ベヒモス
次の日、俺はベヒモスのいる山に走った。
「結構走ったけど、目の前に見える山はまだ着かないのか。」
「くふふ、凄く大きな山みたいだね。」
「マジかぁ。」そう言いながら、俺は全直で走った。
「ぜはぁ、ぜはぁ、やっと麓に着いた。」
「くふふ、その状態じゃ、今日は休んだ方が良いね。」
「あぁ、俺もそう思う。」そう言いながら俺は近くの木の下に座り込む。
「おぉ、周りに生えているのは食べられる草だ。」俺はその草を積む。
「ふふふ、これはお浸しにすると美味しいんだ。」
「これは、天麩羅にすると美味い奴だ。」俺は無心に薬草を積む。
ある程度の草を積んで、俺は正気に戻る。
「はっ。失念していた。」
「くふふ、いきなり草を取り始めたから、どうしたのかと思ったよ。」
「いや、昔よく食べていた草が大量に生えていたから、思わずな。」
「くふふ、食い意地が張っているからね。」
「ほっとけ。」俺はミロクからおにぎりを貰って食べ始める。
「くふふ、私にも食べさせろ」
俺は、左手に持ったおにぎりをミロクの口元に差し出した。
「パクリ、うん美味しいよ。」
「良かったな。」
食事が終わった俺は仮眠をとることにした。
「少し寝る。」
「くふふ、お休み。」
俺は木にもたりかかり、寝始める。
「あぁ、夜這いとかは良いからな。」
「何の事かなぁ~。」
「すんなよ!」俺はミロクに言い聞かせて、寝始めた。
**********
3刻ほど寝たら、疲れが取れ、全開になった。
「お~し、もう夜だが一狩行こうか。」
「くふふ、了解。」
俺は獣道を登り始める。
「う~ん、何かに見られている気がする。」
「くふふ、山に入った時から見られているよ。」
「やっぱりか、凄いオーラを感じる。」
「くふふ、向こうから来てくれたよ。」
「そこのお前、ここは俺の縄張りだ、何をしに来た?」巨大な牛に似た者が俺に問う。
その大きさは、足先から首まで10m位だ。
「おぉ、俺はムサシだ、お前が持っているミロク神の神気を返してもらいに来た。」
「貴様、俺が誰だか解って言っているのか?」
「ベヒモスだろう?」
「知っていてその口利きか?」
「あぁ、別にそうだが。」
「くはははは、お前程度の奴がよく言う。」
「おとなしく返してくれるなら、命は取らないぞ。」
「なめるな小僧!」
突然俺の身体が重くなった。
「おぉ、これが重力魔法か?」しかし、それだけだ。
俺は、普通に歩いてベヒモスに近づく。
「なぁ、何故動ける?」ベヒモスが驚愕しながら言う。
「別に、動けるから動いてる。」俺は涼しい顔で答える。
「くそ、ならこれでどうだ?」ベヒモスから魔力が噴き出す。
「おぉ、更に重くなった。」そう言いながら、普通に歩く。
「何だと、貴様は何者だ?」
「俺は、神の身代わりだ。」そう言いながら、腰の天叢雲剣を抜く。
「神気を返してくれる気になったか?」
「そんな短刀で、我が身体を傷つけられるものか!」
「ふん!」俺は一瞬でベヒモスに近づき、足の肉を少し切る。
「ぐぎゃぁぁ!」足から血を流しながら、ベヒモスが叫ぶ。
「切れたな。」俺はニヤニヤしながら言う。
「うぐぐぐ、その程度。」
「一応言っておくけど、今のは手加減したからな。」
「何を!」
「見ろ!」俺は近くにある、ベヒモスの足と同じぐらいの太さの木を天叢雲剣で切る。
「何だと。」ベヒモスが再び驚愕する。
俺の切った木は、べきべきと音を立てながら倒れていく。
「返す気になったか?」俺は真面目な顔をして問う。
「解った、とでも言うと思ったか?」ベヒモスが俺を踏みつぶそうと足で踏んでくる。
「ふん!」俺はその足を難なく受け止める。
「なぁ!」ベヒモスが目を見開く。
「てい!」俺はその足を持って山の上の方にベヒモスを投げ飛ばす。
「くわぁぁ!」という叫び声をあげながらベヒモスが飛んでいく。
「マンモスの方がまだ重かったぞ。」そう言いながらベヒモスに近づく。
「どうだ、神気を返す気に、ありゃ?」
「くふふ、目を回しているね。」
「何だかな。」俺はベヒモスにヒールを掛ける。
「うをぉ!」ベヒモスが気付く。
そして、辺りを見回して俺を見つけてギョッとする。
「神気を返す気になったか?」
「あぁ、参った、お返ししよう。」ベヒモスが項垂れて言う。
「どうやって返すんだ?」俺はベヒモスに聞く。
「すきに持って言ってくれ。」ベヒモスが言う。
「だってさ。」俺はミロクに言う。
「くふふ、戻って来たよ。」ミロクはニコニコしながら言う。
「良かったな、んじゃ帰るか。」
「くふふ、そだね。」
「ちょっと待ってくれ。」ベヒモスが俺を呼び止める。
「何だよ?」俺は振り返って言う。
「其れで良いのか?」
「はぁ?」
「俺を討伐とか、しないのか?」
「してほしいのか?」
「いや、そうではないが。」
「俺は神気を返してもらえば其れで良い。」
「では、俺はどうすれば良い?」
「はぁ? 今まで通りこの山で生きていけばいいだろう。」
「そうなのか?」
「もう会う事もないだろうが、達者で暮らせよ。」俺はそう言うと踵を返して山を下りた。
「くふふ、仲間になりたそうだったけど。」
「冗談じゃない、あんなでかいのがいたら近所迷惑だ。」
その時、朝日が昇って来た。
「マジかぁ、夜明けだよ。」
「くふふ、急いで帰ろう。」
「あぁ。」俺はそう言って全速で走り出した。
**********
「で、後どの位残っているんだ?」家のソファに座りながら俺はミロクに聞いた。
「う~ん、5匹ぐらいだと思う。」
「ふ~ん。」
「だけど、そのうち一人は、とても寒い所にいるんだよ。」
「寒い所?」
「うん、ベヒモスのいた山を通り越してさらに北に行った所。」
「へぇ~。」
「反応が薄くない?」
「良く解らない。」
「其れもそうか。」
「まぁ、そのうちにな。」
「くふふ、うん。」
「本当に仲が宜しいのですね。」カリナが少しほほを膨らませながら言う。
「しょうがないだろう、契約した神様なんだから。」
「えぇ、えぇ、解っていますとも。」カリナが横を向く。
「かわいい顔が台無しだぞ。」俺はカリナの横に行って肩を抱く。
「もう、ムサシ様のいけず。」そう言いながらカリナが俺にキスをしてくる。
俺はそれを大人しく受け入れた。
「くふふ、ご馳走様。」
「そう言えば。」俺は気が付く。
「はい?」カリナが怪訝な顔をする。
「サノアさんはどうしたのですか?」俺はカリナに聞く。
「国に帰りました。」
「はぁ? カリナの従者じゃなかったのか?」
「母親が病になり、その面倒を見るために帰ったのです。」
「病なら、俺が治せば良いんじゃないか?」
「はっ、その手が、ムサシ様お願いできますか?」カリナが真剣な顔で俺に言って来る。
「良いとも。」
「ありがとうございます。」
俺は準備をして、家を出た。
「くふふ、サノアの家がどこか知っているのかい?」
「あ!」俺は家に戻りカリナに家の場所を聞いた。
「ほほほ、場所も聞かずに行こうとしたのですか?」カリナが呆れながら言う。
「面目ない。」
「サノアの実家は、魔族の国の国境にある街です。」
「あそこか。」俺は思い出す。
「宜しくお願いいたします。」カリナが俺に言いながらキスをする。
「では、本当に言って来る。」俺はそこに向かった。




