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第3話

 11月17日ぶん

 あれ? 途中まで昼時に書いていたのに何でこんな時間に……。

 書き始める時間が遅いせいか……。


 魔女フェナーチアの家がある場所は、狩人が獣を狩るために出向く森の少し入り組んだ場所である。だから動物が出ないなんてことは無く、また、動物が出たとしても安全な草食動物だけということもない。獣や人の肉を食う肉食獣も少なくない数目撃され、時折傷ついたり狩りの道具を失ったりした狩人が意気消沈した様子で森から戻ってくることも年に何度か起こった。

 そんな森を、身を守る道具も人も力もない小さな子供が気軽に行き来出来るはずがない。それなのにどうしてイルゥナがフェナーチアの家を自由に訪問することが出来るのだろうか。その理由は、帰路を辿る途中イルゥナがぼんやりと眺めていた首飾りにあった。



「やっぱり動物が寄ってこないんだよなぁ……」



 小さな水晶が組み込まれた銀製の飾り。

 形は複雑で、ある程度の学がないと読み解くことが出来ない魔法陣が何重にも重なり、制作者しか理解することの出来ない幾何学模様を作り出している。また、これは魔法を扱う人間にしか分からないことだが、他人に細工をさせないためか魔法陣に使われている言語は現代の言葉ではなく、古代語をモチーフにした独自言語だった。


 そこまでしてこの首飾りを作ったフェナーチアの思惑はさておき、その効能だ。

 イルゥナは生来動物に好かれる体質である。首飾りを外している時間は肩に小鳥が止まりに来たり、森から街へ迷い出てしまった小動物達が足元に寄ってくるぐらいには好かれていた。

 それが今はどうか。イルゥナの目の前に動物が現れる前兆すらない。もちろん、肉食獣に巣を追われた小動物が逃げたために森が静かになったから、なんてこれから悲劇が起こりそうな状況が森に訪れているわけでは無い。イルゥナが通った後には小動物たちが顔を出しては近寄りたいけど近寄れないと言った具合に背中を見つめているし、居ることには居るのである。


 首飾りに組み込まれた魔法を大雑把に説明するとすれば、縁を一時的に切る、という言葉に尽きる。今は動物との縁を切り、イルゥナと動物が会えない状況を作り出しているのだ。

 他には、悪人との縁や死との縁、毒草との縁、女との縁等といったものがフェナーチアの手によって、この首飾りをイルゥナが付けている間切られることになっている。



「おお! イルゥナ!! 今日は魔女さんの所にお出かけか?」

「ガンズさん。そうですよ、ガンズさんが頼まれていた薬も貰ってきました」

「出来たのか! いやぁ、やっぱりはえぇな!! 気長に待とうと思ってたのによ!」



 足元も周りも見ず、手元だけを眺めながら歩いていたイルゥナに声がかかる。

 ガラガラと大きな笑い声をたてながら話しかけてきたのは、ガンズという街一番の狩人だった。彼の体躯は街一番という呼び名に違わぬ程屈強な造りをしているし、背も高い。大げさかもしれないが、子供であるイルゥナを三人縦に並べてようやく手が頭に届きそうな程には大きな体をしていた。

 ガンズの背には、フェナーチアの背丈ほどの胴体を有する鹿が背負われている。鹿の首には血が流れ出た後が残っており、血抜き済みであることが分かった。



「フェナーチアさんの趣味は薬作りですから。ガンズさんは今日も大物ですね」

「俺の趣味は狩りだからな!! だが、毎日捕るわけじゃねぇぞ。俺ばっかり捕ってると他の奴が捕れねぇし、捕り過ぎると子供が産まれなくなって狩りが出来なくなる。だからわざとボウズにする時だってある」

「でも、動物だったり、魚だったり、いつも大きな獲物を捕まえているような気がするんですが?」

「俺の趣味は狩りだからな!!」

「なるほど、要領がいいということですね」

「ガハハハッ!!」



 道すがら会話を楽しみながら二人で山を下る。

 狩りの仕方や、罠の作り方等々……。秘匿するかと思えばガンズは口に油でも塗られているかのようにペラペラと楽し気になんでも話した。誰も来ない穴場があるんだ、という話をしそうになった時は流石にイルゥナが止めたが。

 開放的な森の中。誰かが聞き耳を立てていてもおかしくはない。



「そういえば、お酒って美味しいんですか?」

「ん? うめぇぞ? 飲んだことねぇのか?」

「はい。お母さんにもフェナーチアさんにも止められているので。少なくとも大人になるまでは飲むな、と」

「ガハハハッ! いい母ちゃんと仕事先じゃあねぇか! 子供のうちから酒なんて飲んじまったら、逆に酒に飲まれちまうよ。俺みたいにな!!」



 ガンズが魔女に発注していた薬は、飲み物が全て酒の味に変わる薬だった。酒というものの味が分からないイルゥナは、そこまでして飲みたいものの味が気になって仕方がなかったのである。

 食べ物だって毎日同じものを食べていれば、例え好きな物だって飽きてくる。一度、フェナーチアの家で甘い菓子が出されそれを気に入ったイルゥナ。美味しい美味しいと頬張っていたら、分けてもらえることになり家でも母と一緒に食べたが一日中食べていたら飽きてしまい残りは近所の子供達に分けることに。このようにイルゥナは同じことを食べる苦痛さをしっているのである。イルゥナの中では飲み物だってそれは同じはずだった。



「お酒は妙薬とよく聞きますけど飲み過ぎれば毒になるので、今回の薬で飽きてしまうことを陰ながら願ってます」

「ガハハハッ! そんなことにはなりゃしねぇよ!」



 ようやく街にたどり着いた頃には、大通りは夕飯の食材を求める主婦たちで賑わっていた。


 今日の筋トレ日記

 腕立て伏せ30回

 腹筋30回

 背筋30回

 これを二セット

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