騒動
「貴様、メイドの分際で我を邪魔するか!」酒に酔った貴族がメイドを突き飛ばす。
「きゃぁ。」メイドが倒れこむ。
「私がカリナ姫に声を掛ける邪魔をしおって!」
「人妻に声を掛けるのは駄目です。」メイドが叫ぶ。
「五月蠅いわ!」ドメル男爵が叫ぶ。
騒ぎを聞きつけ、護衛の騎士が集まってくる。
「ドメル男爵、お気を確かに。」複数の騎士がその男を抑える。
「私はカリナ姫にダンスを申し込みたいのだ。」ドメル男爵が言う。
「人妻にダンスを申し込むのはご法度です。」騎士が言う。
「たかが平民が娶ったのだろう。」ドメル男爵が言う。
「ドメル男爵様、ムサシ様は公爵を叙爵されています。」騎士が言う。
「はぁ?」
「ドメル様、お酒が過ぎたようですね。」
「えぇ、別室で冷静になってください。」
「私は酔ってなどいない!」
「ドメル男爵!」騎士が叫ぶ。
「カリナ様、是非に私とダンスを!」
「けがわらしい、私にダンスを求めて良いのはムサシ様だけです。」カリナが言う。
「がははは、そんなお姿も素敵です。」ドメルがカリナ姫に近づく。
「ドメル様、これ以上は洒落になりません。」騎士が言う。
「がははは、だからどうした?」
「あぁ、お前、俺の嫁に何をしているんだ?」俺はその男に言う。
「お前がムサシか、私にカリナ姫を譲れ、悪いようにはしないぞ。」ドメルが言う。
「ほぉ。」俺は眼の光を無くして言う。
「面白い事を言うな、つまり俺に喧嘩を売っていると言う事で良いな?」
「たかが平民風情が!」
「ドメル男爵、彼のお方は公爵様です。」そばにいた騎士が言う。
「何を馬鹿な!」ドメル男爵が言う。
「はぁ、アルゴン。」俺はそばにいたアルゴンに声を掛ける。
「はい、ムサシ様。」
「こいつはアウトで良いか?」
「はい、ご存分に。」
「と、言う事だ。」俺はドメルに向かって言う。
「何を?」ドメルが聞き返す。
「俺はお前に決闘を申し込む、逃げるなよ。」
「がははは、儂に決闘を挑むのか、お前は馬鹿だな!」ドメルが叫ぶ。
「楽に死ねると思うなよ。」俺はドメル男爵に宣言する。
「がははははは、平民風情が大きく出たな。」ドメル男爵が言う。
「ムサシ様、どうか穏便に。」アルゴンが言う。
「アルゴン、今更だと思うぞ。」
「はい、そのようです。」
「庭に出ろ。」俺はドメル男爵に言う。
「がははは、ここがお前の墓場だ。」
「あぁ、それで良いぞ。」俺はぞんざいに言う。
「がはははは、いつでも来い!」腰の剣を抜きながらドメル男爵が言う。
「はぁ、力量も解らないのか。」俺はため息をつきながら天叢雲剣を抜き、ドメル男爵に剣を向ける。
「がははは、そんな短刀で俺の相手をするのか?」
「ふっ!」俺は瞬歩でドメル男爵の前に飛び、ドメル男爵の剣を持つ右手の親指を切り飛ばす。
「ひぎゃぁぁぁぁ!」ドメル男爵が悲鳴を上げる。
「お前は喧嘩を売る相手を間違えているよ。」俺は天叢雲剣を鞘に納めてドメル男爵に近づく。
「く、来るなぁ!」ドメル男爵が叫びながら後ずさる。
「俺の嫁を愚弄し、俺を馬鹿にしたんだ、貴族の決闘の作法通りお前を滅する。」
「いや、待て、違うんだ!」酔いの冷めたドメルが叫ぶ。
「ほぉ、何がどう違うんだ?」
「何かの間違いだ!」
「ふん!」俺はドメルを蹴っ飛ばす。
「あぎゃぁぁ!」
「あぁ、思わず蹴っちまった、何がどう違うんだ?」俺はさらにドメル男爵に近づいて言う。
「昔から、カリナ姫に恋をしていた。」
「はぁ?」
「一度だけ、ダンスをしたかった。」
「はぁ?」
「平民に嫁いだ王族なら平民と同じだと思ったのだ。」
「先程から何度も伝えております、ムサシ様は公爵を叙爵されております。」騎士の一人が言う。
「元は、たかが平民だろう!」ドメル男爵が叫ぶ。
「ドメル、お前は余の言葉を軽んじたのだな。」アルゴンが言う。
「なぁ?」
「私は、神の身代わりのムサシ様には、絶対に逆らうな、口答えするな、敵対するなと申し付けたはずだが。」
「それは。」ドメル男爵が口籠る。
「はぁ、もう良いか?」俺は低い声で言う。
「はい、ムサシ様、彼のものに鉄槌を。」アルゴンが頭を下げる。
「待ってくれ、いや、待ってください!」ドメル男爵が叫ぶ。
「待ったらどうなるんだ?」俺が聞く。
「誤解を解きたい。」ドメル男爵が叫ぶ。
「誤解?」
「あぁ、私はカリナ様に恋をしている。」
「ほぉ。」
「一度だけダンスをしていただければ、満足したと思う。」
「怪しくなってきたな。」
「だから、死ね、ムサシ!」ドメル男爵が叫びながら俺に切り掛かって来た。
「情状酌量の余地はないな。」俺はドメル男爵の首を跳ねた。
「きゃぁぁぁ!」貴族の御令嬢の悲鳴が聞こえる。
「ミロク。」
「くふふ、塵になれ。」ミロクの言葉でドルメ男爵が塵になる。
「馬鹿のせいで、とんだ婚姻の場になりましたな。」アルゴンが言う。
「あぁ、良い余興だったな。」
「ははは、反乱を余興扱いですか?」
「あの程度、どうと言う事もない。」
「流石はムサシ様です。」アルゴンが嬉しそうだ。
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「がははは、流石はムサシだ。」ガキーンが良い顔で言う。
「いや、魔導灯を作っただけだ。」
「王都や城塞都市の孤児院に設置したと聞いたぞ。」
「あぁ、その通りだ。」
「この野郎、俺に内緒で凄い物を作りやがって!」
「いや、大した事は無いだろう?」
「がははは、魔導灯だけなら良い。」
「え?」
「地下水からお湯を作るだと?」
「あぁ、それか。」
「出来たから、やった。」
「かぁ~、ムサシ、お前解っているのか?」
「なにを?」
「やばい奴だ!」
「え? 何で?」
「無自覚かぁ。」ガキーンが叫ぶ。
「?」
「お前は、自分がやったことの影響を考えているのか?」
「はて?」
「お前ってやつは。」ガキーンが頭を抱える。
「たかが、井戸を掘りあてて、魔石でお湯にしただけだろう。」
「ははは、それだけか?
」
「はぁ?」
「其れがどんだけ凄い事か解っているのか?」
「いや、全然。」
「かぁ~、ムサシ、少しは自重しろ。」
「興奮するなよ、ガキーン。」
「お前! いや、今更か。」
「ん?」
「ムサシだもんなぁ。」ガキーンが何かを諦めて言う。
「失礼な。」
「流石は俺のまぶだと言う事だな。」ガキーンは俺の背中を叩きながら言う。
「いや、痛いから止めろ!」
「がははは!」
「だから止めろ!」
ガキーンの手痛い祝福はしばらく続いた。




