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アイドル王子(自作自演)と、深窓の姫君(余計なコブ付き)の、【偽装結婚】?!  作者: 工藤 でん
第八章 君を手に入れるために

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モヤのかかったような

今回は、マリ王国国王、サバートの視点です。

ラヴィリアのお兄ちゃんですね。

※※※マリ王国国王、サバート視点です※※※



サバートはモヤのかかったような頭を強く振った。いつからだろうか、自分の思考が宙に浮いているように、定まらなくなってしまったのは。


目の前では軍務卿が現在の戦況を報告していた。

スファルト王国に宣戦布告をし、攻め込んだのはマリ王国だ。国王である自分の判断だ。

ラヴィリアを取り戻し、パルカ王国の宰相に嫁がせる。パルカ王国と連携し、スファルト王国を滅ぼす、もしくは縮小させる。

画期的な魔道具を開発したマリ王国に敵はいない。勝てる戦いだ。


そう思っている反面、なんてことをしているんだと訴えている自分もいる。

あの可愛い妹のラヴィリアを、無理矢理スファルト王国へ送り出した時もそうだった。なんて事をしてしまったと、後で激しく後悔した。

挙句に、『王族接触拒絶症』を理由に、スファルト王国へラヴィリアを返還しろと要求した。厚かましいにも程がある行動だ。

己の行為を否定したいのに、己の行動が止められない。


自分はどうかしている。

サバートはもう何年もそんな思いに囚われていた。





いつから自分が自分でなくなってしまったのだろうか。

従姉妹のアルグレッドと結婚した頃からか。


そもそもサバートはアルグレッドのことが苦手だった。サバートには隠しているつもりのようだが、アルグレッドは贅沢を好み気位が高く、他人を見下す言動が端々に現れる女性だった。自分にだけ媚びを売る人間は、話していて楽しい相手ではなかった。



そんな相手だったのに、結婚してからアルグレッドに溺れた。

アルグレッドなしには夜は過ごせないようになってしまった。自分の上であられもない姿で動く女を、軽蔑すると共に手離せないとも思ってしまう。湧き出る嫌悪と、快楽を求める体の耽溺が、両立していた。

自分はどうかしていると頭の中で警鐘が鳴っているのに、アルグレッドと体を重ねる度に、その警鐘はどんどん遠のいていった。



政務の間もぼんやりする事が増えた。やはり思考が定まらず、モヤのかかった頭は上手く働かない。幹部たちの言いなりになっている自覚はあったが、それが悪い事だとも思わなくなっていた。


これはいくらなんでもマズイのでは、と自覚したのは、スファルト王国から軍糧を買い入れた支払いが滞った時だ。国庫はそこまで疲弊していたのかと驚いた。書類は全て目を通していたはずなのに、いつの間にか多額の借金を抱えていた。


ラヴィリアをスファルト王国第二王子の元へ嫁がせる、と自分の口から思いもかけない言葉が飛び出した。スファルト王国と姻戚関係を結び、支払い期限を延長させるのだと、すらすらと話す自分は自分ではなかった。



サバートは年の離れた妹を愛していた。生まれたばかりのラヴィリアを抱いた時、こんなに可愛い生き物がこの世にいるのかと思った。「おにーたま」と自分を追いかけてくるアイスシルバーの髪の小さな妹は、世界で一番可愛い存在だった。


その妹をよその国へ嫁にやるなど、考えられない。『王族接触拒絶症』を発症し、会うことすらも叶わなくなってしまっていたが、それでもラヴィリアは大切な妹であることに変わりは無い。


それなのに、サバートは自らの政策として、ラヴィリアを嫁がせることを決断した。それしかないと思い込んだ。

やはり頭にはモヤがかかっていた。





魔法局から斬新なアイデアが生まれ、それが実用化された。誰でも魔法を遠くに飛ばせる兵器、『魔弓』の開発に成功したのだ。射程距離は弓矢の二倍以上、魔力のない兵士でも魔法が扱えるという、画期的な兵器だった。

ちょうどパルカ王国がマリ王国に対して、侵略行動を起こしていた。これを『魔弓』により、完膚なきまでに叩き潰した。賠償金の支払いに応じなければこちらから乗り込むと脅しつけると、簡単に金は手に入った。


力を持つということは、こういうことか。

サバートはぼんやりとした頭で思った。

耕作地の少ないマリ王国。常に食糧不足が懸念されている国。高地にあり厳しい冬がやってくると、凍死者や餓死者が出る村もある。

豊富な食料を持つスファルト王国。飢えない国。

欲しい。あの国の麦畑が欲しい。金で買い占めたい。武力でもぎ取りたい。


――ラヴィリアを使えば、奪い取れるのでは。


サバートの罪悪感が、急激に薄れて行った。





「我が軍は『魔弓』部隊を投入し、スファルト王国軍に猛攻をしかけております」

「スファルト王国軍は為す術なく後退し、南部のモウカ平原にまで撤退。そこで布陣する模様」

「エドワード新国王が参戦している、との情報が入りました」

「なんと、国王自らが!」

「猛将と謳われるだけの男だな。最前線に現れるとは」

「エドワードの首を取れば即座にこちらの勝利だ。畳み掛けろ」

「目標はエドワードの首。どんな手を使ってでも討ち取れ!」



会議室での会話が遠い世界のことのようだ。

サバートはぼんやりしたまま、幹部たちを眺めている。

本当に今、戦争は起こっているのか。

軍務卿も内務卿も、盛んに唾を飛ばしてがなり合っているが、戦争をしている実感は無い。情報に一喜一憂しているだけではないか。会議室は戦場の気配を持ち込んでいない。

いったい、戦争はどこで起こっているのだ。



「……スファルト王国軍に、『魔弓』が効かない……?」

「どういうことだっ? 誰からの報告だっ!」

「戦の当初は、スファルト王国軍は無様に逃げ惑っていたのではないかっ?!」

「どうやら、演技だったようです。我が軍を平原の奥地にまで誘い込むための」

「『魔弓』による魔法攻撃を、弾き飛ばす装備を開発したもよう」

「装備は変わっていない。『魔弓』の攻撃に対抗する術を考え出したようだ」

付与魔術(エンチャント)を使い、魔法防御『リフレクト』を、軍の前衛に重ねがけしている!」

「魔法隊を攻撃に使わず、防御魔法の『リフレクト』に全振りしたのか……!」

「我が軍の魔法隊の攻撃魔法も、弾かれております……」

「『魔弓』部隊、撃ち尽くしました。兵器に魔力を補充するまで、『魔弓』部隊は後方で待機せざるを得ません!」

「白兵戦でスファルト王国には勝てない! 数が違いすぎる!」



幹部が慌てている。

イライラを事務官にぶつけ、当たっている奴もいる。


ああいうイラついた態度は、よく見ている。アルグレッドがよく見せている顔だ。幹部たちの顔はアルグレッドの表情によく似ていた。

何を与えても満足することの無い女だ。欲望の絶えない女だ。思い通りにならず癇癪を起こし、妬みと苛立ちを原動力にして生きているような女。

なぜ、あんな女を愛してしまったのだろう。



「ほ、ほほ報告します!」

「今度はなんだ!」

「我が国の北方を、スファルト王国軍が進軍してきています……」

「北方……北?!

なぜ、我が国の領土を、スファルト王国軍が進軍している!」

「すでに城下は半分以上制圧、この城を包囲し始めております!」

「なんだとっ……」

「城内には近衛兵しかおりません。我が軍の主力は、モウカ平原へ進軍してまっています。城を囲むスファルト王国軍に対抗する戦力はありません」

「……陛下っ」

「いかがしますか、陛下っ」


……いかがしますか、じゃないだろうが。お前らが率先して進めた戦争じゃないか。不意を付かれて対応することもできないのか。


結局最後は、国王の責任だ。

国王という職は、責任を取らされるための立場だ。そのために存在する、国の頂点だ。


スファルト王国を奪い取ると、意気込んでいたのは家臣たちだ。先程まで意気軒昂に盛り上がっていたのは、この国のトップたちだ。

それが、負けが込んだら全ての責任は国王に押し付けるのか。調子に乗って他国に侵略をけしかけたのは、お前らも同罪だろうが。この国の幹部共は、責任のとり方すら知らないのか。全てを国王に投げつけるだけで、終わりか。


……だがまあ、国王なんてそんなものなのだろう。



サバートは、ここ数年で一番リアルを感じた気がした。

これは、現実だ。

ふわふわ浮いていた自分が、ストンと落とされた。そこは、暗くて冷たい孤独な椅子。

相変わらずもやのかかった頭で、周りの様子を窺ってみた。

周りには誰もいなかった。


これが現実だ。



サバートは立ち上がった。会議室にいる、全ての人間の目が注がれていた。


「……白旗を掲げろ」

「……陛下っ」

「全面降伏する。

エドワード国王へ、面会要請を出せ」


完結の目処がたちました。やっほい。


あと六話です。

毎日投稿します。楽しんでいただけたら嬉しいです。

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