サノア
俺は魔属の国との国境の町に着いた。
「身分を証明できるものは、あぁ、ムサシさんか、どうぞお通りください。」門番が俺の顔を見て言う。
「良いのか?」
「はい、ムサシさんなら。」
「そうか、では通らせてもらうよ。」
「はい。」
「さて、サノアの家は何処だ?」
「くふふ、知った気を追えばいいよ。」
「おぉ、ミロクはそれが分かるのか?」
「いや、全然。」
「使えないな。」
「酷いな!」
「当然のことだろう。」
「ぶぅ!」ミロクがブウたれる。
「ギルドで聞くか。」俺はそう言いながらギルドに向かう。
「いらっしゃいませ、今回はどの様な?」ギルドの受付嬢が聞いてくる。
「あぁ、サノアと言う女性の居所を探している。」
「サノア? あぁ、第3王女の従者をしている。」
「あぁ、そのサノアだ。」
「其れでしたら、このギルドを出て右方向に行き、突き当りを左に曲がって15件目の建物の3階です。」
「詳しいな。」
「いえ、いえ、ギルドの嗜みです。」
「あぁ、助かった。」
「情報量1Gです。」
「え? 金取る、いや、ここに置くぞ。」俺はミロクから1G分のBが入った袋を貰ってそこに置く。
「またどうぞ。」受付嬢がにこやかに言う。
「あぁ。」俺はそう言うと、ギルドを後にした。
「右に進んで、突き当りを左に曲がると言っていたな。」俺はそう言いながらその方向に歩いた。
「兄ちゃん、食っていかないか?」屋台の男が手招きする。
「そう言えば、小腹がすいたな。」俺はそう言いながら屋台の方に歩く。
「お兄さん、そっちよりうちのほうが美味しいよ。」別の屋台からも声を掛けられる。
「おい、商売の邪魔するな!」
「そっちこそ。」
「あぁ、喧嘩するな、何を食わせてくれるんだ?」
「「ランナー鶏の串焼きだ!(よ!)」」
「ほぉ、見事にハモったな。」
「よし、2本ずつよこせ、一本幾らだ?」
「「100Bだよ。」」
「又ハモった、お前ら本当は仲いいんじゃないのか?」
「「違うよ!」」
「ははは、良いから早く出せ。」俺は400Bを置きながら言う。
「「お待ち!」」両方の屋台から2皿が目の前の机に提供される。
「どれ?」俺は最初に俺に声を掛けた方の櫛を手に取り口に入れる。
ミロクはもう一本を持って口に入れる。
「「はわぁ、串が空を飛んだ。」」
「あぁ、安心しろ、俺はこう言う者だ。」組合のカードを見せて言う。
「「神の身代わり?」」
「あぁ、俺の手を握れ、本当は有料なんだが、只で見せてやるよ。」そう言いながら左手を二人の前に差し出す。
「「?」」不思議な者を見るような顔をしながら、屋台の二人が俺の手を握る。
「あぁ、美味しいぞ。」ミロクは串焼きを頬張りながら言う。
「「み、ミロク神様!」」途端に二人は跪いて祈り始める。
「味は同列、二人とも精進しなさい。」もう一つの屋台の串焼きを食べながらミロクが言う。
「「ははぁ!」」
「ミロクの言うとおりだな、どちらの味も遜色ない。」
「「ありがとうございます。」」
「だがなぁ。」俺は悪戯心を出して、先日孤児院で俺が作ったランナー鶏の串焼きをミロクから貰い、其々の皿に乗せる。
「「これは?」」屋台の二人が聞いてくる。
「俺が作った串焼きだ、食ってみろ。」
「「はぁ?」」そう言いながら、二人がそれを口に入れる。
「「なぁ!」」屋台の二人が驚愕する。
「どうだ?」俺はニヤニヤしながら聞く。
姉御に教わった、姉御特製のたれを絡ませた自信作だ。
姉御が別の世界から来たと知った今なら解る。
絶対に上手い奴だと。
「「こ、ここまで・・。」」屋台の二人がお互いの顔を見合わせて言う。
「二人で協力して、この味を再現できるなら売っても良いぞ。」
「「解りました。」」二人がハモりながら言う。
「やっぱり、仲が良いんじゃないか?」
二人は顔を見合わせて、にっこりと微笑みながら言う。
「「そうかもしれません。」」
「ははは、では俺は行く、仲良くな。」
「「はい、ありがとうございました!」」
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「さて、先を急ごう。」俺は本来の目的を思い出して言う。
「ここの3階か?」俺はその建物を見ながら言う。
「くふふ、言われた場所だね。」
「あぁ。」俺は階段を上ってその部屋の前に行く。
「ふぅ。」俺は一息入れて、ドアをノックする。
「はい。」ドアの向こうから返事が返ってくる。
サノアの声だ。
「どなた?」そう言いながらドアが開かれる。
「俺だ。」
「まぁ、ムサシ様?」サノアが驚きながら言う。
「あぁ、久しぶりだな。」
「何もお構いできませんが、どうぞ。」サノアは俺をその部屋に招き入れる。
「む!」俺はその匂いにたじろぐ。
「くふふ、病人の匂いだね。」
「あぁ。」
「今回は、どのような?」
「あぁ、カリナに頼まれて、お前の母親を治しに来た。」
「え?」
「母親のところに案内してくれ。」
「え? でも。」サノアが躊躇する。
「大丈夫だ、俺なら何とか出来る。」
「はい。」サノアは俺をその部屋に案内する。
「ここです。」
「おぉ。」俺はその部屋のドアを開いた。
「なぁ。」俺は驚愕する。
「くふふ、これは酷い、結核とペストのダブル感染だ。」
「うわぁ。」
「どうしたのですか?」サノアが聞いてくる。
「鑑定。」俺はサノアを鑑定する。
「え?」サノアは驚愕するが、俺は安心する。
「二次感染はしていないな。」
「え?」
「お前の母親は、二つの病原菌に犯されている。」
「え?」
「結核菌とペスト菌だ。」
「はぁ?」
「どちらも流行すれば国が亡びる病気だ。」
「えぇ?」
「安心しろ、お前は感染していない。」
「そうなのですか?」
「あぁ、俺が鑑定した。」
「どうすれば?」サノアが狼狽える。
「あぁ、俺に任せろ。」そう言いながら俺は魔法を唱える。
「結核菌とペスト菌の浄化。」俺はその魔法を唱える。
「キュア!」
サノアの母親の身体からその菌が消えるのを鑑定した。
「そして、ヒール!」減った体力を回復!
「そして、周りの浄化!」俺はラキュアを唱える。
この家の病原菌が消え去った。
「ふぅ。」俺はため息をつきながら額の汗をぬぐう。
「ムサシ様。」サノアが俺の前に跪く。
「ん?」
「このサノア、ムサシ様に添い遂げます。」
「え?」
「大丈夫です、カリナ様には私から報告します。」
「はぁ?」
「子供は最低でも10人は産みます。」
「何を言って?」
「もう、私を虜にするなんて、もう。」サノアがくねくねしながら言う。
「?」
「うふふ。」サノアがくっ付いてくる。
「おい。」
「まぁ、サノアのボーイフレンド?」気を取り直した母親が言って来る。
「お母さん、私、この人の妾になる。」
「あら、あら、お妾さんに?」
「この人は、カリナ姫の旦那だから。」
「まぁ、それは素晴らしいわ。」
「うん。」
「ちょっと、あんたら可笑しいぞ!」俺は叫ぶ。
「ふふふ、私にあんなものを食べさせておいて。」
「お前もカリナと同じかよ!」
「ふふふ、知りません。」サノアが俺に抱き着いてくる。
「まぁまぁ、娘を宜しくお願いします。」
「はぁ。」俺は盛大にため息をついた。
この世界の人間は美味い物を食わせれば簡単なのか?




