそうせざるを得なかった。選択肢に自分の意思は存在していなかった。

人間だったら、欲を出していい?

欲ってなんだ? したいことってなんだ?


やりたくないことは沢山ある。

だって、腐るほどこの先で待っている。

マフマクン領なんか行きたくない。反乱の調査なんかしたくないし、オーサ兵なんか指揮したくない。そもそも行軍の指揮も嫌だし、行軍計画の立案もしたくないし、物資の手配も面倒だ。

やりたくないことは山ほどあるのに。


やりたいことってなんだろう。



――ふいに、アイスシルバーの髪をした女の子が、自分を「好きだ」と伝えてきたことを思い出した。

見たこともないほど緊張した面持ちで、それでも自分に触れてきたラヴィリア。

精一杯の気持ちを乗せて自分に告白してくれた。緊張した声音を思い出した。



……あれは、ラヴィは。

俺に「好き」を伝えたかったんだ。

ラヴィのやりたい事。それは自分の「好き」を伝えて、俺の気持ちと繋がりたかったんだ。



勇気を出して伝えてくれたんだ。



高貴な身の上で雲の上の存在のくせに、俺よりよっぽど人間らしいことしてる。

そうだ、ラヴィは可愛らしい人間だ。感情をちゃんと大切にしている人間だ。


それに、俺はなんて答えたんだっけ。

「無理して好きになる必要ない」

勇気を振り絞って、近づいて来てくれた相手に。年下のか弱そうな女の子に。


そうやって、壁を作って遠ざけて、気持ちには気付かないふりで、あたかも彼女のためだからと自分を正当化して――


ああ…………そうか。



「……俺、阿呆だ……」

「わかってんじゃねえか」

「気持ち、受け取りもしなかった」

「本当に阿呆だな」


眼光は射殺すほどに鋭いまま、ブレイカーはエドワードに手を貸した。その手を借りてエドワードは立ち上がった。膝が一瞬ぐらついたのは、ブレイカーの一撃の重さゆえだろう。

キースが握りっぱなしだった拳をほぐしながらエドワードを睨めつけた。


「で、阿呆。テメエはこれからどうすんだ」

「……俺がしたいことは、やっぱり分からない」

「あ?」

「でも、このままじゃいけないことはわかってる」

「まずやることがあんだろう」

「うん」


まず、やること。

ラヴィを見つけること。

そして…………


キースがブレイカーと並んでエドワードの前に立ちはだかった。二人が並んで立つと、とんでもない威圧感があった。


「そんなに睨まなくても、ちゃんと受け取ってくる」

「遅えんだよ、ポンコツ」

「ポンコツなテメエに宿題だ。

今後、お前が何してえのか、俺とブレイカーに見せてみろ」

「う……わかった」

「また日和やがったら、ブレイカーの代わりに俺が殴るぞ。

さっさと行け」

「うん」


エドワードは真っ直ぐにドアに向かった。

ドアを開ける寸前で、「キース、ブレイカー」と声をかけた。

無言の二人を、エドワードは情けない顔で振り返った。


「俺さ、格好悪い?」

「めちゃくちゃ格好悪い」

「クソダサい」

「だよなあ」


エドワードは情けない顔のまま破顔した。


「これ以上格好悪くなることないから、気が楽だわ」

「早よ行け」

「一発殴られて来い」

「……ラヴィ、意外と力あるんだよな。やだな……」



ラヴィリアの姿を求めて、エドワードは談話室を出て行った。



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