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アイドル王子(自作自演)と、深窓の姫君(余計なコブ付き)の、【偽装結婚】?!  作者: 工藤 でん
第四章 無茶ぶり、きたー

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アイドル王子降臨

ちょっといいとこ見てみたい

「ところでよ、オージ。なんで今日はアイドルやってんだ?」

「あれだろ、羽根ピアスの宣伝だろ。王都でバカ売れしてっからね。アマツでも売り始めたところだよな、オージ」


ブレイカーがエドワードに、ニヤつきながら目を向けた。

キースとブレイカーの「オージ」は「王子」に聞こえない。印象としてはただの渾名だ。


そしてエドワードのアイドル王子が、演技であることも理解しているようだった。エドワードの事情に精通していると考えていいのだろう。

エドワードはジロリと二人を睨みつけた。


「際限なく、訓練費だ武器購入費だ追加入団希望者だって、費用請求してくるのは誰だよ。おかげで俺が稼ぐしかないだろうが」

「必要経費だぜ、お頭」

「兵隊増えて良かったじゃねえか、お頭」

「お頭って呼ぶなよ。あんたたちのお頭って悪の元締めみたいじゃん」

「似たようなもんだろ」

「俺はなあ。単なる、スファルト王国第二王子でしかないからな」

「ぶはっ、肩書きがご立派」

「単なる王子って、どんな王子だ」


キースとブレイカーがけらけら笑っている。とりあえず仲はいいらしい。

なあ、とキースがブレイカーに身を乗り出した。


「なあブレイカー、最近本気のアイドル王子に会ってっか?」

「町で愛想振りまいてんのは見るけどさあ。事務所入るとすぐ止めんだよな、つまんねえ」

「仲間内の割に俺たち、アイドル王子に会ってねえよな」

「久しぶりに近くで見てえなあ」

「見てえ」

「ちょっと待て。何させる気だ」



若干慌てだしたエドワードを見て、キースとブレイカーは同時ににやりと頬を歪めた。

ラヴィリアはポカンと見慣れない状況を見ていた。何? 何が始まろうとしてるの?



キースがピィーっと高い指笛を吹く。

ブレイカーが、口メガホンでエドワードを煽り出した。後ろの副官たちもニヤニヤしながら身構えている。


「エドワードくんのぉ」



「「「「 ちょっといいとこ、見てみたあい 」」」」



「はい、らぶきゅん」

「らぶきゅん」

「らぶきゅん」

「らぶきゅん」



手拍子がエドワードに向けられている。

謹直そうなレイモンドまで加わっていた。

手拍子をしている全員確信犯である。

エドワードが真っ赤になって立ち上がった。


「俺の()()は! 良くできた宴会芸じゃないんだよ!!」

「宴で披露したことあるじゃねえか」

「だってあの時は! ノース港完成の祝いだし! 慰労の意味で」

「うちのばーさまたちに、アイドル振り巻きまくってたじゃねえか」

「完全に仕事だよ!! やりたくてやってたんじゃねえよ、心折れそうだったよ!」

「数少ない特技の一つくらい見せていけよ」

「やだよ! しかもラヴィいるし、母ちゃんまで見てるし!」

「あー、アイドル王子に会いてえなあ。会わないと仕事する気しねえ」

「同感。この話蹴るか?」

「最悪だ! あんたたちやっぱり最悪だ!」

「オージ、らぶきゅん」

「うるっせえな。あんなめんどくさいキャラ、そんな簡単にできるわけ……」


ひたすら怒鳴りつけながら、エドワードはふうっと天井を向いた。何かのキッカケを見つけたのだろう。


ラヴィリアは隣でそれを、糸のように両目を細めて見た。あれは以前目の当たりにしたことがある。アイドル王子降臨の仕草だ。

なんだかんだ言いながら、周囲の期待に応えるエドワードなのだ。いい人だなあと思うのだが。



キラキラのアイドルオーラがエドワードを取り巻いた。目を開けば、女子を射殺す、いつもの甘い視線がほとばしった。

顔つきが自信のあるものに代わり、アイドルメイクのおかげではなく、本来のエドワードがそうだと思わせる。甘やかながらも精悍な青年が起立していた。


完全にアイドル王子になり切ったエドワードを見て、ラヴィリアは悟られないよいにそっと距離を置いた。自分の方にキラキラが漏れてきているようで、しっしっと手で払う。


……やっぱり、これ苦手だわぁ。



エドワードは自信に溢れた笑みを一瞬引き締め、右手を天に向けた。

そのまま真っ直ぐにキースとブレイカーへ向け、人差し指をつきつけた。眼光は細く鋭く、片頬を上げて、エドワードは口を開いた。


「……信じてるぜ、お前ら」

「出た! アイドル王子っ」

「レッツらぶきゅん!」

「いよっ、エドワード王子っ」


囃し立てられてさらにポーズを変えている。色気を散々に振りまくキラキラ王子の本領発揮だ。

モノの見事に、宴会芸である。



海賊たちの指笛が鳴り響き、全力の拍手喝采とともに、笑い声が止まらない。海賊にもゴロツキにも、ヴィヴィン商会にも大ウケだ。


エドワードは煌びやかな笑みを浮かべながら、ブレイカーの元へ移動した。

そんなに近づくことある?と思えるほどに接近し、甘さを湛えた顔面をブレイカーの間近に据えて、じっと見つめた。

ブレイカーは傷のある頬を歪めて、エドワードを見返した。


「こうして話すのは久しぶりだな、ブレイカー」

「おう。相変わらずの化けっぷりだな、オージ」

「ブレイカーも相変わらずの強面だ。鋭い眼差しと他者を相容れない頑健な雰囲気。普通は、女子供には恐れられるはずなのに。

どうしてこれで、いつも女にモテんだか」

「女は本能で分かんだよ、本物のいい男ってのがよ」

「ふうん。

ブレイカーは、そんなにいい男か」

「見ての通りだ」

「そうか。では」


エドワードはブレイカーの頬の傷を指でなぞった。熱を持った指がブレイカーの古傷をゆっくりとたどる。ゾクッとした刺激がブレイカーに訪れた。

甘くねっとりとした色気と共に、エドワードは傷を撫でた自分の指に、優しく口づけをした。甘美な吐息がかすかに漏れる。

もったりとした熱い視線が、ブレイカーを射抜いていた。


「ブレイカーは俺が落とす。

激しく甘く責め立てて、俺なしには戻れなくしてやる。

そして、あんたを取り巻く女たちを、全員悔し涙で暮させてやる」

「……げえっ」

「散々女を泣かせてきたんだろう。

お前は泣くなよ、ブレイカー。悪いようにはしないから」


エドワードはブレイカーの赤茶色の髪を撫でた。撫で方が正に恋人のそれだ。一線を超えた男女のような。

ブレイカーがピシリと固まった。



うわあ、とラヴィリアは自分の婚約者を見た。まるで見た事のない世界が広がっていた。

エディって、実は男色……男の人が好きなのっ!?



一拍おいてゴロツキたちが爆笑した。一人は腹をよじり、一人は壁をだんだん叩いてている。ヴィヴィン商会は拳をテーブルに打ち付けて悶えていた。大ウケである。

キースもたまらず吹き出した。


「……ブレイカー。盛大に口説かれてんじゃねえか」

「口説かれてねえよ!テメエ、オージ、紛らわしい真似すんじゃねえ!」

「そうきたか、オージ。面白ぇ……」

「やめろよキース、笑うなよ」


エドワードがキースの背後に廻りこんで、厚い肩を抱いた。ふっと耳に息を吹きかけている。

押し付けるようにキースに抱きつき、その頬を片手で優しく覆う。エドワードの指が悪戯するようにキースの頬を軽く引っ掻いた。甘やかな声がキースに囁かれた。


「俺は、キースに笑われるのが、いちばん辛い」

「おい」

「だって、キースだけは俺の味方だろ」

「おおおい」

「なあ、キース。

前に俺と、したいって、言ったよな」

「仕事がしたいって話だろが!」

「キースのあの言葉、あれから忘れられないんだ」


エドワードは熱を含んだ視線でキースを見上げた。潤んだ瞳が色っぽい。

一瞬で固まったキースの周りで、海賊もゴロツキたちも、やんややんやしている。それはもう、見事に正しく宴会芸である。


「手当たり次第か、オージ」

「キース団長が落ちかけてるぞ、オージ」

「がんばれあと一息だ、オージ」

「ふざけんな! テメエらもオージ煽るな!」

「ブレイカー、キース。二人とも、どこを見ている?」

「はあ?!」

「目を離すなよ。周りのことは気にするな。今は俺だけを見ろ。

ブレイカー、キース。俺たちが共に繋がる未来に、思いの丈をぶつけて来い」

「オージ、訳の分からん熱い視線で俺を見つめるな!」

「甘い雰囲気止めろ!」

「部下の前だからって、照れるなよ。もっと可愛がりたくなる。

俺たち、あんなに激しく熱い夜を、何度も過ごした仲じゃないか」

「ただの野営だ、バカっ」

「徹夜で行軍だ、バカっ」


……収まらない状況を見て、カルロスがエドワード捕獲に動くまで、アイドル王子はキースとブレイカーを翻弄し続けていた。


エドワードはちらりともラヴィリアを視界に入れなかったので、らぶきゅん王子の攻略対象をキースとブレイカーに設定したのだと、ラヴィリアは思った。



(あれをくらうなんて、ご愁傷さま)


ラヴィリアは心の中で合掌した。

ねっとりべったり甘いエドワードは、しつこくて胸焼けする。見てる分には面白いのかもしれないが、趣味では無い。

ラヴィリアはちらりと目を向けてみた。

海賊とゴロツキ、ヴィヴィン商会代表のソーラとレイモンドは、全員ぷるぷるしながら撃沈していた。笑いすぎて身動き取れなくなっていたのだった。



ラヴィリアはまだ部下たちにからかわれているキースとブレイカーを眺めた。二人は極甘エドワードに当てられて、ゲッソリしている。気持ちは分かる。


ちなみにカルロスに捕獲された極甘王子本人は、カルロスの鋭い一撃で正気を取り戻した。今は我に返って、テーブルの下で膝を抱えている。多分だが、泣いている。

後悔しても仕出かしたことは変えられないので、放っておくしてかなかった。しばらく出てこないだろう。



エドワードの抱える軍のトップは、陽気で気兼ねなく、裏のない人たちだった。傍から見ていてエドワードが信用しているのがよく分かる。気の置けない仲、というのはこういう仲をいうのだろう。



エドワードにはこの人たちがいるから、きっと大丈夫。裏切りや離反など無縁の人たち。



ラヴィリアは知らずに指を組んで祈っていた。これから先の見えない任務につくエドワードを思って。

どうかこの人たちが、今のままずっと、エドワードを支えてくれますように。



真摯な祈りを捧げたことで、生まれながらの気品がラヴィリアから溢れ出していた。

それは美しく気高い雰囲気で、海賊とゴロツキたちを一目で魅了するには十分だった。

彼らは見たことも感じたこともない本物の高貴な空気に、気圧されていた。天使が降りてきたのだと本気で思った者もいた。



「(((( ガチで本物のお姫さんだ ))))」



男たちの心の声は、ラヴィリアに届くことはなかった。

らぶきゅん、らぶきゅん

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