婚姻
「姉御、おめでとう。」
「あぁ、ムサシありがとうな。」
「あらあら、仲が御よろしいのですね。」カリナ様が横に来て言う。
「あぁ、姉御は孤児だった俺の面倒をよく見てくれたんだ。」
「まぁ、それは、それは、私はカリナです、ムサシ様に嫁ぎますので良しなにお願いいたしますわ。」
「あぁ、あたいはエリスだ。」
「ははは、私たちは義理とはいえ兄妹ではないか。」レニウムが姉御の肩を抱きながら言う。
「あぁ、そう言えばそうか。」俺は納得する。
「さぁ、この後は王城の礼拝堂で婚礼の儀だ。」レニウム王子が言う。
「あぁ、そうか、では行きましょうか、カリナ様。」俺はカリナ様に言う。
「ムサシ様、我が夫となられるのです、私のことはカリナと呼び捨てで。」
「解った、ではカリナ、行こうか。」
「はい、旦那様。」
「ははは、最早本当に夫婦だな。」レニウムが笑う。
「あぁ、レニウム兄、姉御を宜しくな。」
「ははは、任せておけ。」
「そう言えば、姉御。」
「ん? なんだ?」
「人魚たちに姉御の料理が好評だったぞ。」
「え? 鯵のなめろうか?」
「あぁ、それと鯵のたたきも良い反応だったぞ。」
「そうなのか?」
「あぁ、」姉御に教えて貰った料理は何処でも高評価だ。」
「ははは、そうか。」
「姉御?」
「姉御はあの料理をどこで習ったんだ?」
「あぁ、それな。」
「こっちの料理人は、揚げ物の余熱で火を通すことも知らなかった。」
「ははは。」
「姉御?」
「あたいは、別の異世界から転生してきたんだ。」
「はぁ?」俺は驚愕する。
「あたいは地球の日本という国で育ったんだ。」
「ちきゅう、にほん?」俺は棒読みで答える。
「そこの料理方法なのか?」
「あぁ、別の世界の料理方法だ。」
「そうだったのか?」
「ははは、ムサシは覚えが良かったからなぁ、あたいの知ってる料理と調理方を叩きこんだんだ。」
「そうなの?」
「ははは、ムサシは料理に関しては天才だ。」姉御が言う。
「あたいの知っている料理方をどんどん吸収していった。」
「教え方が良かったんだよ。」
「はははそうだと良いな。」
「エリス、その恰好はあれだな。」レニウムが姉御を呼び止める。
「何だい?」
「そこのメイド、エリスにドレスを着せてくれ。」
「畏まりました。」メイドが礼をして姉御をどこかに連れていく。
「レニウム兄はその恰好で良いのか?」俺はレニウムに聞く。
「ムサシ様も同じ格好じゃないか。」
「いや、俺は冒険者だからこの格好が正装だが、王族は違うだろう。」
「ガキーン様謹製の鎧だぞ、良いんじゃないか?」
「まぁ、レニウム兄がそれで良いなら。」
「ふふふ、まるで本当の兄弟みたいですね。」カリナが言う
「義理だが兄弟だからな。」
俺たちは礼拝堂に歩いた。
********
礼拝堂は相当広い空間で、祭壇の前にはミロク神の像があった。
「くふふ、ここの像も歳がいってるね。」
「そうだな。」
「あそこに司祭様がいるから、ちょっと行って来よう。」俺は司祭様の前に行く。
「今回はおめでとうございます。」司祭がにこやかに言う。
「あぁ、ありがとう。」
「どのような?」司祭が言って来るので、俺は右手を差し出す。
「はて?」司祭が怪訝な顔をする。
「俺は神の身代わりだ。」
「はい、存じております。」
「手に触れてみてくれ。」
「はぁ?」納得できないって顔をしながら司祭が俺の手に触れる。
「私はあんなに歳をくっていない!」ミロクが言葉を発する。
「み、み、み、ミロク神様!」司祭がその場で跪く。
「どこの礼拝堂に行ってもあの姿だからな。」俺が補足する。
「はい、解りました。 私がミロク神聖教会に申し付けて、今の御尊顔に修正させます。」司祭がでこを床にこすりつけるように言う。
「今後も励めよ。」
「勿体無いお言葉です!」更に司祭が畏まる。
俺の周りに、他の司祭やシスターたちが集まってくる。
「あの。」一人のシスターが俺に声を掛けてくる。
「何だ?」
「私にもミロク神の御尊顔を拝見させてください。」
「あぁ、良いぞ。」俺は右手を差し出す。
「失礼します。」そう言ってシスターは俺の手に触れる。
「励みなさい。」ミロクがにこやかに言う。
「はぁぁぁ、ミロク神様!」シスターもその場で跪く。
「私もよろしいですか?」司祭が言う。
「私も。」別のシスターも言う。
「あぁ。」俺は両手を差し出す。
「失礼します。」
「私も。」
「お前たちに幸あらんことを。」ミロクがにこやかに言う。
「おぉぉぉ、ミロク神様!」
「ミロク神様!」
「あぁ、神々しいお姿が。」
最近俺のレベルが上がったからなのか、ミロクの神気が戻ったからなのか、俺の手を離した後も暫くはミロクの姿が見えているようだ。
「お待たせ、ってムサシの周りで司祭やシスターが跪いているのはなぜだ?」姉御がドレスに着替えて礼拝堂に来て、俺を見て不思議がっている。
「エリス、ムサシ様は『神の身代わり』様だ。」レニウムが言う。
「何だそれ?」
「エリスもムサシ様の手を触ってくれば良い。」
「はぁ?」姉御は怪訝な顔をしながら俺に近づいてくる。
「おぉ、姉御綺麗だな、見違えたよ。」俺は姉御に言う。
「あぁ、ありがとうな、で? 手に触れば良いのか?」
「あぁ。」
「こうか?」姉御が俺の手に触れる。
「くふふ、婚礼を祝福するよ。」ミロクが言う。
「なぁ! み、み、み、ミロク神?」姉御がわなわなと震えながら後ずさりする。
「くふふ、新鮮な反応だ。」
「俺は神の身代わりだからな。」
「ムサシ様、そろそろ始めませんか?」カリナが俺の横に来て言う。
「そうだな、司祭様、宜しく頼む。」俺は司祭に声を掛ける。
「はっ、そうでした。」司祭ははっとして立ち上がる。
「ムサシ様、ドレスの色は何色がお好きですか?」カリナが言う。
「婚礼をするんだ、最初は白だろう。」
「あなた色に染まれと言う事ですね。」カリナ様がほほ笑む。
「こほん、レニウム王子も此方に。」司祭様が祭壇の前に歩きながら言う。
俺とカリナ、レニウム兄と姉御が祭壇の前まで行く。
ほかの司祭やシスターは祭壇を横に、両脇に並んだ。
その後ろには、国王を始めとした王族や、宰相、高位の貴族たちが座っている。
「ではこれより、婚礼の儀を交わす。」司祭が言う。
その宣言の後、パイプオルガンの荘厳な曲が流れ始める。
「神の身代わり、ムサシ様。」
「はい。」
「貴方は病める時も健やかな時も、隣にいるカリナ様を愛し続けると誓いますか?」
「誓います。」
「カリナ姫様。」
「はい。」
「貴女は病める時も健やかな時も、隣にいるムサシ様を愛し続けると誓いますか?」
「誓います。」
「ミロク神の前に、二人の婚姻が成ったことを宣言します。」
「くふふ、見届けたよ。」ミロクがにこやかに言う。
そしてレニウムと姉御にも同じことを聞く司祭。
二人とも誓い、婚礼の儀は滞りなく終了した。
王族や宰相、貴族たちは別の部屋へと移動する。
俺たちもそれに続いた。
********
その部屋には机の上に料理が所狭しと並べられていた。
「さぁ、今日は目出度い日だ、存分に飲んで、食べてくれ。」アルゴン王が宣言する。
メイドたちが飲み物を配り始める。
立食パーティだ。
「ムサシ様、何か召し上がりになりますか?」カリナが聞いてくる。
ぶっちゃけ、そこに並んでいるのは俺が料理長に教えた料理だ。
しかも、使っている肉は俺が提供したオークの良い所と、ミノタウルスだ。
「そうだな、任せる。」
「解りました。」カリナはいそいそと料理を取りに行った。
俺はメイドからワインを受け取り、壁際まで歩いて行った。
騒動はその時起こった。




