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クアトロ・ステラ  作者: 赤月白羽
第二章 ビーストハンターたち
12/12

街への旅路

#12『街への旅路』

 ロアルミエに向かうことになった三人は旅の準備をはじめた。ハンスとレーナはハナの指示で食料を用意し、乗り物と装束、野営道具は主にハナがそろえることになったのだが乗り物の手配が少々難航する。

ユノ村の住民は旅行をすることがなく、都市の連絡中継点でもないので乗用馬は存在しない。乗馬に向かない農耕馬と作物を運ぶ荷車はあるが村人が日々使う分があるのみでハナたちの分までの余裕がなく、けっきょく荷物を運ぶロバを一頭、分けてもらうことが出来たのみで、すべての準備が終わるのに一日半を費やした。

ハナ曰く「急ぐ旅でもないから」ということで準備が整った翌日の明朝、荷物を背負わせたロバを引きながら徒歩でのんびりユノ村を出発したのだった。


村を出発して二日目の朝、レーナが焚火の後始末をしているとき、荷物を確かめながら何やら思案しているハナに気が付いて声をかけると、ハナは荷物から視線を外さず、どこかうわの空で答えた。

「今日、途中で食料を調達したほうがいいかなぁって思って……」

「用意した分出たりなさそうですか?」

「いや、順調にたどり着くようなら全然余裕はあるんだけれど、ロアルミエまであと3、4日かかるから何かあっても大丈夫なように、この先は食料を調達しながら進んだほうがいいかもしれない……うん、鹿やウサギなどが獲れたときは毛皮も売ることもできるし、あなたたちの狩猟の練習にもなるから、今日は道すがら獣を見かけたら狩りましょう」

「わかりました」

返事をしてレーナがふとハンスのほうを見ると、二人の会話が聞こえていたのか目を輝かせてこちらを見ており、レーナの視線に気づくと視線をそらしていそいそとテントを片付ける手を早めるのだった。

しかし、その日は太陽が天頂を過ぎても獲物となる獣と遭遇することがなく、魚の泳ぐ池や川も、狙えるような鳥が留まる木々もなかった。そして西の空が赤く染まり始めたころになってあたりに漂う腐臭に気づき、周囲を見回し進行方向の右手、遠くに見える山を背景にして少し隆起した草原の中ほどに馬か牛のような獣が横たわっているのを見つけた。

気になった三人が近づいてみるとそれは牛の亡骸で、耳についた印から家畜牛であったことが分かる。猛獣に襲われたのか身体が爪のようなものでズタズタに引き裂かれていた。だいぶ前に襲われたようで腐敗が進んでおり、強い腐臭を放って無数の虫がウゾウゾと亡骸を這いずり回っている。

「これは熊や狼の類じゃないわね、おそらく魔獣にやられている──。捕食のために襲ったのではなくて、ただ殺戮のために襲ったみたい。やたらと爪で引き裂いて殺した挙句、内臓を引きずり出して殺戮衝動がおさまるなり死体をそのままにして立ち去った」

亡骸のそばに膝まづいて状態を調べていたハナは、周囲を調べて魔獣の痕跡を探して足跡を見つけたようだったが困惑したように眉を寄せ、地面に残る痕跡を凝視したまま動かない。

後ろで様子をうかがっていたハンスとレーナが声をかけようとしたとき、ハナは立ち上がって二人に顔を向けるが、その顔は自分の見たものをどう話したものか悩んでいるようだった。

「……初めて見る足跡なので私もどう説明したものか悩むのだけれど……大きさから言えば、ハンスを一回り大きくしたくらいのサイズで二足歩行をする獣……みたいな魔獣……みたい」

そして足跡が続く先を目を細めて見据える。

「辿ってみないとわからないけれど、足跡は私たちの進む先まで続いているみたいだから、下手すると魔獣とかち合うかもしれないけれど……?」

 ハナは二人に問いかけるような視線を向け、ハンスとレーナはは緊張に表情をこわばらせながら頷き、それを確認するとハナはロバの手綱をレーナに任せて少し後ろを歩かせ、自分はハンスを後ろに従えて魔獣の足跡をたどり始めた。


 足跡をたどってしばらく進むと踏み固められた道に出た。辺りもすっかり夕闇に包まれて足跡を追うことが困難となり、これ以上の続行は野営の準備もできなくなるので中止とした。

「道があるということは近くに人が住んでいるかもしれないし、そこで泊めてもらえるか交渉してみましょう。まぁ人が住んでいなくても屋根があれば野営をしなくて済むし、このまま道を進んでみましょうか」

 ハナの提案に二人もうなずき、一行はいましがた見つけた道を進んで太陽が完全に沈んでしまう前に、明かりのともった数軒の茅葺の家屋が立ち並ぶ集落にやってきたのだった。


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