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アイドル王子(自作自演)と、深窓の姫君(余計なコブ付き)の、【偽装結婚】?!  作者: 工藤 でん
第四章 無茶ぶり、きたー

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エディ大荒れ

本日の夕食のメニューは、スファルト王国で作り上げた料理の中でも、最強に違いないとラヴィリアは自負していた。

なんと、鹿が罠にかかったのだ。


脚が罠にかかり宙に持っていかれてジタバタしている鹿を見て、ラヴィリアは両頬に拳を添えて喜びを実感した。

アイスシルバーの髪を三つ編みにしてアイスブルーの瞳を細めた少女は、どこからどう見ても繊細で可憐だ。だが考えていることは至って現実的である。



うれしい。どうやってとどめを刺して血抜きしよう。



過去に鹿を捕らえた時は猟師のルートと共同だった。一人で仕掛けた罠で、人生史上一番の大物である。



悪戦苦闘の末血抜きに成功し、色々な部位を香草で塩漬けやオイル漬けにして保存した。保存された肉の量を見てカナメとウハウハする。しばらく鹿肉には困らない生活となる。養鶏も軌道に乗り鶏肉と卵が安定して手に入っていた。さらに最近懐が暖かくなってきていて、食卓に時々白パンが登場している。

卵と肉と白パン。最高か。


特に鹿肉の中でも一番の部位はというと、なんと言ってもモモ肉である。新鮮な鹿のモモ肉は塩コショウしてステーキにする予定だ。ミディアムレアに焼いた肉は柔らかくサッパリとしながらも、ジューシーにいただける。香ばしさと共に噛みしめれば、口中に肉汁が溢れ、しばらく至福の境地から戻れない。想像するだけでヨダレの止まらないラヴィリアである。美味すぎる。

鹿の骨から出汁をとった根菜と豆のスープも絶品である。深いコクと塩味が染み込んだ根菜はそれだけでもご馳走だ。マシューのおかわりが止まらないことを睨んで大量に作っておいた。


エドワードたちが城から帰り次第モモ肉を焼こうと、ウキウキしながら待っていたラヴィリアだった。

エディ喜んでくれるかしら。早く帰ってこないかな。


地獄の底を覗いたような暗い目をしたエドワードが帰宅したのは、それからしばらく経ってからのことだった。





「ラヴィ、無茶振りと無茶振りとがぶつかりあってムッチャムチャなカオスが出来上がったんだけど、詳しく聞きたい?」


アイドル王子の顔がカオスな色をしていた。メイク越しでも分かる最悪な顔色だ。血の気の全くない、ゾンビのお面のようである。


そんな顔色になった事情など聞きたくない。聞きたくないが、理由を尋ねない訳にはいかない。ラヴィリアは感情を逆撫でないように、静かに口を開いた。


「……どうしました?」

「もうね、タイミングが最悪。普通に考えてあれとか、これとか、それっていうのは、同時に進行するもんじゃないじゃん。なのに偶然が重なって誕生した極度のカオス。

もう俺のメンタルは爆発四散して、欠片しか残らないよ? 残った欠片すら可哀想だよ?」

「エディが何を言っているのか、標準語であること以外さっぱりわかりませんわ」

「だってさ。だってさああああああ。

……もうやだ。やだ、やだあっ!

めんどくさあい。やりたくなあい。やれる気もしなあい。誰か代わってえ」


闇を背負って帰ってきたエドワードは、あっという間に駄々っ子と化した。涙目を宙にさまよわせながら、粗末な椅子に長い体を投げ出し、じたじたしている。

面倒くさそうにピアスを取りネックレスを外し指輪をポイ捨てし腕輪を放り投げ、豪勢な上着を投げ捨てた。勲章がいくつか落っこちたのか、ガチャガチャと音が鳴った。

お行儀という概念を、リュタ城のゴミ箱に捨て去ってきたらしい。



ラヴィリアは宝飾品が外れる度に、キラキラ王子からオーラが外れていく光景を目の当たりにした。外れる度にどんどん素のエドワードに近くなっていく。宝飾品もキラキラ王子の一部なのだ。キラキラオーラは着脱可能。


ラヴィリアはふむと実感する。



エディには宝飾品なんていらない。キラキラオーラ邪魔だし。

シンプルイズベスト・イコール・エディ、という、宇宙の公式があるし。

駄々っ子エディ、可愛いし。

本人は本気で嫌がってるけど。今すぐ撫でくりまわしてぷにぷにして、思う存分甘やかせたい。好き。



というラヴィリアの呟きは、心の中だけに留めておいた。口にするのは、乙女心が待ったをかけた。



シャツの首のボタンを外して楽になったエドワードが、ようやくラヴィリアに向き合った。


「ラヴィ、俺しばらく留守にします」

「はい」

「でもラヴィも留守にしてもらいます」

「はい?」

「つーか、どーしてこんなタイミングでめんどくせーこと畳み掛けてくんのかないやがらせかな結託してんのかなふざけんななんにせよ許さねえあのジジイ今度会ったら残り少ない白髪ぶち抜いてやる」

「エディ、エディ。

エディの品性さんが、きれいさっぱりお留守になってますよ?」

「しょうがなくない? やりたくない仕事押し付けときながら、恩に着せたつもりになってる頭の悪いジジイの言い分大人しく聞いてたら、品性さんも家出するわ!」


ものすごく分かりやすく荒れている。だが一向に理由が伝わってこない。


困ったラヴィリアが助けを求めてマシューを見ると、マシューの金髪はそのまま後ろを振り向いた。今日はカルロスも共にやって来ているのだ。詳しい説明はカルロスから、という事だろう。



いつものように穏やかにラヴィリアに一礼したカルロスは、宝飾品を剥ぎ取って、ただのボンクラ青年となったエドワードの後ろ襟をむんずと掴んで、力ずくで立たせた。

「あれ?」という顔のエドワードを、そのままマシューにぶん投げる。受け取ったマシューはエドワードを引き摺って外に向かった。年月を感じる息の合ったコンビネーションであった。


「マシュー。沸点を超えた熱々エディ、冷やしてきてください」

「うん。とりあえず頭から水ぶっかけてみよっかな」

「お前ら、優しく! もっと俺に優しく!」

「「 はいはい 」」


しばらくして「きゃああああ!!!」というエドワードの悲鳴が遠くで聞こえたので、本当に水をぶっかけられているのだろう。



カルロスは穏やかに微笑みながらラヴィリアの前に座った。亜麻色の髪の下には、普段は見せない疲れを湛えた顔がある。カルロスも無茶振りに振り回されている一人だ。荒れているのはエドワードだけではないようだ。


カナメがエドワードの投げ散らかした宝飾品と上着を片付け始めた。アイドル王子のファンのくせに、メイクだけのエドワードにはまるで興味を失ったらしく、淡々と仕事している。アイドル顔にすっかり慣れたものだった。



「お見苦しいところをお見せしました」

「はい。見苦しかったですね」

「忌憚なきご感想ありがとうございます。

それではエディの大荒れの理由をご説明致します」



カルロスはテーブルに地図を広げた。スファルト王国の全図である。


スファルト王国は縦に長い国土で、西が海岸線、東が山脈、中心部が平野と見ると分かりやすい。ラヴィリアがいる首都のリュタは、中央より北東の平地にある。


カルロスは地図の上部、リュタよりも北側の部分を、くるりと指で円を描いた。


「我が国の北部地域は、長年マフマクン伯爵家という一族が治めております。住民からも信頼された実績のある大人しい一族かと思われていたのですが。

マフマクン伯爵領の南部に隣接している、オーサ公爵領より、マフマクン伯の動向がおかしいと通達がありました」

「動向がおかしい、ですか」

「オーサ公爵領に対して余計な介入が多いと。本来領地経営に関してはどの家も未介入が原則ですから、物議を醸しています。さらに、マフマクン領では軍備を整えている様子だとか」

「理由はあるのでしょうか」

「オーサ公爵によれば、理由はさっぱりわからないと」

「そうですか」


理由もなく、隣接する領地に無断で介入されたら腹も立つだろう。軍備も整えているというのもきな臭い。

マフマクン伯爵はどういうつもりなのだろう。意図が見えない。


カルロスは、男性の割に細く繊細な指を組んで、状況の説明をする。


「国よりマフマクン伯爵へ問い合わせの使者を出しました。結果、介入した事実はないし、軍備を整えているのではなく治安維持のための装備だと、返答が届いております」

「マフマクン伯爵は王都にお住いではないのですか? 有力貴族は領地に代理人を置いて、ご本人様は王都住まいの方が多くいらっしやるようですが」

「そうですね。オーサ公爵もその一人です。

しかしながら、マフマクン伯爵は北領で実際に領地経営をされています。王都へは会合や式典出席のため年に数度いらっしゃるくらいですね」

「なるほど。

それが闇落ちしたエディとどう繋がってくるのでしょう」


カルロスは穏やかな笑みを深くした。

ラヴィリアの聡明さはこういう時に発揮される。話が早い。


「エドワード王子はマフマクン伯爵領へ出向いての、聴取を命じられました」

「……それは」

「実際に出向いて話を聞いて解決してこい、という、いつもの無茶振りですね。相手の思惑が分からない上での交渉になりますので、かなり危険な任務と考えられます」

「それをエディがするのですか? 大丈夫なんですか?」

「大丈夫だと思った任務など、今まで数える程しかありませんでしたから」



ラヴィリアは息を詰めた。

危険な任務ばかりをこなしてきた副官は、今回も淡々と仕事をしようとしている。が、直面した危機に対してピリピリとして緊張感を纏っていた。


これがエドワードとエドワードの周囲で起こる日常なのだ。唐突に先の見えない無理難題を押し付けられ、対応に追われる。さきほどの駄々っ子エディが可愛いなど、呑気なことを思っている場合ではなかった。



カルロスが一つ息を吐いた。


「エディはエディの手勢だけでマフマクン伯爵との交渉を行うつもりだったのですが。

唐突にオーサ公爵より、公爵領の兵を実働隊としてエドワード王子の援護に当てたい、という申し出がありました。

マフマクン伯爵が国に対する反乱を企てているかもしれない、そのために牽制が必要、というのが理由です」

「本当に、反乱の気配があるのですか?」

「オーサ公爵はそう主張しております。正直なところ行ってみないと分かりません。

もしエディが聴取に赴いて、本当に反乱の狼煙を上げられたら、対応として兵隊がいなければ話になりませんので。オーサ領の兵を動員できるのはこちらとしてもありがたいですが、マフマクン伯爵を無駄に威嚇してしまう可能性もあります。

さらに練兵や軍事行動の教練も組み込まなくてはいけないかもしれないので、そこもまた頭の痛いところです」

「内乱、になるのでしょうか」

「どうでしょう。マフマクン伯爵にその気がなければ、ただ単にお互いの誤解を解くだけかもしれません。

それよりも気をつけなければいけないのは、オーサ公爵が我々に無償で兵を貸す、と言っているところですね」


カルロスが大いに含みのある口調で言った。


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