緊急案件の依頼
「ムサシ様、組合より緊急案件の依頼が来ています。」カロリーヌさんが俺に言う。
「緊急案件?」
「はい、なんでも肉ダンジョンの11階層で討伐していたパーティーと連絡が取れなくなったそうです。」
「はぁ? たかが11階層でですか?」俺はカロリーヌさんに言う。
「ムサシ様なら楽勝かもしれませんが、ほかのパーティーでは無理な場所です。」
「はぁ、遭難しているのは?」
「何でも、ダンジョン前で勧誘をしている冒険者らしいです。」
脳裏に、ダンジョン前で声を掛けてきた冒険者の姿が浮かんだ。
「あいつらか。」
「はぁ、まぁ行ってみるだけ行ってみますか。」俺はため息をつきながら立ち上がった。
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「緊急案件を処理しに来た。」俺はダンジョン前の組合に入って、受付に言った。
「ムサシ様ですね、お待ちしていました。」
「冒険者が11階層で連絡が取れなくなったと聞きましたが?」
「はい、そうです。」
「誰かからの依頼ですか?」
「いえ、違います。」
「冒険者は自己責任じゃないんですか?」
「はい、ですから依頼は、同行したポーターの救出です。」
「ポーター?」
「ムサシ様もご存じの、『ルチア』と『アデル』です。」
「あぁ、あの二人か、それなら受けるぞ。」
「ありがとうございます、彼女たちならきっと11階層の安全地帯にいるはずです。」
「そうか、では早速行ってくる。」そう言いながら俺は組合を出てダンジョンに潜った。
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「くそぉ、へましちまった。」
「今更だ、ルチア。」
「奴らの口車に乗ったのが失敗だった。」
「その通りだな、ルチア。」
「まさか奴らが、オークロードにケンカを売るとは思わなかった。」
「あぁ、しかも一瞬でやられるとか無いわ。」
「とりあえず、荷物を捨ててここまでたどり着いたけど。」
「あぁ、助けが来れば良いなぁ。」
「諦めたらそこで終わりだ、気をしっかり持てアデル。」
「そうだな。」
「しかし、携帯食料まで捨てたのは失敗だった。」
「あぁ、もう2日も何も食わずだからな。」
「だが、安全地帯に湧水があって良かったな、アデル。」
「水があれば、一週間ぐらいは何とかなるからな。」
「あぁ。」
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「ダンジョンが変わっているな。」俺は闘気を全開にしてダンジョンを潜っている。
「くふふ、前回と違って3階層以降が迷路化しているね。」
「あぁ、厄介だ。」そう言いながら闘気を無視して襲い掛かってきたオークを一刀両断にする。
「おかしい、俺の闘気が通用していない?」
「くふふ、闘気耐性のあるモンスターが何匹かいるね。」
「本当に厄介だ!」
「くふふ、君が前回最下層まで行ったから、ダンジョンが変わったんだよ。」
「マジか、俺のせい?」
「くふふ。」
倒したオークはもちろん解体した。
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「前回は1時間も掛からずに10階層まで行けたのに、1時間でまだ5階層か。」
「くふふ、迷路と解体に時間を取られているからね。」
「お肉が勿体ないじゃないか、あと魔石も。」
「くふふ、そうだね。」
「さぁ、がんがん行くぞ!」俺はダンジョンを進んだ。
「8階層なのに、オークロードが居やがる。」言葉とは裏腹に俺の口角が上がる。
「ははは、良い展開だ。」俺はオークロードを狩って解体する。
「くふふ、本来の目的を忘れていないよね。」
「えっ? ・・・も、勿論だ。」
「くふふ、忘れていたね。」
「・・・何のことやら?」
「くふふ。」
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「何だよ、今までと違うじゃないか。」斥侯の男が泣き言をいう
「泣き言を言うな、その暇があったら戦え!」戦士の男が斥候に声を掛ける。
「MPがもう無い!」魔術師の女が言う。
「MPポーションはあと2本しかないよ」僧侶の女が言う。
「ぐもぉぉぉぉ!」ミノタウルスが吠える。
「くそぉ、俺が食い止めるから、その間に逃げろ!」タンクの男が叫ぶ。
ミノタウルスは右手に持った棍棒を振り下ろした。
「ぐおぉぉぉ!」タンクの男が受け止める。
「せめて一太刀!」戦士の男がミノタウルスに切りかかる。
「よせ、逃げろ!」タンクの男が叫ぶ。
「ぐもぉぉぉぉ!」ミノタウルスは戦士の男を左手で払った。
「ぐはぁぁぁ!」戦士の男は叫びながら俺に向かって飛んできた。
「よっと!」俺はその男を受け止めた。
「よぉ、苦労しているみたいだな? 助けはいるか?」俺はタンクの男に聞く。
「あぁ、頼みたい、報酬は弾む。」タンクの男が言う。
「よし、言質取ったぞ。」俺はそう言うと天叢雲剣でミノタウルスの首を落とす。
「な! 一瞬で?」タンクの男が言う。
「報酬はこれ(ミノタウルス)で良いぞ。」俺はそう言うと、ミノタウルスを解体する。
「なぁ、見事な。」
「凄い、こんなに早く。」
「あぁ、魔石と内臓は貰うけど、皮とお肉はやるよ。」俺はにこやかに言う。
「え?」タンクの男が呆ける。
いや、そこにいた全員が呆けた。
「良いのか?」タンクの男が言う。
「あぁ、間に合っているからな、んじゃ俺は行くぞ。」俺はダンジョンを進もうとする。
「待ってくれ!」タンクの男が俺に声を掛けた。
「ん~?」俺は振り向く。
「俺たちをダンジョンから連れ出してくれないか?」
「いや、そのまま帰ればいいじゃないか。」
「俺たちの力量じゃ無理なことが分かった。」タンクの男が言う。
「あ~、でも俺は緊急案件の依頼の途中だから、無理だな。」
「そう言わずに頼む、この通りだ。」タンクの男以外全員がその場で俺に頭を下げる。
「くふふ、助けてやれば良いじゃないか。」
「はぁ、んじゃ着いてこい、俺の依頼が終わったらダンジョンの外まで連れて行ってやる。」
「おぉ、頼む、俺はこのチームのリーダーのタンク、タンクローだ。」タンクの男が言う。
「あぁ、俺はムサシだ、さっさと行くぞ。」俺はダンジョンを進む。
「どこまで行くんだ?」タンクローが聞いてくる。
「11階層だ。」俺は答える。
「なぁ、俺たちでは無理だ。」タンクローが言う。
「俺に着いてくれば大丈夫だ。」俺はそう言いながら先に進んだ。
「俺たち死んだ?」戦士の男が魔術師の女に聞く。
「知らない。」魔術師の女はぞんざいに答える。
「少なくともソロでここまで来ている事態が異常ですね。」僧侶の女が失礼なことを言う。
「着いていくしかないですね。」斥候の男が言う。
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「マジですか?」タンクローが言う。
「何がだ?」俺は聞き返す。
「ここまでに、オークロード20匹、ミノタウルス15匹を瞬殺って。」
「あぁ、ただの作業だな。」俺はそう言いながらミノタウルスを解体してミロクに渡す。
「さて、あと1階層だな。」俺は躊躇なく11階層への階段を下る。
「待ってください。」そう言いながらタンクロー以下メンバーが俺に続いた。
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「ん?」俺はそれに気づく。
そこにはギルドカードが落ちていた。
ダンジョンで死んだら、肉体や装備はダンジョンに吸われる。
だが、ギルドカードだけはそこに残る。
俺はそのギルドカードを拾った。
「オークロードに喧嘩を売ったのか? 馬鹿なのか?」俺はカードの情報を読み取って言う。
「なぁ、ギルドカードの情報が分かるのか?」タンクローが言う。
「あぁ、普通だろ。」俺はそれをミロクに渡す。
「マジかぁ。」
「安全地帯はもう少し先か。」俺はそこに向かった。
「ぐもぉぉぉぉ!」マスターミノタウルスが襲い掛かってきた。
「なぁ、マスターミノタウルスだと?」タンクローが言う。
「あぁ、終わった。」魔術師の女が言う。
「あたしの人生ここまでかぁ。」僧侶の女が言う。
「わははは、お肉だ!」俺はマスターミノタウルスに飛び掛かって一瞬で首を跳ねた。
「お肉、お肉~。」俺はマスターミノタウルスを解体してお肉と内臓、魔石と皮をミロクに持ってもらった。
「くふふ、前回は皮を見逃したからね。」
「あぁ、今考えると勿体無かったが、終わった事は仕方が無い。」
「くふふ。」
「何者なんだ、ムサシ、様。」タンクローが俺に聞いてくる。
「俺か? ただの神の身代わりだ。」
「神の身代わり?」
「あぁ、俺がそうだ。」俺は組合のカードを見せる。
「おわぁ!」タンクローが叫ぶ。
「伝説の?」
「お伽噺の?」魔術師の女や僧侶の女が言う。
「ははは、俺たちは凄い人に助けられたんだな。」斥候の男が言う。
「良いから進むぞ。」俺は安全地帯に向かって歩を進めた。
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「やばい、安全地帯の効力が消えそうだ。」
「落ち着け、ルチア、まだあと数時間は持つ。」
「しかし、その後はどうするんだ?」
「なるようにしかならない、ここで終わればそれだけだったと言う事だ。」
「アデル、お前達観しているな。」
「性分だ。」
「はぁ。」
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「ぐもぉぉぉぉ!」ミノタウルスの叫びが聞こえる。
「ひっ!」
「落ち着けルチア。」
「だって。」
「どうにもならない。」
「はぁ、本当に達観してるなアデル。」
「褒めても何も出ないぞ。」
「褒めてない。」
「ぐもぉぉぉぉ!」ミノタウルスが安全地帯に入ってきた。
「もうだめだ。」そう思った時。
「ぐぎゃぁぁあぁ!」ミノタウルスの断末魔が響いた。
「え?」ルチアがそこを見る。
「おぉ、お前ら無事か?」俺は二人に声を掛ける。
「ムサシ様?」
「旦那?」
「あぁ、俺はムサシだ。」俺は二人に応える。
「あぁ、助かった。」そう思った瞬間にルチアは身体の力が抜けた。
「ちょ、ルチア。」アデルがルチアを抱きかかえた。




