プロローグ〜偽者の彼女〜
この世界は全てが偽物なの。本物はあなただけ。あなた以外すべてが偽物なの。
恥ずかしげのなく彼女が言ったとき、私は一瞬、情熱的な愛の告白をだと思い、嬉しさよりも恥ずかさが勝った。
けど、彼女の表情は愛の告白というよりは、どこか割り切れないさみしそうな表情で、そういう類のものではないのだと察した。
彼女はどんな気持ちで言ったのだろうか。どれだけの感情を抑えて自分を偽物だと言ったのだろうか。
彼女の気持ちを想像するたびに、絶望に、胸を衝かれる。
時折、夢を見る。焼肉を食べながら、彼女があの表情で私に向かってあの言葉を放つ夢だ。私は、否定しようとするが言葉が出ない。
後ろを振り返れば、彼女が不安そうな表情でこちらを見る。彼女と彼女を交互に目を転じ、どうするべきなのかと、逡巡し、頭を抱える。
そして、答えの出ないまま、目を覚まし、考えても仕方ないことだと首を振る。
「悪い夢をみたの?」隣で寝ていた彼女がのんびりとした口調で言った。
「ごめん、起こしちゃったかな?」
「大丈夫。慣れてるし。」
「ごめん。」私は再度謝る。
「昔の嫌な記憶の夢でもみてるのかな?」彼女が少し心配そうな顔をする。
「いや、どうだろう。」私は首を傾げる。
「そういえば、今日、義母さんから電話があったよ。」と彼女はゆっくりとした口調で話題を変えた。
彼女の話しによると、どうやら妹が彼氏を連れてきたが、それが定職にもついていないミージュシャン志望のロン毛だったらしい。
ロン毛はダメだよね、と彼女が笑う。
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