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クアトロ・ステラ  作者: 赤月白羽
第一章 駆け出し二人と巨大猪
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駆け出し二人と巨大猪 ~前編~

しばらくお休みいただき久々の投稿となり、再び定期的に投稿させていただきます。予定が変わる時は告知させていただきます

#8『駆け出し二人と巨大猪』前編


 ハナが魔獣狩りの為に村を去ってから翌朝、まだ空が白み始めたばかりで辺りが朝もやに包まれる中、狩人小屋の扉がそっと開き二つの人影が滑り出た。狩人小屋を出たハンスとレーナは、足音を忍ばせて人目を避けるようにして村を出た。


 ギガスボアを狩ることに決めてからハンスは装備の準備をすると先日ギガスボアと遭遇した経験からどう戦うかを考え、レーナは狩人小屋の書棚に納められた書物を元に狩猟道具とクロスボウ用の弾の製作法や薬品調合の知識を学び、森で集めた植物や茸などで作れる限りのクロスボウの特殊弾と狩りに活用できそうな道具や薬品の製作につとめ、まだ夜が明けないうちに狩人小屋に集合して今に至る。


 レーナは声を潜めながら不安げに前を歩くハンスに尋ねた。

「ねぇ……本当に村長には何も言わないで行く気?」


 ハンスは振り返ると同じように声を潜めて答える。

「当たり前だろ? もしばれたら、何言われるか分かったもんじゃねぇ」


 そう言って再び前を向いて歩きだすハンスの背中を見つめながらレーナは眉間にしわを寄せる。あの村長なら自分たちが狩人小屋に出入りしている段階で既に気付いているのではないだろうか?




 森に入り、野営地を越えて坂を上り高原にやって来た時、レーナが顔をしかめながらあたりを窺ているのを見てハンスがレーナに聞いた。


「どうした、レーナ?」


 話しかけられ、それでも辺りを窺いながらレーナが答えた。

「なんか……森に入った時から誰かに見られてるような気がして……」


 レーナの言葉にハンスも物陰など周囲に注意を向けるが不審なもの影を見つけることが出来ない。

「気のせいじゃねぇのか? ウサギとかならいるかもしれねぇけど、猛獣も魔獣も、不審者も居そうになさそうだぞ?」

「うーん……気のせいなのかなぁ……?」

 レーナは首を傾げながらも、とりあえず周囲を窺うのをやめ、ハンスと共に森の奥へと足を運んだ。




 少し進んでレーナがハンスを呼び留め一点を指さした。ハンスがそちらを見ると一本の木の根元の一部が掘り返された痕跡があった。注意深く近づいて見てみると辺りの草が大きな足で幾つも踏み倒されている。


「まさか……ハナの追ってるビーストのじゃあ……ないよな?」

「……わからない。ギガスボアの足跡をよく覚えていないし、今の私じゃあ何の生き物の足跡なのか判別できないもの……でも、まだ新しいのは分る。とにかく注意して進んで、ギガスボアでないならすぐに引き返しましょう」

 屈みこんで足跡を調べていたレーナはハンスを見据えて言った。ハンスは何かを言いかけて、レーナの有無を言わさない雰囲気に何も言えなくなり、渋々頷いた。




 なるべく足音を立てず気配を消すようにし、特に先日ハナと森に来た時に表皮がえぐられた木を見つけた場所には近づかないようにしてゆっくりと森を進んでいった。幸い足跡は木の方からは遠ざかっており、村長の話していた魔物(と、見つかればとても面倒なことになるハナ)とは遭遇する危険が少なくなりそうなことに二人は少しだけ安堵した。


 しばらく進むと少し開けた場所に出た。開けた、というより”何か大きな生き物が通る獣道”が左右に続いているようで、二人はここがギガスボアの縄張りの巡回ルートなのではと推測する。そしてその右側の少し先を歩くギガスボアの後姿を見つけるのだった。


「──で、どうするの?」

 ギガスボアから目を離さずレーナがハンスに尋ねた。


「俺が奴の気を引くから、その間にレーナは身を隠せて奴を狙いやすい場所に移動して支援してくれ」

「……無茶はダメよ?」

 不安の色を浮かべながら念を押すようにレーナが言うと、ハンスは不敵な笑みを浮かべて答えた。

「やられねぇよ」


 ハンスが茂みから出て行くとレーナは気配を消して物陰に隠れながらギガスボアを狙いやすい場所まで移動した。


 ハンスがそっと近づき、あと十数歩というところまできたときギガスボアが歩みを速めた。

「あ! おい、ちょっと待──」

 思わず呼び止めようとしたハンスは「しまった」という顔で慌てて口をつぐみ、レーナは木の陰で頭を抱えた。ハンスの声で振り返ったギガスボアはそのまま前かがみになって突進態勢に入る。ハンスは背中の大剣を外すと正面の地面に剣先を突っ込み、身体をかがめて衝撃に備えながら両手でつかんだ柄を掲げて刃越しにギガスボアを窺った。


 ギガスボアは前足で地を蹴ると猛スピードでハンスに迫り、ハンスがギガスボアの顔に刃の位置を調整したところに大きな牙が大剣の刃に食い込み、勢いそのままに牙を滑らせながら上体を持ち上げられたギガスボアを気合と共に下から身体を伸ばして大剣を振るって巨大猪を横転させた。


 ハンスの手際に半ば感心しながらアーバレストで狙いをつけ、ギガスボアにキノコで作った麻痺薬を仕込んだ特殊弾を発射し、巨大猪の体に刺さった弾に空いた穴から中の薬液が噴出して体内に流れ出た。レーナは次弾を装填して立ち上がろうとするギガスボアに二発目を撃ち込んだ。


 ギガスボアは立ち上がりかけた姿勢のまま苦し気に呻き体がこわばったように動きを止め、すぐ脇に立ったハンスは一撃で仕留めんと大剣を脇に構えて力を溜めた。


(悪く思うなよ)

 ハンスが剣を振るおうとした時、身体が強張ったギガスボアから余計な力が抜け、巨大猪とハンスの目が合った。


「なっ!? 効き目が切れたのか!」

 止めた手を再び動かし剣を振るおうとしたが一瞬遅く、ハンスはギガスボアの頭突きを腹に受けて激痛と共によろめき、尻もちをついた。急いで立ち上がろうとしたハンスの頭上に両前足を振り上げたギガスボアの上半身が迫り、ハンスが思わず両腕で頭部を庇った刹那、鈍い爆発音とともに白煙が上がって目の前のギガスボアの上体がよろめき、ここぞとばかりにハンスは横に飛び退き急いで立ち上がった。


 煙が晴れてギガスボアを見てみると頬の毛皮が黒く煤焦すすこげており、怒りに染まった巨大猪の目が木の陰でアーバレストの弦を引いているレーナをとらえていた。ハンスは地面に転がったツヴァイハンダーの柄を掴むと引きずりながら駆け出し、ギガスボアとレーナの間に立ちはだかった。


 ギガスボアは眼前のハンスには構わずレーナめがけて突進すると、ハンスは姿勢を低くして幅広のツヴァイハンダーの剣の腹に肩を押し当てギガスボアの突進を受け止めた。


 肩と脇腹に走る激痛に顔をしかめながらも雄たけびを上げながら渾身の力を込めてギガスボアの軌道をそらせ、剣に寄りかかりながらハンスは乱れた呼吸を整えた。


 巨大猪が突進してくるのを見たレーナが再装填をあきらめ木の陰に全身を隠したとき、何かが固いものにぶつかる大きな衝撃音と、その直後のハンスの雄たけびを聞いて木の幹から伺い見ると、ちょうどハンスが横に押しのける様にしてギガスボアの突進の軌道をそらしていた。そしてハンスを見れば剣に寄りかかりながら脇腹を押さえていて、そこの部分が赤く染まりどんどん広がっていく。


 レーナはポーチから拳におさまるほどの玉を取り出しギガスボアに投げつけた。玉は頭部に当たると卵の殻が割れるような軽い音と共に黒い粉塵が拡散してギガスボアの頭部を包み込み、それと同時に巨大猪が悲鳴を上げ、大きな鼻を何度も地面に擦り付けるのを確認するとレーナはハンスに駆け寄った。


「平気だ、こんくらい」

 言いながらハンスは傷口を診ようとしたレーナを押しのけギガスボアに近づこうとする。レーナはハンスの肩を掴んで止めた。

「どう見ても平気じゃないでしょう!? 急いでここから離れて手当てするわよ!」

 そう言ってレーナが腕をとって歩き出そうとするのをハンスが引き戻す。

「それより……今のうちにとどめ刺しちまっとこう。そしたら、ゆっくり手当でもなんでも受けるから……」

「いまは強い刺激臭にやられてるだけなの! 暫くは鼻も利かなくなるだろうから、今のうちにここを離れるのよ! 無茶はダメって言ったでしょう!」

 激しく叱責するレーナになおも抗議しようとするハンスの腕を引っ張り、強引に立ち去ろうとしたレーナの耳に微かにささやく声が聞こえた。


『その男の子を助けたいなら、その道の先にある湖に向かいなさい』

 レーナは足を止め、辺りを見回すが声の主は見当たらない。一瞬気のせいかと思ったが考えを改め、意を決してハンスの手を強く引っ張り、獣道の先にあるであろう湖を目指した。


 しばらく幅広のけもの道を進むと大きな湖に出た。湖は澄んだ水をたたえ、既に高く昇った太陽の光に水面がキラキラと輝いている。


 湖に近づいたレーナが辺りを窺っているとツヴァイハンダーが転げ落ちる音が聞こえ、ハンスを見るとバランスを崩して今にも倒れそうになっていたのでレーナは咄嗟に受け止めた。そしてそっとハンスをその場に寝かせた時、足音が聞こえてそちらを見ると先日ハナに装備を届けに来た白衣の女性が木の陰から現れ歩み寄って来ていた。


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