表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

9 嘘コクなんて些細なことと知った女◇サクラ◇

リュウに私の告白が嘘コクだってバレてた。


断罪タイムが始まる。



「あっ、あの、リュウ」


けど、予想してなかった言葉が、リュウの口から出てきた。


「あ、気にしないで秋庭さん。俺、嘘コクでも構わないし」


「え、え、え・・」

「ごめん、先月の放課後、偶然に教室の前を通りかかって、嘘コクから俺としばらく付き合ってくれること知ってたんだ」


リュウが、最初から知ってた?



「最初は軽いノリで付き合ってくれた感じだけど、途中で雰囲気が変わってきたよね。冬美のこと知ったんでしょ」


嘘コクで騙そうとした私が取り乱していて、なぜ傷つけられたリュウが笑っているんだろう。


「ありがとう秋庭さん。同情でも、すごく優かったもんね。お陰でこの1か月は気持ちが楽だった」


「ごめっ、ごめんリュウ」


「謝らなくていいよ、秋庭さん。だったら俺からも謝らなきゃ」

「・・なにを」


「俺も秋庭さんを利用させてもらった。冬美に秋庭さんが似てるから、冬美の代わりにしちゃったんだ。申し訳ない」


そうだった。ちょっと前にマキに見せてもらった写真。あの中で笑ってた女の子は私に似てた。


私に彼女を重ねてると思うときはあった。けど、そんなこと構わない。


「だけど私、この1か月でリュウのいいとこ沢山知って、リュウが・・」

信用されなくてもいい。本気の告白だけさせて欲しい。


「ちょっと待って」

「あっ・・」


「秋庭さん達が俺をからかってるんじゃなくて、真面目に接してくれるようになってたのは俺も感じてた」


「ごめん、ふざけて近付いて、けど私・・」

「大丈夫。俺の中には何もわだかまりはないよ。だから・・」


私はリュウの顔を見た。リュウは嘘偽りのない、優しい目を向けてくれた。


こんな馬鹿な女に。


「だから、秋庭さん、これからも友達でいてよ」


「・・あ」



私はショックを受けた。


許されないことをしたのに許された。


だけど私は図々しくも、嘘コクのこと隠してリュウの彼女になりたいと思っていた。


だけどこれじゃ彼女になれない。


これからクラスの中で、リュウはみんなと仲良くなっていくだろう。


リュウに好意を持ってる女の子と、リュウの仲が深まるのだろか。


それ黙って見ているしかないのだろうか。


そして裏で泣きながら、笑って祝福するのが私への罰なんだろうか。


「とも・・だち?」

「うん、もう俺が冬美と付き合えないの知っただろうけど、やっぱり冬美のことが・・」


付き合えない? だったら、せめて私の誕生日に会いたい。引導を渡されるにしても、その日に会いたい。


「リュウ、私はリュウのことが本当に・・」


リュウは笑顔を崩さず、私が知らない顔になった。


優しくて、悲しくて、見ているだけで泣きそうな瞳。




「前に観覧車から東の方に岬が見えたの、覚えてる?」


遊園地の観覧車に乗ったとき、前に街と海、そして右の方に岬があった。


「冬美、あそこにいるんだ」


やっぱり冬美さんはフランスから帰国しているんだ。そして明日、リュウと会う約束をしている。


たしか、あの岬があるのは隣町。電車に揺られて30分くらい。その気になれば、いつでも行ける。


「秋庭さんごめんね、13日の誕生日にお祝いしてあげられなくて。てっきり、もうその頃には俺達の付き合いは終わってるかと思ってた」



「そんなこと考えてない。図々しいけど私、リュウと仲良くしたい」


やっと言えた。私は嘘コク女、冬美はリュウを捨てた女。


最低な2人の争いになるけど、私は負けたくない。


「・・そっか、ありがとう。俺、明日こそ冬美に報告してくるよ。素敵な友達が増えたって」


「え」。私はリュウの顔を改めて見た。



「お墓あるんだ。冬美、あそこで眠ってる」


「お・・はか」


それからリュウが何を言ってたか覚えてない。


リュウのことよく知ってるマキの話を理解してなかった。


なんでマキが、リュウを元気づけただけで、あんなに私に感謝したか。


マキが『冬美』の写真1枚を見せるだけで、なんであんなに慎重になったのか考えてなかった。


リュウのことを好きになって、浮かれすぎていた。


なんで、リュウが嘘コクと分かっていて、あんなに簡単に私を受け入れたか。


嘘コクされるなんて、すでにリュウの中では大したことじゃなかったんだ。


◆◆◆

帰りにリュウに家の前まで送ってもらった。


最後に念を押された。


「俺が忘れるから秋庭さん罰ゲームのこと、2度と口に出しちゃダメだよ。誰かに聞かれたら、友達2人にも迷惑かかるからね」


リュウは被害者なのに、こんなことまで考えてくれる。



私とリュウのことを心配していたアンリから電話をもらったけど、まともに話せなかった。


アンリがメグミを呼んで、家まで来てくれて、私の部屋の中。


メグミがネットで冬美さんのフルネームで調べ、アンリが彼氏のツテを思い出してリュウの知人に聞いてくれたら、拍子抜けするくらい、簡単に事実が分かった。



去年の6月13日、冬美さんはフランスで交通事故に巻き込まれた。


そして両親とともに亡くなっていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] サブタイのナンバリングが9でなく10になっています。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ