表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/11

第1話

 11月15日ぶん

 あらすじ書くのに戸惑ってしまった……。

 時間ってなんでこんなに早く過ぎてしまうんだろう。

 外敵から身を守るための設備が、人間の子供程しか高さのない柵がぐるりと二周分置かれているだけの小さな街。キラキラとした装飾で街を飾り付け出来る程裕福というわけではなく、その日一日を過ごすことが難しく感じる程貧乏というわけでもない。特産品と呼べる物が無いこの街の特色を無理やり挙げるとすれば、住人が皆満ち足りたような幸せな笑顔を浮かべていることだろう。

 老人も若者も関係なく笑顔を浮かべながら畑を耕し、狩りを行い、家事をこなす。不満を溢してしまいそうになる重労働であっても、獲物が不作であっても、寒い季節に行う水仕事であっても、住人は満ち足りた表情を浮かべていた。

 旅人はこの街を夢のような街だと友人に自慢しながら、心の中では奇妙な街だったと評価する。そう考えてしまうのは、やはり数え切れないほどの街や国を巡ったからなのだろう。


 さて、そんな奇妙で夢のような街から少し離れた場所。

 街の狩人達が普段狩りをする山道から少し外れた獣道を進んだ場所に、ポツンと一軒レンガ造りの家が建っていた。家の横から伸びた二つの煙突の片方からモクモクと灰色の煙を吐き出している様子から、人が住んでいることは把握できる。ただ、住人は面倒臭がり屋なようだ。建った当初は綺麗な色合いをしていただろうレンガの壁に無数のツタが這っている。

 家の前には雨水を溜めておくためだろうか。子供の足であれば膝まで入ってしまいそうな深い溝が掘られた石が埋めてある。掘り起こせば子供の背丈なんて優に超えてしまえるのではないだろうか。そんな石桶に集まってくる色彩豊かな小鳥達は、薄汚れたこの景色に風情を与えてくれる。

 そして、そんな風情をも消し去ってしまうのが、家の横にある庭。花壇が6つ程置かれ、一つは背の高い草がぼうぼうと生い茂り、一つは毒々しいいかにも人を殺せそうな花が咲き、一つは人間の体の一部が咲き、残りは何も植えられておらず荒れ地と化していた。

 小鳥を見つけて近寄ってもこの庭を見た瞬間、誰であれ腰を抜かして逃げていくだろう。そう思わせる酷い庭だった。



「~♪ ~~♪」



 ただ、こんな家であっても誰かは肝試し以外の目的で訪れるらしい。

 鼻歌を歌いながらややスキップ気味に現れたのは人間種の子供。肩のすぐ下あたりまで伸ばした焦げ茶色の髪を揺らしながらやってきた様子は、あの街の住人らしく幸せそうな雰囲気を漂わせている。

 手に持った籠には食べ物がギュウギュウに詰められているのだろうか。森の中に住まう小動物の視線は底の浅い籠に山を作りながら被さる布に向いていた。



「フェナーチアさん、イルゥナです」

『イ、イルゥナ!? ま、待て! 今片付けるから!!』



 コンコンと木製の扉をノックしてイルゥナが声を大きくして呼びかける。すると、中から慌てたような声と共にガシャガシャと何かをかき集めてはひっくり返す音が聞こえてきた。

 近くにある窓から中で起きていることを確認しようにも、見えるのはうず高く積まれた書籍の壁。やはり家の外観から察せられたように、この家の住人は片付けや掃除というものが出来ないらしい。

 イルゥナは大きなため息を吐き出して、再び片付けで大きな音を出しているフェナーチアに聞こえるように声を張り上げる。



「フェナーチアさん、入りますね!」

『ま、待てと言っているだろうがぁぁああ!? いった!? 小指打った! 痛いぃい!!』

「はぁ……」



 ボフンと先ほどまで煙突から出ていた煙が紫色に変わったのを確認して、イルゥナは扉を開けた。案の定と言っていいのだろうか。まず初めにイルゥナの視界に入ってきたものは扉の高さを超える程に積まれた本の山だった。

 一冊興味本位でつつくと、バサリという音と共につついた本が落ちて山に穴が開いた。しかし山は崩れない。もう一冊つついてみた。それでも結果は同じ。どれ程精巧に積み上げればこんな状況が起こるのだろうか。穴の奥に見える転がり悶える布を眺めながらイルゥナは頭を抱えた。



「この前掃除したのいつでしたっけ?」

「イ、イルゥナが、来たときだから、三日前だな」

「それでこんなに汚くしたんですか?」

「え、えぇっと……」



 足の小指を打ったせいで涙声になっているフェナーチアは、痛む足を押さえながら家の中に光を差し込む本の山に開いた穴に顔を向けた。



「今まで家の玄関を塞ぐようなことは無かったのに。もう来るなってことですか?」

「ち、違う! そ、それは違うぞイルゥナ。これはだな、薬品を置くスペースが無くなってたまたま空いた棚に入れていったら今度は本を入れる場所が無くなってしまったんだ!」

「その空いた棚って本棚だったんじゃないんですか?」

「はっ……!? そうか、そういうことか!!」



 薬品を独自に作る技術があるということは、それなりに頭はいいのだろう。だというのに、どうしてこんなにも掃除は出来ないのか。



「今日は帰りますね」

「それは困る! 待ってくれイルゥ、ぷぎゅ……」

「じゃあ、毎日掃除しましょう?」

「……」



 帰ろうと踵を返したイルゥナを追うように、フェナーチアは玄関先に自分で高く積み上げた本の山に突っ込み、そして潰れた。本一冊二冊程度では動じなかった山も、人一人分の穴が開けば崩れるらしい。

 何百冊という本の山に潰されたフェナーチアにイルゥナの声は届かなかった。


 今日の筋トレ日記

 腕立て伏せ30回

 腹筋30回

 背筋30回

 これを二セット

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ