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野生のバハロー

 俺はそれを前にして考えていた。


「どうしました、ムサシ様。」料理長が聞いてくる。


「あぁ、料理長、野生のバハローのモツなんだがな。」

「はぁ?」


「煮込んでも、細菌が消えないんだ。」

「何と?」


「自分たちで食べるには、とある魔法を唱えればいいんだが。」

「何か問題でも?」


「その魔法が唱えられないものは食べられないだろ。」

「その通りですな。」


「これは秘匿するべきかな?」

「そうした方が宜しいでしょうな。」


「だよなぁ。」

「で、私たちは食べられるのですね?」


「何だよその嬉しそうな顔は!」

「ムサシ様に仕える者の役得ですな。」


「はぁ、俺がいなくなったら真っ先に死ぬのは料理長だな。」俺はため息をつきながら言う。

「ははは、まさかぁ。」料理長が言う。


「ははは、そうだと良いなぁ。」俺はそう言いながら野生のバハローのモツに(天魔法・サニタイズ《除菌と消毒の魔法》)を唱える。




 俺はそのモツを鑑定する。

 野生のバハローの内臓、細菌、バクテリア、病原菌無し。


「よし。」俺はガッツポーズをする。


「おぉ、流石はムサシ様です。」料理長がモツを取ろうとしたので俺はそれを阻止してミロクに持ってもらった。


「え? ムサシ様?」


「やっぱり、俺しか出来ない事を広めるのはアウトだよな。」俺はそう言いながら城塞都市の家に行った。


「くふふ、酷い事を。」

「知らない。」


********


「リーン。」俺は組合に行くとリーンに声を掛けた。

「まぁ、旦那様、お会いできて嬉しいです。」リーンがカウンター越しに俺の頭を抱いてキスをしてくる。


「ぐぬぬ、毎回見せつけやがって。」

「畜生、捥げれば良いのに。」

「相変わらず、男たちのやっかみが酷いな。」

「いえいえ、旦那様微々たることです。」リーンがにこやかに言う。


「はぁ。」俺はため息をついた。


「で、今回はどのような?」リーンが聞いてくる。

「あぁ、野生のバハローを狩ったからな。」俺は言う。


「はぁ、野生のバハローですか? それは組合では納品頂けませんが。」リーンが言う。


「知ってるよ、でも食ったら美味かったからリーンに食わせようと思って持ってきた。」

「まぁ、旦那様、嬉しいです。」リーンがくねくねして言う。


「?」


「野生のバハロー? そんなものを納品しようとする奴がいるのか?」組合にいたメンバーが言う。

「あんな物納品しても、二束三文だろう。」


「ははは、食った事の無い奴の言葉だな。」俺はそこに野生のバハローのロース肉を取り出す。(ミロクから貰った)


「何だあれは、肉屋で売っているバハローとは全然違うぞ。」

「あぁ、サシの入り具合が絶妙だ。」

「肉屋で売っているバハローは、脂だらけだからな。」組合のメンバーが騒ぎ出す。


「くふふ、野生のバハローは運動量が違うからね。」


「さぁ、リーン、調理場を貸してくれ。」

「はい、旦那様!」


 調理場に移動した俺はミロクから俺特製焼肉のたれを貰い、ロース肉を薄く切ってそれに漬け込んだ。


「んで、フライパンの用意だ。」俺はミロクからフライパンを受け取り、野生のバハローの脂身を入れて火にかける。


「じゅわ~。」脂身が溶けていい匂いがあたりに広がった。


「おぉ、相変わらず良い匂いだな。」俺は焼肉のたれに漬け込んだバハローのお肉をフライパンに並べる。


「じゅわわぁ~。」さらに暴力的な匂いが広がる。


「焼き過ぎると美味くないからな。」俺はそう言いながら赤みが残る肉を箸でミロクの口の前に持っていく。

「パクリ。」

「ふわぁ。」ミロクが幸せそうに沈んだ。


「ほれ、リーンも食え。」俺は焼けた肉を皿に移してリーンの前に置いた。

 リーンはフォークで肉を刺して口に入れた。


「はわあぁ。」リーンが腰砕けになったので、俺はそれを受け止めた。

「ありがとうございます、旦那様。」


「そして、これだろう。」俺は溶けているミロクからよく冷えたラガーを貰ってリーンの前に置く。


「ごく、ごく、ごく、ぷはぁ~。」リーンがラガーをあおって天を向く。


「最高です!」リーンがそう言って肉を食い進める。

「そうだろう、そうだろう。」俺はバハロー肉を焼き続ける。


「なぁ、俺たちにも食わせてくれないか?」組合のメンバーが言ってくる。


「はぁ?」俺はゴミを見る目でそいつを見る。

「俺が野生のバハローを持って来たと言ったとき、どんな反応をしたか覚えているのか?」


「すまなかった、謝る、俺の認識不足だった。」

「あぁ、昔の常識に騙されていた。」

「勿論ただでとは言わない、相応の対価を払う。」組合のメンバーが言う。


「其れなら文句は無い、俺が焼いてやるから、焼けた肉をこのたれに漬けて食って良いぞ。」俺は小皿に俺特製の焼き肉のたれを入れて、そいつらの前に置いた。


「じゅわ~。」俺は肉を焼き続けた。


********


「何の騒ぎだ?」2階から組合長らしき男が降りてきた。


「組合長、俺たちの認識は間違っていました。」

「えぇ、まさか野生のバハローがこんなに美味いとは。」

「ぜひ、納品対象にする案件です。」組合のメンバーが口々に言う。


「何だと?」組合長と呼ばれた男は、俺の横で肉をがっつき、ラガーをあおっているリーンを見。

 その横で、せっせと肉を焼いている俺を見て口を開く。


「リーンが言っていた『ムサシ』という男は君か?」組合長が言ってくる。

「はぁ、確かに俺がムサシです。」俺は組合長に答える。


「がはははは、お前がリーンを落としたムサシか、俺はここの組合長をやっている『オヤハ・キザヤミ』だ、よろしく頼む。」そう言いながら組合長が手を出してくる。


「はぁ、ムサシです。」俺はその手を握りながら言う。

「あぁ、聞いているぞ、レッサードラゴンや、ワイバーン、フェンリルまで納品してくれたそうじゃないか。」


「はぁ。」

「そして、今度は今まで対象外だった納品を改めるのか?」

「いや、俺はそんなに大した事はしてないです。」俺は肉を焼き続けながら言う。


「がははははは、気に入ったぞムサシ、俺の娘に等しいリーンを娶るんだ、もはや俺の息子と言っても過言じゃない。」オヤハが俺の肩を叩きながら言う。


「肉が焼けないから、肩を叩くのは止めろ。いや、止めて下さい。」俺はオヤハに言う。

「がははははは、敬語は使わなくて良い、俺の息子も同然だからな。」


「はぁ、まぁ、どうぞ。」俺は焼肉のたれを小皿に入れてオヤハの前に置く。

「がははははは、どれ?」オヤハはそう言って俺が焼いた肉を小皿のたれに漬けて口に入れた。


「なんじゃこりゃ~。」オヤハが吠えた。

「んで、これですよね。」俺はミロクからラガーを貰ってオヤハの前に置いた。


「ごく、ごく、ごく、ぷはぁ~。」リーンと全く同じ様に、オヤハも天を仰ぐ。


「な。」

「な?」


「何で、こんなに美味い肉の納品を拒んでいたんだ?」オヤハが吠える。

「先代の組合長からの申し送りです。」組合のメンバーが言う。


「すぐに撤廃しろ、そして市政に野生のバハローの肉の美味さを周知しろ。」オヤハが言う。

「はい、畏まりました。」肉を食っていた組合のメンバーが動き出す。


「リーン、大丈夫か?」俺は呆けているリーンに聞く。

「らいじょうぶれふ。」リーンが言う。

「うん、駄目だな。」俺はリーンをミロクに持ってもらう。


「組合長。」

「ムサシ、俺のことは義父さんと呼べ。」オヤハが言う。

「だが断る、組合長、リーンはこのまま連れ帰る。」俺はオヤハの言葉を無視して言う。


「うぬぅ、連れ帰って良いぞ、今回の報酬は組合のカードに振り込んでおく、期待して良いぞ。」


「あぁ、解った、ではな。」俺は組合を出て城下町の自宅に帰った。


「ただいま。」俺は門を入って言う。

「おかえりなさい。」家付き精霊のシーナが俺を出迎えてくれた。


「うん? 焼肉の匂い?」シーナが俺をクンクンしながら言う。

「あぁ、野生のバハローのお肉祭りをやってきた。」


「へぇ、それっておいしいの?」

「美味かったぞ、シーナも食べるか?」


「食べられるのかな?」

「え?」


「今までそんなものを食べたことが無かったから。」

「あぁ。」


「くふふ、シルキーは上位精霊だからね、『献上』と言って渡せば食べられるんじゃない。

「マジか?」

「くふふ、さぁ?」


 俺はさっき焼いた肉の余りをそこに出し、俺特製の焼き肉のたれを小皿に入れてその隣に置いた。


「シーナに献上。」俺は呟く。


「ふわぁ、良い匂い。」シーナが、俺が出した皿の上の肉を指でつまんで、小皿のたれに漬けて口に入れる。


「美味しい。」シーナは無事に肉を食べられた。


 因みに、ラガーも献上したら、お代わりまで要求された。

 酒飲みのシルキーって何だろう。



********


 で、俺はバハローのモツを煮込んでいる。


 火を通しても、菌が無くならない物だが、魔法で除菌が出来ることは確認した。


いつも通り。ネギの青いところ、生姜、砂糖、酒を入れた鍋でぐつぐつと煮込んでいる。


「ワイバーンのモツみたいに、臭くなければ良いなぁ。」俺はそう言いながらモツの状態を見る。


「ふむ、オークとは違うが、ミノタウルスとは似た様なものだな。」俺は煮込みながら思う。


「ミノタウルスのモツでは脂が強すぎたが、野生のバハローのモツなら鍋で食えるんじゃないか?」俺は煮込んでいたものを鍋に変更した。


「白菜、もやし、ニラ、豆腐、ゴボウ、糸こんにゃく、スープは俺特製のだしの素の袋に、大蒜と生姜を摩り下ろしたもの、それに醬油と味醂で味付けして、味が足りなければ俺特製ポン酢で食べる。」


組合から帰って来たリーンさんとシーナに其れを出した。


「シーナに献上。」

「わーい。」シーナはもつ鍋を食べ始める。


「旦那様。」

「何だ、リーン?」


「この状況は何でしょう?」リーンが震えながら言う。

「何が?」


「シルキーが物を食べるなんて、あ~、もう良いです、旦那様は規格外、規格外。」

「ははは、規格外って言われた。」

「くふふ、ムサシだからねぇ。」


「はぁ。」

「そんな事は良いから、私にももつ鍋を食べさせろ。」ミロクが俺に言う。


「はぁ。」再びため息をついた俺は、もつ鍋の中身を受け皿に取ってミロクに食べさせた。


「これって、奴隷扱いじゃん。」

「くふふ、そんな事は無いよ、次は白菜とにらを食べさせろ。」

「はぁ。」俺は盛大にため息をついた。


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