魔法サーカス団
料理が運ばれてきてからは、彼女が私が魔法を始めるきっかけを知りたいと言ったので彼女に私の簡単な過去を説明した。
私は彼女に説明しながら、しばらく思い出すことも無かった過去の記憶がゆっくりと蘇ってきた。
小学校低学年の頃だ。その頃の私は野球好きの小学生でマジックテープでくっつくボールでよく弟と野球ごっこをしていた。私が投手で弟が捕手。私は人気球団のエースになりきっていた。
その日も自宅の庭で弟と野球ごっこをしていたときに、父に出かけるから着替えるように言われた。
私と正樹は嫌がったはずだ。野球ごっこに勝る遊びなどないと思っていたからだ。
だが、父はびっくりするものを見せてやる、とチケットを見せてきた。
「なに、それ!?」弟が父親に尋ねる。
「ナイターのチケット!?」私はナイターに連れて行ってもらえると勘違いをした。
「魔法サーカス団のチケットだ。」
私はがっかりしたものの、サーカスのテントに入るとドキドキしていたことを覚えている。私は人気球団の野球帽を被りながら斜に構えた生意気な小学生だったが、非日常的な閉鎖的空間に高揚感を感じていた。
私の記憶が合っていれば魔法サーカス団はヨーロッパの何処かの国だったはずだ。
テント中には外国独特の音楽が流れており、開演時間を迎えると音楽は鳴り止みステージの上に1人の白人の男が現れた。
「始まるのかな?」正樹がワクワクした顔をしていた。
「始まるよ。きっと火とか出るんだよ。」母が正樹に答える。
「火が出るの!?」正樹が驚いた顔をする。
白人の男は360度観客に囲われたステージから観客に向かって飛んだり跳ねたりして陽気な姿を見せる。観客もそれに合わせて拍手を送っていた。
一通りのパフォーマンスを見せると男は魔法陣を広げる。観客に手を振り注目を集めると男は魔法陣を唱えた。
すると、男の姿は宙に浮かんだ。
「うわっ!」と正樹が驚いた声を上げる。
観客も一斉に拍手を送り会場が盛り上がる。会場にもいつの間にかに幻想的な音楽が流れており、より一層にテント内が異空間になっていた。
男は宙に浮かびながら両手を広げて拍手を止めるように制した。拍手が鳴り止むの確認すると男は両手を広げてゆっくりて胸の前に手を当てた。
すると男を中心にピカッと強烈な光が放たれた。
私は思わず目を閉じて顔を背けた。再び視線を向けたときには薄暗かったテント内が7色の光が広がり幻想的な空間が出来上がった。
会場はまた拍手と歓声に包まれる。
「うわぁ、うわぁ」と正樹は言葉にならないぐらいに興奮をしていた。
その横で幼かった妹の陽子が驚いて泣いていおり、母が「大丈夫だよ。」とあやしていた。
そのあとにライオンが現れた。確か、人間vsライオンという構図だったと思う。それらが脈略なく思い出された。
「食べられちゃうよ。」と正樹が顔を青くしていた。
白人の男はライオンが襲い掛かると紐を取り出してライオンの首に掛けてライオンはまるで猫のようにおとなしくなった。
そのあとも白人の男は空を飛んだり、美しい白人の女性を空に飛ばしたり私たちを混乱させた。
私と正樹は重力や相対性理論を無視して、自由な空間を作り出す魔法に目を輝かしていた。
「魔法は私達を自由にしてくれるのかもね。」
魔法サーカスの帰り道に確か母がそんなことを言ったような気がした。
「僕も魔法を習って空を飛んだり出来るかな?」私が父と母に訊ねた。
「僕も魔法で空を飛びたい!」正樹が私を真似て言った。
「はっはは、出来るんじゃないか。きっとお前達は誰よりも自由に空を飛べるはずだ。」父が愉快そうに笑う。
「そうね。私達も一緒に空に飛ばしてもらおうかしら。」
小学生だった私達はあのサーカス団で見たものは全て魔法だと信じていた。いまに考えれば怪しいところは多々あったのだが、純粋に魔法を使えるようになればサーカス団のようなことが出来るようになるのだと信じていた。
私と正樹はあれが魔法だと信じてその日から図書館に通い魔法を勉強した。私達の住む近くには魔法を教えてくれるところなど無かったので、全て独学になったが一通りのことは互いに教えあって魔法陣の作り方や解き方は出来るようになった。
だが、魔法を知れば知るほどサーカス団の魔法とかけ離れていくことに気付いた頃には私達の生活は魔法が中心になっていた。