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ラヴィリア姫

あんまり普通じゃない姫と王子があんまり普通じゃない環境に置かれたらどうなるのかな、から始まりました。

よろしくお願いします。

純白のベールの向こうに、ラヴィリアの伴侶となる男が佇んでいる。エドワードは白地に金とエンジの入った王族の正装で、普段より大人っぽく威厳に満ちて見えた。元々派手で綺麗な顔立ちと立ち居振る舞いで城下の女性たちを虜にしていた男だ。ハレの日である今日は一段と眩しい。

かく言うラヴィリアも、純白の輝くウェディングドレスをほっそりとした身にまとい、姿勢よくゆっくりと歩く姿はまるで妖精のよう。初めて間近にラヴィリアを見る者は惚けたように口が開いている。ラヴィリアの姿を作り上げた侍女たちは、その姿にいくつものため息をもらしていた。

ラヴィリアはエドワードのもとにたどり着きその顔を見上げた。甘やかに微笑んだエドワードの差し出す腕に手を絡める。一歩一歩祭壇へ向かう二人は、共に光の元へ進んでいくかのようだった。

神父の誓いの言葉に静かに応えた二人は、お互いに向き合う。エドワードはラヴィリアの純白のベールをそっと持ち上げ、自身の伴侶を見つめた。清楚で可憐な姫は、輝くような笑みを浮かべて見つめ返してきた。



――やっと結婚まで辿り着けた。

人には言えない事情だらけだった二人は、今日ようやく結ばれる。

誓いのキスをするためにラヴィリアに顔を寄せたエドワードは、そのままピタリと動きを止めた。ラヴィリアの肩を抱く手に力が込められた。

ラヴィリアがエドワードを見ると、複雑そうな表情を湛えた顔がすぐ側にあった。ラヴィリアは小声でエドワードに問いかけた。


「エディ、どうしたの?」

「いや、走馬灯のように今までの事が思い起こされて」

「……わかる」

「今思い起こすことじゃないんだけど」

「そうね、あの頃にはもう……」


二人は結婚式の祭壇の前だというのに、深深とため息をついた。そして仲良く吐き捨てるように呟いた。



「「 二度と戻りたくない 」」





◇ ◇ ◇






「婚約、でございますか」


王都から寄越された近衛騎士が、膝をつきラヴィリアに深々と頭を下げていた。使者の姿をソファに腰掛け見下ろしながら、ラヴィリアは頬に手を添えて軽く首を傾げた。青みがかったアイスシルバーの髪が白皙の頬に掛かる。

ここは王都よりかなり離れた山奥の別邸だ。古くに王族の避暑地として建てられたものである。ラヴィリアが静養のため移り住んで四年が経っていた。

広い応接室にはラヴィリアと使者である騎士、それに侍女のカナメが控えている。古びてはいるが手の込んだ装飾の施されたテーブルや、光沢のある生地に複雑な刺繍で彩られたソファは、さすが王族の住まいに相応しいものだった。

ラヴィリアは儚げな眉を寄せて、思い出すようにアイスブルーの瞳を虚空に据えた。


「ご婚約といいましても……確か、アムール王太子殿下はまだ五つでございましたわね。わたくしと十二離れておいででしたから。

かなり早いご婚約ですね」

「……姫様。アムール王太子殿下の婚約ではございません」

「あら、アムール王太子殿下ではない……となると。

ああ、はとこのルイスがご婚約ですのね! 最近世間で流行ってるからと言って、もう五回も婚約破棄しておられましたもの。数多のご令嬢から大いに距離を置かれてると噂を聞いてましたが、ようやく身を固める決心をなさったのね。夢見がちな男子でしたから心配してましたのよ」

「……姫様」

「わたくし、王都を離れて四年も経ちますの。親族の慶事も弔事もなかなか耳に入らなくて困ってしまいます。

わたくしが詳しいのは近くの森でいつ美味しい実がなるかくらいですわ。あと三日ほどでクカの実が食べ頃に……」

「ご婚約は、ラヴィリア姫様のことでございます!」


騎士が強い声がラヴィリアの声を遮った。

ラヴィリアがきょとんと騎士を見下ろす。騎士はラヴィリアの年の離れた兄である、サバート王自らの封書をラヴィリアに渡してから、ずっと面を伏せたままだった。 騎士は自身が跪く床の白い大理石を見つめながら、なるべく冷静に内容を伝えるよう声を抑えた。


「ラヴィリア姫様の、スファルト王国へのお輿入れが決まりました。隣国の王子様でございます」

「!」

「ご婚約されるのはラヴィリア様、あなた様です」

「! ! 」

「ご婚約、おめでとうございます」

「! ! ! 」



……奇妙な沈黙がその場に流れた。

声どころか衣擦れの音すら響かない。穏やかな鳥のさえずりだけが応接室に届いていた。

騎士は何も言葉を発しないラヴィリアを訝しく思い、不敬にならぬようそろそろと目を上げた。

きちんとソファに座るラヴィリアがいた。


ラヴィリアはきょとんと小首を傾げたまま固まっていた。彫像のように動かないそれは、美術品として充分価値が出そうなほど儚く繊細で美しい。十七歳を過ぎて、透き通るような透明感を持つラヴィリアであった。

ただし残念なことに置物ではないラヴィリアの顔は、時間の経過と共に血の気を引いてどんどん青くなっていった。

侍女のカナメが、ラヴィリアがさっと読み流していたサバート王からの手紙を丁寧に開き目を通すと、ラヴィリアの目の前にかざした。



『愛するラヴィリア


そなたの輿入れ先が決まった。

スファルト王国第二王子、エドワード・オグ・ヴィヴィン殿である。

幸いな事に年齢も近く、よい縁談であると判断した。ラヴィリアの幸せを切に願う。

そなたの体質については先方とうまく掛け合うように。

日時については追って沙汰する。


マリ王国国王

サバート・フォンゴート・マリ』



名前の後に玉璽まで押されている。

国からの正式な命令書である。

絶対逆らえないやつである。


伝令の騎士は幼い頃から見知った美しい姫の顔色が、青から徐々に赤に変色する様をじっくりと眺めることとなった。今では顔全体が真っ赤である。

怒りが頂点に達したラヴィリアは、自分がマリ王国国王の王妹、ラヴィリア・フォンゴート・マリであることを完全に忘れた。


「………………けンな」

「……姫様?」

「……ふざけンな」

「……姫……」

「ふっざけンな、クソお兄様あああァァァ!!!!」


ラヴィリアの絶叫が応接室にこだました。


……ラヴィリア姫様、その汚い言葉はどこで身に付けられた。と、この時謹直な騎士は思っていた。

久々の投稿で、前書き後書きの存在を忘れてました。

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