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クアトロ・ステラ  作者: 赤月白羽
第二章 ビーストハンターたち
11/12

これからのこと

#11『これからのこと』


 倉庫に荷物を置きに行ったハナの着替えの手伝いをするためレーナも一緒に倉庫に消え、一人残されたハンスは、気まずい思いでそわそわしながら待っていた。


 着替えを終えた二人は倉庫から出てくると、無言のままレーナはキッチンで鍋に水を張って火にかけ、ハナは寝台に腰掛けた。その間ハンスは縮こまって椅子に腰かけ、二人を交互に目で追っていた。

 しばらく室内は鍋の水がふつふつと煮えていく音のみが支配し、妙な緊張感からハンスはますます落ち着かなくなってきた。


 お湯が沸騰するとレーナは沸かしている間に用意したハーブを入れたポットに湯を注ぎ入れ、抽出する間に切れ目を入れたパンに厚く切った燻製肉とラズベリーのジャムを挟んでテーブルに置いた。そして、抽出されたハーブティをカップに注いでハナとハンスにそれぞれ渡し、自分はキッチンの作業台にもたれ掛かって自分のカップを手にとる。


 それを合図に、沈黙に耐えかねたハンスが口を開いた。


「え、えと……勝手に狩りに行ってホントに──」


「ギガスボアの狩りはどうだった?」


 ハンスが話し始めるのに被せるようにしてハナが二人に尋ねる。叱られると思っていたハンスはハナの反応に戸惑っていると、レーナがハンスから顔を逸らしながらカップを啜る。よく見れば笑いをこらえているのか肩が震えている。ますます訳がわからなくなって、ハンスが困惑顔でハナとレーナを交互に見ていると、やがてハナがくすくす笑い出した。


「笑ってごめんね──さっきレーナもこっそり謝ってきたけれど、別に怒ってなんかいないわよ。そもそも私はついてくるなとは言ったけれど、狩りに行くなとは言ってないから。まぁ……確かにあなたたち二人だけでは、とても危険だから村長は止めるだろうとは思っていたけれど」


 はにかみながらなぐさめるようにハナが言い、レーナはバツが悪そうに苦笑する。


「──でも、獣の狩猟でも十分危険を伴うのに、それが魔獣の狩りともなると危険が何倍にも跳ね上がるの。今回は無事に狩りを終えることができたけれど、今後はしっかりと知識と技量を身に着けてから挑むようにして、決して無茶はしないように。お願いね」


 ハナのどこかうれいを含む微笑みにハンスとレーナは魅入られたように何も言えなくなった。しんみりした空気を察してか「でないとこんな風になるからね」と、冗談めかしながら自分の右腕を示す。

「その腕……何があったんですか?」


 心配そうにレーナが聞くと、ハナは「ちょっと、ね」と苦笑を浮かべる。


「聞いていた魔獣の情報に誤りがあってね……。用意した装備で何とか対応できたけれど、攻撃をしのぎ切れずに、ね」


 そして自らの狩りのことをかいつまんで話した。聞いていた魔獣が似て非なるものであったこと、めったに姿を現さず、ハナ自身一度しか目撃したことがなく狩猟の経験がなかった魔獣であったこと、準備した武器があまり効果がなく中々仕留めきれず、一瞬のスキを突かれて右腕を噛み砕かれたが動きを止めたところを急所を突いてようやく仕留められたこと。


「──用意していた治癒の薬で何とか傷はふさがったけれど砕かれた骨はすぐには治らなくてね、しばらく狩りは無理かも……。それより、あなたたちのことを聞かせてくれる? ギガスボアの狩猟はどうだった?」


 ハナの話から凄惨な状況を想像して気持ちが引けていたが、この状況を払拭したい思いと魔獣を狩った達成感、そしてどこか褒めてもらいたい思いもあって、狩りのことを話したい気持ちが堰を切ったように溢れだして早口にしゃべるハンスを、レーナが横から補足しながらギガスボアを狩猟したときの出来事をハナに報告する。


 ハンスが負傷したときのくだりでハナは一瞬顔をこわばらせたが、それ以外はずっと静かに笑みを浮かべて黙って二人の話を聞いていた。


 二人の話が終わるとハナは燻製肉とラズベリージャムを挟んだパンを手に取ってかぶりつき、意外そうな顔で咀嚼すると顔をほころばせて飲み込む。そしてハーブティを一口含み、何か思案する顔になったまましばらく黙り込んだ。


 何を考えているのだろうと気になった二人が声をかけようとしたときハナが口を開いた。


「街に行きましょうか」


「街?」


「そう。本格的にビーストハンターを目指すなら、もっといろいろ経験を積まないと。そのためには、もっといろんな仕事を受けたり、いろんなハンターと出会わないとね。街に行けば各地の情報が集まるし仕事もたくさんある。

 もちろん、ビーストハンターなんて危険な仕事を選ぶ必要はない。ハンスはリカルドの伐採業を、レーナはお母さんの狩りを手伝ってあげるのも大切だと思うし、この辺りは当分のあいだ魔獣の心配はいらないし私が街に行って森番を手配してもらうから、それからは森も村も心配はいらなくなるし……どうする?」


 優しく見つめながら二人の返事を待つハナ。ハンスとレーナは顔を見合わせ、「何をいまさら」とハンスが答える。


「別に親父の仕事は弟子も同業者もいるから俺がいなくても問題ないよ。俺は村を出てもっと世界を見てみたいし、剣の腕をもっと磨きたい」


「母さんには父さんがいるし、私が村を出るといえば反対はしないと思います。それにハンス一人じゃ危なっかしいから私がついていったほうがいいし、ハナさんからももっといろいろ教えてもらいたいこともありますから。でも、そうですね……もしもハナさんがここに残るのなら、私もここに残ってハンスには一人で何とかしてもらいます」


「ひでぇ……」


 レーナの答えにハンスが苦虫を噛み潰したような顔をし、二人のやり取りにくすりと笑ってハナが言った。


「じゃあ、二人は街に行くということでいいのね。とりあえず、ここから一番近いし、信頼できる知り合いもいるから、まずはロアルミエに行きましょう」

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