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救いとは?

「あなたには明日から『脚長サムライ』になってもらおうと思うの。」唐突に彼女が言った。


「アシナガサムライ?」


「うん。あなたは明日『脚長サムライ』としてある女の子に会うの。」


「なんで、おれがアシナガサムライとして知らない女の子に会うの?」情報量の多さに思考が追いつかない。


「え〜、だって、あなたが知らない女の子に会う理由なんてないでしょ?」


 ないわけもないでもないが「まぁ、ないかもしれないけど。」と私は答える。


「でしょ。だから、『脚長サムライ』として会うの。」彼女は出来の悪い生徒を諭すような言い方をする。


「いや、そうじゃないくて、そのおれが知らない女の子に会う理由を訊ねてるんだけど。」


「理由なんている?」彼女が不服そうな顔をする。


「いや、いるでしょ。逆になんでいらないと思うわけ?」


「だってさ〜」と彼女は不貞腐れた顔をする。


「だってさ、じゃなくて。そこ言わないと分からないよ。」


「わたしだってあなたを女に会わすのなんて嫌なんだよ。」


「えっ、そうなの?」私は彼女の急な言葉にどきりとさせられる。


「そうよ。わたしはあなたが好き。苦しいほど大好き。」


「ほ、本当に?」私は訝しんだ。彼女は私を揶揄い、反応を見て楽しんでいるのでは、と思った。


「ほんとだよ。この世界の全てを壊すほど大好き。」彼女は顔を綻ばせる。


「気持ちは嬉しいけど…なんでかな…信じられないよ。」


「信じなくていいよ。信じなくていいの。だから、私の言うことなんて別にどうでもいいでしょ。」彼女は困ったように笑う。


「なるほど。そう来たか。」


「うん、そうだよ。私はどうせ、嘘の存在なの。だから出鱈目を言うの。だから、あなたは深く考えないで言うことを聞いて。」


「なんだ、それ。」私は顔をしかめる。


 とにかく、と彼女が言って強引に話しを戻した。「あなたが明日やる事は単純だよ。研究学園駅に行って女の子に会うのよ。」


「会ってどうするの?ホテルにでも誘えばいいのかな?」私はお酒に酔っていたこともあり、柄にもない冗談を言った。


「そうだね。出来るもんならやってみるといいよ。」彼女は笑いを堪えた顔をする。


「いや、止めておくよ。病気を移されても困るしね。」私は強がった。


「そうだね。その方が賢明だね。」


「それで、目的はなにかあるの?」


「えっと、脚長サムライの活動は覚えてる?」


「ああ、そういえば…」と彼女とここに来る間の会話を思い出す。「表向きは心を病んでいる人を励ましてるんだっけ。」


「うん、そうなの。奴の次のターゲットが彼女なの。」


「ターゲット? 励ましのターゲット?」私はターゲットという言葉に引っ掛かりを覚える。


「うん、そう。でも、脚長サムライは引退したのよ。」


「引退しちゃったんだ。ターゲットが残ってるのに。」


「だから、あなたが代わりに脚長サムライとして彼女を励まして欲しいの。」


「えっ!? なんでおれが? 本物はどうした?」


「本物は悪事がバレて引退したの。」


「悪事ってなにをやってたの?」


「うん、それはあなたは知らなくていいの。」


「なんで!? 代わりをやるなら教えてくれてもいいじゃないか。」


「うん、じゃあ、最後に全て説明するから。」


「そればっかりだな。」


「とにかく、あなたは明日、彼女に会ってあげて。」


「じゃあ、その子の情報は教えてくれるの?」私は仕方なく訊ねる。「もしかして、それも最後に教えてくれるの?」


「えっと、そうだよね。うーん、見た目は可愛いかな。」


「そうなんだ…容姿以外はどうかな? 仕事とか?」


「仕事は彼女に直接聞きなよ。あとはね、そうだね…」と彼女は顎に手をやり「あの子は死を考えてるかもしれない。」と爆弾発言をした。


「死? 死ぬことを考えてるってこと?」


「うん、可能性はあるかな。」


「なんで?」


「あの子は大切なものを失って、大きな不安に押し潰されそうになってるの。」


「うーん、抽象的でよく分からないな。それで、なんでオレが会わないと行けないの?」


「彼女は救いを求めてるの。だから、あなたは脚長サムライになりきって彼女を救ってあげて欲しいの。」


 私は『救い』について考えた。救いとは、人に安堵を与えるものだ。私は、悲しみなどの類は基本的に時間が解決されてしまうものだと考えている。良い意味でも悪い意味でも。だが、それは慣れであって、決して解決ではないことを身を持って知っている。そんな、私に死をも意識している人間の心に安堵を与えることが出来るとは思わなかった。

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