取りこぼしは許しません
「ところで」
ソーラはぐちゃぐちゃにした自分の息子たちの頭を今度はきっちり真っ直ぐに整え直し(これはこれでラヴィリアの笑いのツボを押さえていたが)、優雅に着席した。ソーラ特製ジャムパンはラヴィリアによりナイフで一口大にカットされていた。泥棒ヒゲの醜態はさらしたくないが、どうしても白パンが食べたいラヴィリアの策であった。
フォークでいただく優雅なスイーツに変身した己の料理に、ソーラはいたく満足していた。
「今回の青い鳥の姿絵はよかったわねえ。特に青い羽根のアクセサリー、手が出しやすい価格設定でかなり売れたでしょ?」
「まあな。まだこれから伸びると踏んでる」
「そうね。そのピアスを今もエディが付けてるってことは、ここアマツでも売ろうってことでしょう?」
エドワードは左耳のピアスに軽く触れた。青い羽根が揺れている。
「ああ。念入りに町歩いて人目に晒してきた。カルロスが、母ちゃんが運営するアマツの小売店の一角を借りたから、宣伝して来いって」
「ええ。相変わらずのキラキラ王子全開で営業してきたんでしょ? よくやるわよねえ」
「うるせー。食うためだっての」
「褒めてんのよお。何も無いところからお金なんて生まれてこないんだから。
ところで、その青い羽根の販売網、取りこぼしがあることには、気付いてるのよね?」
「取りこぼし?」
ソーラがエドワードに向けて、前のめりになっている。にこやかな笑顔が逆に怖い。
「気づいてない、なんてことはないわよねえ?」
「え? ええー?」
「青い羽根のアクセサリーは色を変えられるタッセルと共に若い女の子に超ウケてるわ。若い男の子にもピアスが普及し始めてる。町の購買層にはちゃんと響いてると思う」
「だよな。ちゃんと純利益も上がってるし、絵姿だけの時より効率よく稼げてるはずだ」
「ターゲットは若い世代。少し無理をすれば買える値段設定での売り出し。なかなか良策ではあるのよ。
でも、ターゲットを絞りすぎてない?」
「俺の絵姿買う世代だろ。特にターゲットを外してるとは思わないんだが」
「お金ってどこにあるんだと思う?」
ソーラがトントンと指で膝を叩いている。その指には大きな赤い宝石のついた指輪が嵌められていた。王からの贈り物だろうか。
あまり見かけないほどの大きさの宝石は、いったいどれ程の価値があるのか。
ラヴィリアははっと顔を上げた。次いでエドワードもピクリと身動ぎをした。
思いついた二人は目を見合せて呟いた。
「「富裕層」」
「正解! 」
「取りこぼしって、そこかあ」
「エディ、あんた王宮でも若い娘さんたちにキャーキャー言われてんでしょう? 貴族の娘さんたちだって、推し活したいに決まってんじゃないの」
「貴族の娘だろうが、別に推し活してくれて構わないんだけど。金になるし」
「単なる青く染めただけの羽根なんか身につけるわけないでしょ、貴族のお嬢様が」
「羽根なんかって……唐突な商品へのディスり」
「庶民はいいのよ、ワンポイントとして映えるわ。でも、たとえばドレスアップした今のラヴィちゃんがその青い羽根身に付けてみてよ。絶対浮くから」
「……確かに」
ラヴィリアが青い羽根のアクセサリーを身につけて町を歩いた時は、簡素なワンピースだった。
高品質な生地で豪華に縫製されたドレスの前では、青い鳥の羽根は明らかに安っぽい。
「いい? お金を唸るほど持ってる客層を取りこぼすなんて愚の骨頂よ。なんとかして掴み取って、搾り取らなきゃ」
ソーラはサイドボードに置かれていた小箱を持って、二人の前に置いた。蓋を開けるとキラキラと青い光が反射した。
箱の中には煌びやかな羽根が鎮座していた。羽根の形をした銀色の台座に、青と白の細かな石がグラデーションを織り成してはめ込まれていた。
青い羽根を模した、宝石を使ったピアスだった。
「はい。こちら、青い羽根のピアスが売れていることをカルロスから聞いて、職人に作らせてみましたあ」
「くっ、ゴージャス……」
「台座もなるべく軽くして、耳に負担がかからないようにしたの。もちろんタッセルもプレートも付けられるわ。スパイダーシルクのタッセルを付けてもいいかなと思ってるの」
「ば、バリゴージャス……」
「貴族のお嬢様も取りこぼしなく購買層に組み込めると思うんだけど、どう?」
「絶対売れると思います……」
「そうよねえ。売れるわよねえ。
しかも宝石は小さくていいから、宝石の採掘場でクズ石を大量買いして安くまかなえるのよ。儲けもでかいわよお」
ということで、とソーラはエドワードに満面の笑みを見せた。にこやかな笑顔は、獲物を狙う肉食獣にしか見えなかった。
「私も一枚噛んでいい?」
「すでに噛む気満々じゃねえか! 試作品まで作って!」
「そうなんだけどー。でもあんた一人じゃこのピアス作る初期投資すら覚束無いじゃない?」
「確かに無理だよ! 貧乏生活長すぎてこんな豪勢なピアスの製作なんて思いつきもしなかったよ! すいませんでした!」
「だからあ、今回共同出資ってことにしなあい?」
「共同出資?」
ぴたり、とエドワードの動きが止まった。いそいそと母親の隣に移動する。チョコレート色の目が金の匂いにつられて輝いていた。
用意周到なソーラが共同出資に関する書類を取り出して打ち合わせが始まった。「あんたいくら出せるの?」「二百が限界」「せめて三百くらいなんとかしなさいよ」「貧乏舐めんなよ。俺の取り分何割だ?」「金ないくせにセリフだけは一丁前よね」と親子の仲良い会話が続いている。
その間ラヴィリアは新しくお茶を入れると、マシューの前に置いていた。
「いつもこうですの?」
「いや、エディが一方的に商売下手だって、母ちゃんに怒られてるのが多いかな」
「エディは商人じゃないのに」
「母ちゃんがやり手過ぎるからなー。
姫さん、あとパン二個だぞ」
「残ったジャムたっぷりの最高の逸品ですね」
「俺らクカの実のせいで無駄に魔力上がってね?」
「使い道のない魔力を上げるって、とっても贅沢ですわー」
「それな」
マシューと世界一おいしいジャムパンを食べるラヴィリアであった。
三章終了!
四章はラヴィちゃんメインの予定です。
だと思う、多分。(←行き当たりばったりをそろそろなんとかしろ)




