ドレス
俺は森の奥に向かって走った。
闘気をある程度抑えたのでオークが狩れた。
そして、それはそこにいた。
マスターキングモスだ。
しかし、成虫には用はない。
「くふふ、羽と触角は納品対象だよ。」
成虫にも用があった。
『待ってください。』俺の頭に念話が届く。
「うん?」俺は辺りを見渡す。
『話を聞いてください。』また念話が頭に届く。
「まさかと思うけど、お前なのか?」俺は目の前のマスターキングモスに言う。
『あぁ、通じてよかった。』
「お前には話すだけの知性があるって事で良いか?」
『はい、大丈夫です。』
「で、俺に話しかけてきた理由はなんだ?」
『命乞いです。』
「はぁ?」
『私を狩る理由は何ですか?』
「いや、お前の作る繭が目的だ。」
『繭と言う事は、糸ですか?』
「そうなるかな。」
『では、糸を提供するので、見逃してくださいませんか?』
「ほぉ。」
『織物に使える糸を好きなだけ提供します、だから見逃してください。』
「あぁ、そう言う事なら。」
『感謝します。』
「だが。」
『え?』
「貰いっぱなしと言う訳にはいかないな。」
『はぁ?』
「食材を提供すればいいか?」
『え?』
「食べたいものを言ってくれれば、糸の代わりに提供するぞ。」
『見逃してくれればそれで。』
「いやいや、それじゃ俺が納得しない。」
『では、たんぱく質を。』
「あぁ、肉だな。」俺はさっき狩ったオーク肉を5匹分そこに置く。
『あぁ、嬉しい。』
「で、糸はどうやってくれるんだ?」
『その辺の木の枝を持って、私が出す糸を巻き取ってください。』
「おぉ、解った。」俺はそこらに落ちていた木の枝を拾った。
『では出します。』
「おぉ。」
『ふん!』マスターキングモスが尻から糸を出し始める。
「おぉぉ。」俺は慌ててその糸を枝に巻き取り始める。
枝に巻き取った糸が5本ほどになったので、俺はマスターキングモスに終了を伝える。
『お役に立てましたか?』
「あぁ、ありがとうな。」俺はマスターキングモスに礼を言う。
『見逃して下さったお礼です。』
「また必要になったら、来ても良いか?」
『はい、歓迎します。』
「あぁ、その時はよろしくな。」俺はそう言いながら城塞都市に走った。
「くふふ、素材は良いのかい?」
「其れよりも糸の方が圧倒的に良いだろう。」
「くふふ、そうだね。」
俺は再びガキーンの店にやってきた。
「頼もう!」俺は偏屈屋の店先で声を上げる。
「五月蠅いぞ、ってムサシか?」ガキーンが俺を見て言う。
「あぁ、頼みがあってきた。」
「頼み? あぁ、任せておけ、何が頼みだ?」ガキーンが言う。
「これを使って、ドレスを作る職人を紹介してくれ。」俺はマスターキングモスの糸を見せながら言う。
「ま、マスターキングモスの糸だと?」
「あぁ、そうだ。」
「俺にやらせてくれ。」ガキーンが言う。
「え? 第3王女様にドレスを献上しようと思っているんだが。」
「安心しろ、俺は鍛冶以外に縫製も得意だ!」
「そうなのか? ならドレスと、普段使い出来るシャツを2着作ってくれないか?」
「あぁ、任せろ。」
「報酬は?」
「余った糸をくれ。」
「あぁ、良いけど。」
「よし、3日くれ。」
「いや、別にそんなに急いでは。」
「くははは、燃えてきたぜ。」ガキーンが工房に入っていく。
「はぁ。」俺はため息をつきながら、そこにミロクからウイスキーを5本貰って置いた。
*******
ガキーンから組合を通して連絡がきたのは2日後だった。
俺は、ガキーンの店に向かった。
「がははは、やり切ったぜぃ!」ガキーンが良い笑顔で言う。
「おぉ、大丈夫なのか?」俺は焦燥しきったガキーンの顔を見て言う。
「がははは、ムサシのくれたエナジードリンク(ウイスキー)のおかげで乗り切れたぜ。
「あぁ、そうか。」
「がははは、一着目はこれだ。」ガキーンは花嫁衣裳を出してくる。
「何だと。」俺の目で見ても最高級だと解る。
「これをカリナ様が着たら。」俺は卒倒しそうになるのを堪える。
ガキーン謹製花嫁衣裳。
物理攻撃無効、魔法攻撃無効、状態異常無効(毒、麻痺、石化、即死、スロウ、ストップ)
4代属性無効(火、水、風、地)、サイズ自動調整、自動修復、温度調整、使用人限定、色変更
「がははは、どうだ?」
「素晴らしい。」
「がははは、そうだろう。」
「あぁ、本当に。」俺はそれをミロクに持って貰った。
「次に、シャツだ。」ガキーンはそこにシャツをしてくる。
「なん、だと?」俺は驚愕する。
そこに有ったシャツは鑑定しなくてもわかる。
「防御力特化のシャツ。」あえて俺は鑑定する。
ガキーン謹製のシャツ
物理攻撃無効、魔法攻撃無効、状態異常無効(毒、麻痺、石化、即死、スロウ、ストップ)
4代属性無効(火、水、風、地)、サイズ自動調整、自動修復、温度調整、使用人限定、色変更
「がはは、どうだ?」ガキーンが言う。
「あぁ、素晴らしい。」俺はガキーンの肩を持って言う。
「がははは、俺は少し眠る。」ガキーンはそう言って眠る。
「ガキーン、ありがとうな。」俺はガキーンをお姫様抱っこでベットに運んだ。
「BL展開を望んだ奴、一歩前に出ろ、俺が鉄槌を下してやる。」
「リーン。」俺は城塞都市の組合に行ってリーンを呼ぶ。
「まぁ、旦那様、どうされました?」
「あぁ、これを渡しに来た。」俺はガキーンが作ったマスターキングモスの糸で作られたシャツをリーンに渡す。
「え? マスターキングモスのシャツ?」リーンが狼狽える。
「あぁ、ガキーンが作ってくれた。」
「え? ガキーン様が?」
「あぁ?」
「あの、これは組合への納品では?」リーンが俺に聞く。
「いや、俺からリーンへのプレゼントだ。」
「旦那様、このシャツの価値が分かっていますか?」
「いや、たかがシャツだろう?」
「旦那様、マスターキングモスの糸の納品価格は1m3Gです。」
「へぇ。」
「このシャツを作るのに、どれだけの糸が必要か。」
「う~ん、解らないな。」
「旦那様、このシャツの価値が分かりますか?」
「さあ?」
「しかも、ガキーン様の縫製品。」
「あぁ。」
「このシャツだけで、70000Gです。」
「おぉ、リーンにぴったりだな。」
「なぁ。」リーンが顔を真っ赤にする。
「もぅ、旦那様は狡いです。」リーンがもじもじし乍ら言う。
「あぁ、そこについている魔石に口づけしてくれ。」
「?」
「こうですか?」リーンが魔石に口づけする。」
「シャツが一瞬輝いた。」
「それで、そのシャツはリーン以外は着れないらしい。」
「そうなのですか?」
「あぁ、ガキーンから直接聞いた訳じゃないが、多分そうだろう。」
「いつでも私を床に呼んでくださいませ。」リーンが赤い顔のまま言う。
「あぁ、解った。」俺は何も解からずに言う。
俺は王城に向かった。
「カリナ姫に面会したい。」俺は門番に言う。
「え? 国王様ではなく。カリナ姫様ですか?」門番が俺に問う。
「あぁ。」
「はい。承りました。」門番が走っていく。
「さて、一体どうなるのやら。」俺は門番の後を追った。
「ははは、俺ではなく、カリナに用事だと?」アルゴンが良い顔で言う。
「あぁ、今回はカリナ様への面会だ。」
「まぁ、ムサシ様、私にどのような?」
「贈り物を持ってきました。」




