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第9話

 11月23日ぶん

 やっぱり話数が二桁に到達しようというところで創作意欲が湧かなくなる。遠い何話か後のお話は浮かぶのだが、それに向けた繋ぎがどうしても書けなくなってしまうのだ。どうしたら解消できるのだろう。


 今日の筋トレ〇

 日課をもっと増やしていきたい

 三日経てば何も変わらない日常がある。フェナーチアはそう思っていた。少し時間を下さいと言っていたイルゥナ。ガンズに薬の荷運びを一時的に任せるとは言っていたものの、責任感の強いあの子のことだから次の受け渡し日もしっかり来てくれるだろう、そう思っていた。


 しかし、やってきたのは筋肉ダルマの大男。


 一週間と待てばまた来てくれるようになるだろうと考えた。きっとあの子が離れたのは自分が悪いことをしてしまったからだと思考が至り、手始めに家の中を掃除することにした。もしかしたらガンズから家での様子を聞いているかもしれない。玄関から順に少しずつ掃除をする場所を広げていく。


 しかし、一週間と少し経過してもやってきたのはガラガラと大げさに笑う大男だった。


 さすがに一月も経てば来るだろうと考えた。掃除をしているせいで、薬品作りや魔道具作りのための道具しか置いていないリビングが寂しく映るようになる。庭の開いている花壇に女性らしく見えるような可愛い花が咲く植物の種を植え、魔法を使って育てた。本来のものより少しだけ禍々しくなってしまったが、仕方がないと割り切り花瓶に刺してリビングのテーブルに乗せた。


 それなのに、今日もやってきたのは無骨で不躾で不快な大男だった。



「よお、なに辛気臭い顔してんだよ! ガハハハッ!!」

「私はお前の姉と兄が大嫌いなんだ。だからお前も嫌いだ。薬はそこに置いてあるからさっさと出て行ってくれ」



 そんな言葉を吐かれて不快に思わない人間はいないだろう。きっと、この街の住人以外であれば、怒りに任せて暴言を返してしまう者も少なくないはずだ。

 ガンズは変わらず笑う。ガラガラと大きく口を開いて、お前はここの街に来てから全然変わっていないな、と笑った。



「なんだよ、時間くれって言われたんだろう? 待てばいいじゃねぇか、まだ1月だ。兄貴や姉貴がまた顔見せに戻ってきてくれるのを5年ぐらい待ってるんだぜ」

「子供の時間と私達大人の時間を一緒にするな。お前はイルゥナぐらいの歳の頃にした約束を覚えているか? 私は思い出せるものなんてこれっぽっちもない。子供は無邪気で好奇心旺盛で、好きなものをコロコロと変えていく。そして沢山楽しいことを見つけていくと同時に記憶を摩耗させ昔のことを思い出させなくさせていくんだ」

「……」

「時間が経つにつれて私は怖くなる。あの子が約束を破らない子だと心の中では思っていても、過去の私がそれを信じさせてくれない。一月経った。あの子はまだ私のことを記憶してくれているのだろうか。これから二月、三月と経過し、一年とすればどうだ。私は親元を離れて1年で顔も声も忘れたぞ。宮廷で再会した時私が何と言ったか分かるか? 『はじめまして』だ。勘当されたも同然の別れだったから皮肉ととらえられたがな」

「そいつぁ、お前さんが特殊すぎるだけだろ」



 フェナーチアは傍らに置いていた木箱を手に取る。イルゥナをこの家に迎えてからというもの長らく使っていなかったものだった。おもむろに開けたその中には、パイプと香草が入っている。

 昔、ここよりずっと離れ、ずっと栄えてずっと煌びやかな王都で暮らしていた頃から吸っていたものだ。人は長い時間使いつぶしたものを愛用品というのだろうが、フェナーチアはこの道具たちに愛着というものは湧いていない。


 使う時はいつだって、小さな体を大人のように見せるためだった。人一倍体が小さく、幼い体型。加えて、人一倍頭がよく融通が利かないこと以外は優秀だったフェナーチア。

 可愛らしい見た目、というだけだったら多方面から可愛がられたのだろう。しかし、彼女の薬や魔道具に対する熱量や妥協を許さないが故に周囲へ強く当たる態度は、反感を呼んだ。体の小ささをバカにされ、恋すらも実らず、何事においても下に見られる。フェナーチアにとって一番許せなかったことは、やはり自分の創作品をパクられ、自分の方が贋作だと罵られたことだろう。盗作されたものが自分のより優秀であれば諦めもついただろうが、そこはお察しである。


 馬鹿にされないためだけに火をつけ、煙を吸い込み、吐き出す。

 美味いとも思わなかったし、不味いとも思わなかった。馬鹿にされ続けるのは止まないが、吸っていれば人が遠ざかり一人になれる。フェナーチアにとってこれは静かな時間を得るために必要なものだった。



「おっと、よしてくれよ。俺はもう自分のガキのために止めたんだ」

「私はお前のことが嫌いだと言っただろう。だったら諦めろ。……、げっほ、げっほ!? こ、こんなに不味かったか?」



 嫌味たらしく流し目を向けて、煙を吸い込む。そして、むせた。


 何年以来だったのだろう。吸い方を忘れていた彼女は涙目になりながら灰を捨て、パイプを水ガメの中に放った。



「もったいねぇな」

「じゃあ、残り吸うか? 薬を持って行ってくれる駄賃だ。ただでやるぞ」

「だから俺はもうやってねぇって言っただろう。それにそんな埃とカビに塗れたもん、すいたかねぇよ」

「ああ、随分と変な匂いがすると思ったらカビていたのか。だったらもったいないなんて言うなよ。どうせ捨てるものだ」



 まるでこの地に来た時のような光景に戻ってしまった家の中を見ながら、おかしな味がするため息を目一杯口から吐き出すのだった。


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