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アイドル王子(自作自演)と、深窓の姫君(余計なコブ付き)の、【偽装結婚】?!  作者: 工藤 でん
第三章 商売繁盛したいんだ

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利益確定

『青い小鳥の姫』の噂は瞬く間に城下へ広まって行った。

『青い小鳥の姫』とは、もちろんラヴィリアのことである。


エドワードが暗殺者に襲撃され、それを見た繊細な姫君は可哀想に失神してしまわれた、という尾ヒレまでついて噂は流れていた。真実ではあるがラヴィリアとしては襲撃の最中、ぐーすか寝てただけなので正直いたたまれなかった。



絵姿は快調に売れていた。エドワードの指に留まる青い鳥がラヴィリアを連想させ、それを優しげに見つめるエドワードの横顔、というのが女子の琴線に触れまくったようだ。私もこんな風に見つめられたい愛されたいきゃー!と、絵姿を売る商店の店先で盛り上がる女子を量産している。

刷っても刷っても売れていくので、印刷所の親父はウハウハである。次回作も二色刷りにしようぜ早く新作持ってこいよと催促された、とカルロスが話していた。最初の渋りが嘘のようであった。


ピアス・イヤリング・ネックレスの売上も好調だ。

エドワードが登城の際、左耳に青い羽根と銀のタッセルを揺らしながら馬に騎乗する姿は、彼女想いの鑑とされている。

エドワードを真似てエドワードと同じ色合いのピアスを付ける女子も多いが、中にはチョコレート色のタッセルをつける子も現れた。エドワード推しである。


若い男子の間でもピアスはありだという風潮が流れ出している。堂々と青い羽根のピアスを付けてキャーキャー言われている男がいるのだ。モテ要素があるならば全力で乗っかるだろう。

町では左耳に青い羽根のピアスをつけた男性を見かけるようになっていた。タッセルやプレートが付いていなければ彼女募集中、付いていれば想い人あり、という暗黙のルールまで生まれだしていた。


青い羽根はそのままでタッセルやプレートの色を変えることが出来る、というアイデアは製作を担当したおばあちゃま方の知恵であった。自分好みに簡単に変えられる、というのが若者にとてもウケた。自信をつけたおばあちゃま方は仕事に意欲的になり、若干若返ったようだった。




本日はエドワードの小屋で、販売開始から半月分の売上計算が行われていた。エドワードが細かな計算を書き付けて結果を出していく。それをカルロスが表にまとめている。

下城したてでアイドル王子のメイクのまま、現実的な事務計算を淡々とこなしているエドワードである。ラヴィリアは、キラキラ王子のエドワードの絵姿を手に、きゃあきゃあしている女子を思い、遠い目になってしまった。

ねえ、売上計算してるエドワード王子、想像したことある?



「絵姿の売上枚数、銅貨50枚の品が3828枚、銀貨一枚の品が4589枚。意外ですね、高い方が売れてます」

「紙質がいいから青が映えるもんな。

印刷屋は取り分は四割で紙とインク代は向こう持ちだから」

「ピアス・イヤリングが570個、ネックレス202個、取り分が三」

「そこから原材料費引いて……原材料費の領収書どこだ?」

「染料代も引いておいて下さい。そこからカフェの損害代、宣伝活動費……」


二人でブツブツ言いながら数字と睨めっこしているのを、ラヴィリアは慣れた手つきで肉を串に刺しながら大変そうだなあと思って見ていた。

こんな細かな事務作業まで自分たちでやっているなんて知らなかった。企画だけだしておいて自分は何もしていないのが申し訳ないが、あまり役に立ちそうもない。せめて美味しく串焼きを焼こうとせっせと串を量産していく。


「……これで純利益確定、と」

「お、出た?」

「金貨289.2枚。目標大幅に達成です」

「よっしゃ、クリア!」

「まだまだ継続して利益出そうですし。地方でも売上開始しましょう。頑張った甲斐がありましたね」

「うん。

ということで、ラヴィ」


エドワードが出来上がった串にぱらぱらと塩を振っているラヴィリアに声をかけた。見かけは清楚なお嬢さんだが、職人のような手さばきである。


「ドレスの直しは大丈夫。払える目処が立ったから、いつでも仕立て屋に出してもいいよ」

「ありがとうございます。ですが、もうすでにドレスはお直しに出しておりますの」

「え……出して、大丈夫だったの?」

「ああいう所は後払いが基本ですので。お金はエディがなんとかしてくれると信じてましたし」

「はあっ? 嘘でしょ、まさかの見切り発車!」

「大丈夫だったから、よかったじゃないですか」


悪戯っぽく笑われると何も返せない。美人てずるいなぁとエドワードは思った。


「実は、エディにもう一つお願いがあるのですが」

「今度は何なの?! いくらかかるの?! もう出せるお金なんてないからねっ?!」

「エディが守銭奴みたいな言い方をしてきます……」

「お金ってあると思っててもすぐなくなるんだぞ! マイナスになるなんてあっという間なんだから!」

「世間で持てはやされている、アイドル王子の言葉とは思えません」

「金欠生活が身に染みてんだよおおお」


振り絞るようなエドワードの言葉に、ラヴィリアはうんうんと頷いた。ラブきゅん王子のファンたちにはこの顔は見せられない。



ラヴィリアは洗った手を拭いてエドワードのそばに近付いた。金の増減で心が荒んだチョコレート色の目を覗き込んだ。


「お願い、というのはですね。

わたくし、エディのお母様にご挨拶に伺いたいのです」

「あ、ああ……あ?

あれ、会ってない?!」

「お会いしておりません」

「げ。マジか。

てか、カルロス! どうせ向こうに報告入れてんだろ。スケジュール調整して予定組んでおけよ!」

「先方からはエディとラヴィリア姫の都合の良い時に、と承っております。エディが完全に忘れている、なんてことはまだ申し上げておりません。はい、まだ、申し上げておりませんよ」

「おまえ、絶対確信犯だろ。

だけど、忘れてたってことは言わないで。いや、気づいてるんだろな、あの人は」


先方を思って 頭を抱えるエドワードがいた。

カルロスが馬鹿だなあという視線をエドワードに向けていたが、ラヴィリアを振り向いた時にはいつもの穏やかな微笑みをたたえていた。


「エディの母上についての情報はございますか?」

「お城に上がれるほどの商人であった、ということくらいです」

「了解いたしました。

人となりは直接お会いしてみるのがいいでしょう。僭越ではございますが、面白い方でいらっしゃいますよ」

「左様ですか」

「今は国王陛下がお待ちの別邸の一つにお住いです。王都の郊外で、アマツという地域になります」

「街の中心部にお住いでは無いのですか? もう商人のお仕事はされていないのでしょうか」

「いやいや、これが……」


カルロスは苦笑した。そのままエドワードに視線を移した。エドワードは困ったように眉を寄せている。


「俺の母から商人の仕事を取り上げることは不可能だね。だって国王陛下ですらできてないし」

「え? ええっ?!」

「俺の母は国王陛下の、まあいわゆる妾とか愛人の立場になるわけで。陛下の力でなんの不自由もなく贅沢な暮らしが保証されてるんだ。

普通ならそれに甘んじて贅沢三昧すればいいんだけど」

「……はい」

「じっとしてることができない人なんだな。別邸を郊外に指示したのもうちの母。別邸が建つアマツって地域は、物流の要だから。内陸と海洋の商品がそこに集約されて王都に流れる。情報も同時に入る」


エドワードはトントンとペンの先で数字を示した。書き連ねた収支が綺麗に並んでいた。


「常に情報を入れて、次に何を仕入れてどこに売るか虎視眈々と狙ってる。

俺の母親はそういう人」

「なんだか、怖そうな人に思えてきました……」

「うーん? 普通の人だよ。暗殺者が送られたくらいで怯えるし」

「当たり前です! 暗殺者慣れしているエディの方が普通じゃないですからねっ?!」

「えー?」

「自分の命狙われたら怯えるのは当然です!」


ラヴィリアが叫ぶと、納得いかない顔のエドワードが納得いかなそうに頷いた。暗殺者に慣れすぎという、自分の異常に気付いていない。まあ、マシューも近くにいないしなと、見当違いの理解をしている。


「じゃあ、近いうちに顔合わせのセッティングを」

「明日ですね」

「カルロス、明日なの? 早くない?!」

「エディが母上との顔合わせに気づき次第動くつもりでいましたので」

「明日、公務が! 会議が!」

「会議参加したってエディの意見なんか通らないですから。明日は欠席で通達しておきましょう」

「カルロス、身も蓋もないこと……」

「では母上様にもご連絡致します」


ラヴィリアはきょとんと成り行きを見ていた。とんとんと話が進んでしまった。



明日、エドワードの母との対面が決定した。

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