魔法公務員
月極駐車場に車を停めて駅へと向かう。私は改札をI Cカードで改札機を通過したときに、ふとしたことに気づいた。
「そういえば、お前はつくば駅までの定期を持っているんだよな。」
「持ってるけど。」正樹が答える。
「それは魔研が支払ってるものだよな。」
「まぁ、そうだね。」
「つまり、国のお金だ。プライベートで使用するのは問題じゃないか?」素朴な疑問を私は口にする。
「兄貴は細かいな。別に法律上は問題ないよ。」
「そうなのか?」
「そもそも、公務員に限定する意図が分からないよ。この国の人間はなにかとつけて公務員を叩きたがるんだ。」正樹が辟易とした顔をする。
「まぁ、高い税金を取られてるからな。」私はフォローにならないフォローをする。
私はエスカレターに乗り、正樹も後に続いた。私達の体はエスカレーターによって自動的に運ばれる。
「それに、不祥事も直ぐにピックアップされるし、公務員というだけで毛嫌いする奴らもいる。」正樹は苦虫を潰したような顔をして言った。怒っているようにも見えた。
「すまんな。半分は嫉妬だよ。」
「公務員を一括りに考えて欲しくないんだ。俺らだって残業はするし、ノルマはあるよ。」
「ノルマなんてあるのか?」
「あるさ。」正樹が吹き出す。「目標のない仕事なんて退屈だろ。」
「ああ、そうだな。」私は驚きながらも肯定する。「だけど、俺たち民間企業のように会社の成長が続かなければ自分達の未来がない、という危機感はないじゃないか。」
「俺らにもあるよ。」正樹が否定する。「俺の勤め先は魔法研究所だぜ。魔法を怪しい宗教だと勘違いしている人間は多いよ。」
「それは…確かにな。」私は賛同する。私の勤め先も民間企業ではあるが魔法関連の商品を扱っている。私は開発が専門だが、営業の人間からはどんなに画期的な製品を作っても、世の中に魔法の認知度が上がらないと厳しという嘆きを耳にしていた。
「俺達は世の中にもっと魔法を認知してもらう為に必死なんだよ。」正樹は語調を強めた。引き締まった声が彼の決意の強さが伺える。
そこでホームにアナウンスが流れた。私達の乗る電車がもう少しで来るらしい。
「まぁ、魔法の認知度が上がれば俺ら民間企業も助かるよ。」
「ああ、任せてくれよ。」正樹が勇ましく答える。「今度のプロジェクトで魔法は大きく変わるよ。」
「ラパシエガの赤い梯子か…」私の声が電車の到着にかき消される。
電車が到着して扉が開き、中の乗客が降りてきた。
「兄貴なにか言った?」
「いや、別に。」とお茶を濁す。