同じチームでよく分かった
5
彩苗は今日も普通に登校する。
昨日のモヤモヤはとれないが、秦弥と勉強確認を開始する。
「覚えた?」
「……まあまあ」
簡単なテストを行い、秦弥の暗記力を確かめると次の課題を出した。
「次は疑問詞…疑問文の先頭に来る単語で聞く事柄が変わってくるから、ここに書かれている疑問詞の意味と使い方、つづりを覚えておくこと」
「それだけ?」
「まあ疑問詞は比較的簡単だからね。分からないところがあったら聞いてくれれば良い。読めない単語とかある?」
「これ…」
「じゃあ、その辺の読み方言うからメモしておいて」
彩苗の綺麗な発音が流れ出る。
一応勉強してきただけはある。
それを秦弥はメモをすると暗記を開始した。
彩苗はそれをしばらく見ていたが綾なところへ顔出しに行く。
「今日も秦弥に教えていたんだね」
「そうだよ。意外と飲み込みが速いから。一回で理解できたのは中々だと思う」
「あー確かに。何回言っても理解できないポンコツもいるからね」
「…ポンコツ…でも、本当にいるよね…」
苦笑しつつ、真実だという彩苗。
勉強したいけど、分からない。
教えられても分からない。
そんな人は現実にいる。絶望的だ。
「ねえ、次の時間体育だよね?」
「そうだよ。綾の一番苦手なね」
綾が嫌な顔をする。
「バスケ?無理……」
「まあ、大丈夫でしょ。体育ごとき。私も苦手なんだけどさ」
やはり、体育ごときと切り捨てる彩苗であった。
6
体育のバスケの時間には女子で3人グループをつくる。
問答無用で彩苗と綾と結衣で組んだ。
結衣とはまあまあ話す仲である。
「次は、異性の3人グループを選んで組んで下さい」
彩苗はそれを聞いた途端に秦弥を思い浮かべた。
(……でも)
ただの教えている仲。
そんなので一緒になれるわけではない。
ただ、秦弥が一番話しやすい異性だからであって。
(深い意味はないから)
彩苗は心の中で切り捨てるとクラスメイトを見回した。
「結衣……同じグループにならないか?」
そう言って結衣を誘ったのは結城。
確か、秦弥の友達だったような。
「結衣は人気者だね。で、どうするの?」
綾がニコニコしながら聞く。
「別にいいよ」
結衣は意外にもあっさり承諾した。
結城に連れられ彩苗たちは結城のグループと合流する。
「あ」
彩苗は軽く目を見張った。
秦弥。彼がいて。
「じゃあ、メンバー集まったみたいだね。おれと秦弥と結城、結衣と彩苗と綾あやの6人だ」
眞博がボールを取ってきて練習をはじめた。
「まずは、パス・ドリブル・シュート。3つを完璧にさせる」
彩苗たちは実力を図るためボールを投げさせられた。
綾には眞博。
結衣には結城。
そして、余った彩苗に秦弥が教える形になる。
「……できるわけない」
彩苗は勉強が得意でも体育は最低だった。
どんなに頑張っても無理で。
「ふうん、勉強しかできないってこと?」
秦弥が面白そうに笑う。
「悔しいけど、そういうことだよ」
実質、そうなのだ。
秦弥より勉強は得意。けれど体育は…。
彼より下なのだ。
「なら一回パスしてみて」
秦弥は男女混合に気にすることもなく練習を開始する。
「威力はシュートのときしか使わないから。パスのときには、取りやすさと気の合い、距離が要求されるし」
とにかく投げろ、と秦弥に要求され投球練習が始まった。
それでも、秦弥はアドバイスを欠かさない。
失敗して彩苗が自嘲気味になってもまあまあよくなってきてると言ってくれる。
そこが敵わないと思うところでもあり。
──きっと秦弥は体育に熱心なのだろう。
自分にはない体育力。
教え方、才能、身体能力。
それが羨ましくて。
そんな事を考えながらボールを投げているとチャイムが鳴った。
「0,5m伸びてた。これ、練習したら勝てるかもしれないな」
「勝てる……?」
「次の体育で試合じゃん。まあ、シュートは分かんないけど、足を引っ張ることはなさそうだし」
「足引っ張んないよ!」
0,5m……ハッキリ言ってあまりのびていないだろう。
けれど毎日これを続けていれば……?
彩苗は汗を拭う。
褒められて嬉しかった。
純粋にそんな気持ちが心の中を駆け巡った。