君のおかげでいい席になれたよ
1
この学級では、異性があまり会話しない。
「では、席替えします‼好きな席選んでいいよ〜」
担任の西村先生が指図する。
男女隣り合わせに配置し、男女が隣になれば、どこの席に座ってもいいという。
どの席を選んでもいい。
先生の意見は入れなくていい。
まさに、極楽な席替えだ。
──しかし。
「そこ私の席!」
「あ、お前の隣やだからあっち行って」
「どいて!」
女子が我先に、と好きな席を選んで座る。
男子は、実力的には勝てるが──面倒くさいので言われるがまま。
つまり、女子が自分の席と隣の人を選べる。
本来ならば、平等、百歩譲っても男子優先というイメージが強いが、ここの学級は完全に女子が”絶対的権力”を握っている。
なぜ?
男子はなぜ、反抗しないのか。
それは、ここの学級に刻まれた歴史なので、話すのはまだ早い。
「うわーまたやってるよ」
「弱いくせに。先生がついてるからって調子のんなよ」
「本当にー。まあ、相手にしなければいいっしょ」
追いやられていた端の方で、男子三人組がいた。
「で?誰の隣にするの?」
結城が、友達である秦弥に話を振る。
「別に……好きなやつなんていないし」
「おーお前悲しいやつだな」
結城が哀れんだ目で秦弥を見つめた。
「結城はいるのかよ?」
「それは、結衣しかいないだろ!」
叫ぶ結城。
「は……あいつ?八方美人にしか見えないけど」
秦弥は、冷たく切り捨てる。
「いや〜好きな人がいないやつに言われたくないな〜!」
「……じゃあ、お前はいるの?」
隣りにいた眞博に話を振る秦弥。
「いるよ」
「誰?」
「教えない。……秦弥が好きな人できたらいいよ」
「何だよそれ」
呆れながら、秦弥はつぶやく。
「そもそも──」
──好きって何?
素朴な疑問が、秦弥を知略させる運命となった。
2
席替えで、端に追いやられていた3人は、女子に誘われた。
「結城くん、ここの席どう?」
結衣が、自分の隣を指差し、笑顔で指図する。
「あ、ありがとう」
えーいいなーと男子の野次が結城に飛んだ。
結衣はえへへ、と後ろの席を指差した。
「眞博くん……もどうかな?」
「……──」
眞博は、動じない。
「友達の結城くんもいるし…」
「それはいい席だけど…」
あんまりと眞博は、首を縦に振らない。
「なんでだよ?結衣は一応美人だぞ?」
秦弥が急かしても、
「……あんまり」
「オレの近くだぞ?」
結城が誘っても、
「……どうしよ」
と、悩んでばかり。
「そ、そんなに…わたしのことが嫌いなのかな?」
涙目で、結衣に訴えられた眞博。
やっと、うなずき、席についた。
余ったのは、秦弥と数人の男子。
(なんでだよ……)
結衣はともかく、自分も結城たちの近くの席がよかったのに。
悔し紛れに、イラつきを覚える。
「モテないんだね〜」
周りの女子から野次がとび、男子からは哀れんだ目で見られる。
「っく……」
なんで、こんな端に追いやられなければいけないんだよ──。
「じゃあ、ここでいいよ」
声をかけられた。
明らかに女子の声。
「私の前、余ってるんだけど。座りたければ座ったら?」
それは、女子の彩苗の声だった。
「誰でもいいけど」
秦弥の心は揺れる。
取り残されたくない──でも。
彩苗は、頭が良いが、性格がキツいため、男子と話しても猛烈に突っ込んでくる性格だ。
それがいいという人もいれば、嫌いという人もいる。
そんな彩苗の前。
いいのか、悪いのか──。
(でも、余るよりはずっとましだ)
そう決心して、秦弥は、彩苗の前に座った。
彩苗は、一番後ろの窓際の席だ。
その前が秦弥。
ハッキリ言って、席が真ん中なのはキツい。
圧迫感があるため、後ろの席が好みだが、女子がそうさせてくれなかった。
「あ〜あ、キツいな〜」
「?お前、後ろから二番目かー。それはキツいな」
結城が面白そうに笑う。
「しかも、あの彩苗は、前に詰めてきそうだしな。可哀そっ」
ふざけ半分で言われ、秦弥はムッとする。
「しょうがないだろ」
そこで、眞博がなだめる。
「秦弥。後悔はしないほうがいいよ。いい席だと思うし」
「……いい席……?」
秦弥は、自分の席を見つめる。
後ろでもない前でもない圧迫される机。
しかも、彩苗の隣──。
いい席なのか?
それを聞いていた彩苗は、ため息をついた。
席を少し後ろに後退させる。
──秦弥に文句を言われたくないから
チャイムがなり、秦弥は、自分の席に着く。
「……ん?」
そこで、ふと気付いた。
自分の席がゆとりを持ってキツくないことを──。
(もしかして彩苗が)
まさかとは思う。
けれど、彩苗以外にしてくれる人はいるのだろうか。
秦弥は、後ろを少し向き、笑顔を向けた。
そして心のなかで。
──君のおかげでいい席になれたよ