避けられているのか不安
3
一瞬で秦弥の頭の中がパンクしそうになる。
それを抑え込んで授業を聞こうとしたが──。
「分からない」
つぶやきが漏れて一瞬で後ろの生徒に伝わった。
「分からない?」
オウム返しで返される。
「っつ……」
なんだかとても居心地が悪い。
まあ、天才派と運動派の違いと言うか。
「しょうがないじゃん?俺はお前みたいに頭がいいわけじゃないから」
「それ、褒め言葉として受け取る」
「まあ、褒めてる方かな…」
実際は皮肉を込めていったのだが。
「で?どこが分からない?」
「……?教えてくれるとか?」
「っつ……!」
途端に彩苗の顔に微妙に変化があった。
「教えると言うか……説明簡単にできるんだったらここで言う!教えるとかはたぶんしない!」
「……んとね、大体わからない」
「はあ……」
呆れ顔の彩苗に秦弥はいたずらのように微笑む。
「だって、勉強苦手だし」
っていうわけで、休み時間はほぼ彩苗の特訓授業になった。
普通は、放課後なのだが、彩苗が否定し続けるため、こうなったので。
「じゃあ、これを書いてみて。『私はペンを持っています』」
「それは、分かる。『I have pen.』」
即答する秦弥にため息をつく彩苗。
「一つ忘れてるよ…」
「何?これは絶対分かると思ったんだけど」
「一応授業は聞いてるみたいだけど、理解が全然してない。大体、聞いた瞬間に拒絶反応が起きるでしょ?」
「……まあね」
「まず、冠詞が抜けてるの!」
「冠詞?」
疑問顔の秦弥に再びため息をつく。
「冠詞は前回の単元でしょ?何回前に戻って勉強しなきゃいけないの」
「……──」
言い返せず、黙ってしまう秦弥。
「冠詞は名詞の前に置かれるa/an/theの3つ!この前に置かれるやつで名詞の情報が分かる」
「3つの使い分けは?」
「……theが面倒くさいよ。まずは、aとanね」
彩苗の口から説明が流れ出てくる。
秦弥はそれを聞きながら、テキストに彩苗の説明を書き込んだ。
4
「へえ…」
秦弥と結城と眞博との3人での帰り道。
話を聞いた眞博は冷たく返事をした。
「デキてるね?意外といいかも〜」
野次を飛ばしてくる結城を無視し、秦弥は別に、と言う。
「嫌らしい感情は抱いてないからな」
「それならよかった」
そう返事をした眞博は、安堵したように息を吐く。
「で?お前たちは…?」
質問した秦弥に結城は飛び付くように返事をする。
「結衣メッチャ優しいよ‼今日も勉強を教えてくれたし…!」
「それ、ほぼ彩苗と一緒じゃん」
「いやいや、放課後もしてくれるって‼」
「……そうなの?」
秦弥は驚いた顔をした。
「俺の場合はしてくれなかったけど…」
彩苗は嫌がった。
放課後は嫌だとずっと断り続けていた…。
「それ、微妙な距離だな」
唸る眞博。
「……別に距離は気にしてないけど」
「それならよかったけど」
「じゃあ、二人ともさよなら〜!結衣と行ってくっから!」
ご機嫌顔で結城は秦弥と眞博たちと手を振ってを別れる。
「……嘘だろ?お前、本当は傷ついているんじゃないの?」
二人っきりになったとき、眞博はそう呟いた。
「まあ……よく分かるね。なんかあれは拒絶的だった…。とても」
秦弥は自嘲気味に笑う。
「彩苗の断り方は半端じゃなかったよね。あれはさすがに引くよ……嫌われてる可能性高いかも」
「嫌われててもいいんだけどさ、結衣はああやって結城と放課後教えてるのに、彩苗はどうしてかなって…」
「放課後にはいろいろ問題があるとか?」
「……──」
「気にするなって」
眞博は元気づけようと秦弥の話を受け止めたのだった。