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2/12

君のおかげでいい席になれたよ


 1


 この学級では、異性があまり会話しない。


「では、席替えします‼好きな席選んでいいよ〜」

 担任の西村先生が指図する。


 男女隣り合わせに配置し、男女が隣になれば、どこの席に座ってもいいという。

 どの席を選んでもいい。

 先生の意見は入れなくていい。

 まさに、極楽な席替えだ。


 ──しかし。


「そこ私の席!」

「あ、お前の隣やだからあっち行って」

「どいて!」

 女子が我先に、と好きな席を選んで座る。

 男子は、実力的には勝てるが──面倒くさいので言われるがまま。


 つまり、女子が自分の席と隣の人を選べる。


 本来ならば、平等、百歩譲っても男子優先というイメージが強いが、ここの学級は完全に女子が”絶対的権力”を握っている。

 なぜ?

 男子はなぜ、反抗しないのか。

 それは、ここの学級に刻まれた歴史なので、話すのはまだ早い。

 

「うわーまたやってるよ」

「弱いくせに。先生がついてるからって調子のんなよ」

「本当にー。まあ、相手にしなければいいっしょ」

 追いやられていた端の方で、男子三人組がいた。

「で?誰の隣にするの?」

 結城(ゆうき)が、友達である秦弥(しんや)に話を振る。

「別に……好きなやつなんていないし」

「おーお前悲しいやつだな」

 結城が哀れんだ目で秦弥を見つめた。

「結城はいるのかよ?」

「それは、結衣(ゆい)しかいないだろ!」

 叫ぶ結城。

「は……あいつ?八方美人にしか見えないけど」

 秦弥は、冷たく切り捨てる。

「いや〜好きな人がいないやつに言われたくないな〜!」

「……じゃあ、お前はいるの?」

 隣りにいた眞博(まひろ)に話を振る秦弥。

「いるよ」

「誰?」

「教えない。……秦弥が好きな人できたらいいよ」

「何だよそれ」

 呆れながら、秦弥はつぶやく。

「そもそも──」


──好きって何?


 素朴な疑問が、秦弥を知略させる運命となった。




 2


 席替えで、端に追いやられていた3人は、女子に誘われた。

「結城くん、ここの席どう?」

 結衣が、自分の隣を指差し、笑顔で指図する。

「あ、ありがとう」

 えーいいなーと男子の野次が結城に飛んだ。

 結衣はえへへ、と後ろの席を指差した。

「眞博くん……もどうかな?」

「……──」

 眞博は、動じない。

「友達の結城くんもいるし…」

「それはいい席だけど…」

 あんまりと眞博は、首を縦に振らない。

「なんでだよ?結衣は一応美人だぞ?」

 秦弥が急かしても、

「……あんまり」

「オレの近くだぞ?」

 結城が誘っても、

「……どうしよ」

 と、悩んでばかり。

「そ、そんなに…わたしのことが嫌いなのかな?」

 涙目で、結衣に訴えられた眞博。

 やっと、うなずき、席についた。


 余ったのは、秦弥と数人の男子。

(なんでだよ……)

 結衣はともかく、自分も結城たちの近くの席がよかったのに。

 悔し紛れに、イラつきを覚える。

「モテないんだね〜」

 周りの女子から野次がとび、男子からは哀れんだ目で見られる。

「っく……」

 なんで、こんな端に追いやられなければいけないんだよ──。


「じゃあ、ここでいいよ」

 声をかけられた。

 明らかに女子の声。

「私の前、余ってるんだけど。座りたければ座ったら?」

 それは、女子の彩苗(さなえ)の声だった。

「誰でもいいけど」

 秦弥の心は揺れる。

 取り残されたくない──でも。


 彩苗は、頭が良いが、性格がキツいため、男子と話しても猛烈に突っ込んでくる性格だ。

 それがいいという人もいれば、嫌いという人もいる。


 そんな彩苗の前。

 いいのか、悪いのか──。

(でも、余るよりはずっとましだ)

 そう決心して、秦弥は、彩苗の前に座った。


 彩苗は、一番後ろの窓際の席だ。

 その前が秦弥。

 ハッキリ言って、席が真ん中なのはキツい。

 圧迫感があるため、後ろの席が好みだが、女子がそうさせてくれなかった。

「あ〜あ、キツいな〜」

「?お前、後ろから二番目かー。それはキツいな」

 結城が面白そうに笑う。

「しかも、あの彩苗は、前に詰めてきそうだしな。可哀そっ」

 ふざけ半分で言われ、秦弥はムッとする。

「しょうがないだろ」

 そこで、眞博がなだめる。

「秦弥。後悔はしないほうがいいよ。いい席だと思うし」

「……いい席……?」

 秦弥は、自分の席を見つめる。

 後ろでもない前でもない圧迫される机。

 しかも、彩苗の隣──。

 いい席なのか?


 それを聞いていた彩苗は、ため息をついた。

 席を少し後ろに後退させる。

──秦弥に文句を言われたくないから


 チャイムがなり、秦弥は、自分の席に着く。

「……ん?」

 そこで、ふと気付いた。

 自分の席がゆとりを持ってキツくないことを──。

(もしかして彩苗が)

 まさかとは思う。

 けれど、彩苗以外にしてくれる人はいるのだろうか。

 秦弥は、後ろを少し向き、笑顔を向けた。

 そして心のなかで。


──君のおかげでいい席になれたよ

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― 新着の感想 ―
[良い点] あかるく、はずむようなタッチですね~! キハさんのその若い才能! 羨ましい~! だって自分が、キハさんと同じくらいの時なんて……。 自信持って、突き進んでくださいね!
[良い点] 「知略企画」からお邪魔します。 >──君のおかげでいい席になれたよ とても綺麗な一文ですね。先の展開に期待を抱かせるには充分な文章だと思います。プロローグもどう絡んでくるのか。続きを楽し…
[一言] おおー席決め懐かしいですね(。-ω-) 誰がどの席になるか、毎回ハラハラドキドキしたものです。 完結を目指して頑張って下さい!
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