表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
インスタント  作者: 細井真蔓
7/7

00:00

「最後まで、ドルフはその飼育員に、手を振り続けました。水面から立ち上がり、覚えたばかりの別れの挨拶を、いつまでも、いつまでも、繰り返すのでした」

 ぼうっとしていた。体の芯からやってくるような寒さが、僕を震わせる。半分だけ開いた窓から、冷たい風が吹き付ける。ついさっきまで雨が降っていたと思ったのに、いつの間にか止んでいる。

 立ち上がり、窓を閉める。そうだ、カップラーメンを作っていたんだ。タイマーをかけるのを忘れていた。何分経ったろうか、と思いながら、服を着る。けれど、どうしてだろう、不思議な感覚だ。時間も測っていなかったのに、なぜだか、ちょうどぴったり三分経ったような、確信めいた感覚がある。いつもカップラーメンばかり食べているせいで、そんな馬鹿馬鹿しい能力が身に付いたのかもしれない。

「感動的なシーンでしたね。回答者の皆さん、いかがでしたか?」

 カップの蓋を開ける。熱い湯気が立ち上る。

「一度、飼育員が溺れかけたじゃないですか。そこに颯爽と現れたドルフの姿が、もう、何というか、思い出しただけで……」

 溺れかけた……。思い出しただけで? よく見ていなかったが、何の番組だろう。僕は箸を割り、カップに突っ込む。熱いスープの香りを、思い切り吸い込む。

「イルカが人を助けるって、ほんとだったんですね」


 温かなラーメンの匂いが、冷えた肺を満たす。

 半分だけ蓋の開いたカップに向かって、僕は胃の中身を、思い切りぶちまけた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ