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第4話

 11月18日ぶん

 2000字キープを頑張ってみているが、即興で書き上げるのが辛い。どうすれば余裕をもって書けるようになるだろうか。話の膨らませ方を知りたい。

 街の端からやや中央に寄った場所。他の言い方をすれば、街の中心部を通る大通りから細道にずれて5度ほどクネクネと道を曲がった場所にイルゥナの家はあった。現在は母と二人で暮らしている、少しばかりボロい家。それでも隙間風が吹き込んでこない造りになっているのは、フェナーチアの手伝いをしているおかげだった。

 三日毎の朝、起きてイルゥナが確認するのは家の前に置いてある木箱。街の住人は、区画の誰かが代表してフェナーチアに頼みたい薬を書き記した紙をこの木箱に投函していく。ふざけたような効能の薬を要求するのは、決まって旅人か近隣の住人だった。



「人が獣人になる薬って出来るのかな?」

「さあ? でも、あの子だったら案外パパッと作ってしまいそうね」

「そうかも」



 朝食の準備をしている母の後ろ。食卓の下で生活必需品を求めているものと、急を要しそうなもの、そうでないものを分けていく。このまま箱ごと渡してもフェナーチアはきっと全ての薬を嬉々として作ろうとするだろうが、そんなことになると本当に必要なものが必要な時に手に入らなくなってしまう。そのため、一度イルゥナがこうして検閲するのだ。

 ちなみに、イルゥナの現在の歳は昨年10をむかえたばかり。10歳の子供に管理されなければ取捨選択も出来ない28歳とはこれ如何に……。


 包丁を器用に操り簡単な料理を作り出していくイルゥナの母は、ボヤキを聞きながらクツクツと笑った。彼女からは、ほとんど同年代のフェナーチアが子供にでも見えているのだろうか。

 一人分多く料理を作る日の彼女はイルゥナから見ても普段の倍はご機嫌だった。今もイルゥナが子守歌として聞いていた鼻歌を奏でながらまな板の上でリズムを刻んでいる。



「あ、そうだ。今日はこの間作ったジャム持っていきなさいな」

「お母さん作り過ぎちゃったもんね」

「ふふ、ガンズさんったら沢山持ってきてくれるんだもの。久しぶりに楽しくなっちゃって」

「だからって作り過ぎだよ」



 イルゥナは冷暗所の方へ視線を向けた。半分は干して乾燥果物にすればよかったのに、なんて思うが口には出さない。それはやっぱり、イルゥナにとって母が楽しくあることが一番だからである。

 今ではフェナーチアの家に行く日が楽しみの一つになっているが、始めの頃は違った。高い賃金に目がくらみ仕事を引き受け、初めて魔女の家にガンズに付き添われながら赴いた日。おどろおどろしい家の外観と鬱蒼と生い茂った不気味な植物を前に腰を抜かしてしまったし、母やフェナーチアには内緒だが少し漏らしもした。

 そんな恐怖を抱いた第一印象が呆れへと変わったのは、早いことに腰を抜かした直後のことだった。ギィと不気味な音を鳴らしながら開く扉。埃と共に現れたのは大人とは思えない女の子。ズリズリと地面を這いずりながら出てきた彼女はお腹を鳴らしながら煤塗れでこういったのだ「はらへった」と。その直後に横から聞こえたガンズのガラガラと大きな笑い声でイルゥナの恐怖は吹っ飛んでしまったのである。



「パンも多めに持っていった方がいいかな?」

「きっとあの子のことだから、パンを持っていかないとそのままか葉っぱに付けて食べそうね」

「じゃあ、ちょっとこの籠じゃ小さいかもね」



 イルゥナの家は他人に食料を分け与えられる程に裕福な家ではない。この二人の会話をイルゥナが仕事をしているから家計に余裕が出ていると解釈してしまうのは違う。これは二人がフェナーチアをもう一人の家族のように見ているから出来るのであって、本来はイルゥナが仕事をしなければ家計が回らない程に大変というのが正しい。

 そうでなければ、家族のように思っているフェナーチアから仕事の対価としてでも、大金とも思えるお金を貰ったりはしないのではないだろうか。


 ちなみに、三日に一度しか行かないのは、フェナーチアの願いであるため関係ない。彼女も二人を家族のように扱っている。ただ、本当の家族だったとしても何から何まで干渉するわけではないだろう。フェナーチアも一人の時間というものが欲しいのである。



「前に薬草を取りに行く時に使った深い籠があるでしょう。背中に背負うものそれつかいなさいな」

「えー、あれ大きすぎない?」

「いいじゃない。溢さないか心配する必要もないし」

「それに兵隊さんとか狩人さんとかに笑われちゃうよ」



 年ごろというべきなのだろうか。イルゥナは他人から笑われることを嫌って大きな籠を背負うことを渋った。これまでもそうだ。大きな籠で安全に運ぶことと、小さな籠で慎重に運ぶこと、イルゥナが決めるときに一番気にしたのは人目だった。

 森の中に食べ物を取りに行くわけでもないのに、大きな籠を背負うのはかっこ悪いことだと勝手に認識してしまっているのである。また、どれだけ大きな籠を持って行ってもフェナーチアの家から持って帰る薬は、ほとんど粒上の薬を紙に包んだようなものばかりのためかさが減る。

 結局帰り際は小さな籠でも余りあるのに、どうして大きな籠を持っていかなければいけないのか。そんなことを気にしてしまうイルゥナであった。



「でも、パンをいつもより多めに持っていくんでしょう? きっとフェナーチアも喜んでくれるはずだわ」

「……。分かった」



 まあ、首飾りをしていればパンが籠からこぼれ落ちるなんていう悲しい出来事とは縁が切られるため、どちらを選んでも変わりないのだが。

 そこまで効果を知らない二人は気付かない。


 今日の筋トレ日記

 腕立て伏せ30回

 腹筋30回

 背筋30回

 これを二セット

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