バハロー
俺は王都から10km程離れた森に来ている。
何故? って、この森にいる食材を狩りに来たんだ。
「本当にこの森にいるのか?」俺はミロクに聞く。
「くふふ、いるよ。」
「何がいるんだ?」
「くふふ、野生のバハローだよ。」
「バハロー?」
「うん。」
「普通に肉屋で買えるじゃん。」
「くふふ、野生のバハローは肉屋で買えるバハローとは違うんだよ。」
「まじか。」
「くふふ、まじ!」
「養殖のバハローとは肉質も脂も違うよ。」
「じゅるり。」俺は涎をすする。
ミロクが美味いと言う物はマジで美味い。
「よ~し、気合い入れるか。」俺は闘気を抑えた。
「くふふ、さぁ、進むよ。」
「おう。」
途中、金鶏やランナー鳥を狩りながら俺たちは森を進んだ。
「くふふ、群れを見つけたよ。」ミロクが小声で言う。
「おぉ。」俺は闘気をさらに抑えた。
「くふふ、12頭もいるよ。」
「どうやって狩るか?」
「くふふ、そのまま闘気を抑えて後ろから風魔法のウインドカッターで首を落としちゃえ。」
「え? 風魔法? ウインドカッター?」
「くふふ、君なら使えるよ、多分。」
「まじか。」俺はミロクを信じてウインドカッターの魔法を唱える。
「ウインドカッター!」俺は魔法を発動した。
そこにいたバハローは自分の死を気付かずに全滅した。
「マジで出来た。」俺は驚愕して言う。
「くふふ、君ならできると信じていたよ。」ミロクがニヤニヤしながら言う。
「なんかイラつく顔だな。」俺はミロクに向かって言う。
「くふふ、何のことやら。」ミロクが白を切る。
「バハローは、舌と、お肉だよな。」俺はそう言いながらバハローをミロクに渡す。
「くふふ、そうだよ。」
「聞いた話じゃ、バハローはいろいろな部位があるって事だよな。」
「くふふ、そうだね。」
「んじゃ、全部持ってくれ。」俺はミロクに言う。
「くふふ、任されたよ。」そこに有ったバハローが消える。
「さぁ、次だよ。」ミロクがにこやかに言う。
「まだ狩るの?」
「当然だよ。」
「はぁ。」俺はため息をついた。
結局、バハローを65匹、金鶏やランナー鳥を数百匹狩って王都に帰った。
「これは納品できないんだろ。」
「くふふ、自分たちの嗜好用だよ。」
「おぉ、解る奴には解るという奴か。」
「くふふ、そうだよ。」
「あぁ、じゃぁ、まず自分で食ってみるか。」俺はそう言いながら王都の家に帰った。
「お帰りなさい、ムサシ様。」カロリーヌさんが出迎えてくれる。
「ただいま。」俺はそう言いながら台所に向かった。
「おや、お帰りなさいませ、ムサシ様。」料理長と料理人たちが口々に言ってくる。
「あぁ、ただいま、少し調理場を使わせてくれないか。」
「おぉ、どうぞ、どうぞ、お好きなように。」料理長が言う。
「おぉ、ありがとう。」俺はそう言って、調理台に向かった。
「くふふ、まず血抜きをしたほうが良いかもね。」
「あぁ、そうだな。」俺はそう言うと、大きな流しに行ってそれをミロクから貰った。
俺が出した物を見て料理長が反応する。
「む、ムサシ様、それは?」
「ん? 野生のバハローだ。」俺はそう言いながら首の無いバハローを逆さ吊りにする。
「なんと。」料理長が驚愕する。
「ん? どうしたんだ?」俺は挙動不審になった料理長に聞く。
「ムサシ様、ぜひご相伴に。」料理長が縋ってくる。
「やめろ、気持ち悪い、食いたきゃ食わせてやるから離れろ。」俺は料理長を引っ剥がす。
「おぉ、ありがたい。」料理長が気持ち悪い。
俺は血が抜けるまで、包丁を研いで待った。
料理長も俺の横で包丁を研いでいる、不気味だ。
暫くすると血抜きが終わり、俺はバハローを吊るしたまま皮を剝く。
「おぉ、ムサシ様、見事です。」料理長が言う。
「俺の皮剥きなど児戯に等しい、姉御やギルドメンバーは俺以上に上手かった。」
「なんと、そうなのですか、でも、ムサシ様のそれも私にとっては手本になるものです。」料理長が言う。
「ははは、こんな児戯でよければ真似してくれ。」俺は料理長に言う。
「なんと、奥ゆかしい。」
バハローの血抜きが終わったから、各お肉の部位に分けていく。
料理長が俺の技を見ている。
「俺の技は我流だぞ。」俺は料理長に言う。
「ははは、ムサシ様、ムサシ様の技量はマスタークラスです。」料理長が言う
「そうなの?」
「はははは、奥ゆかしい。」
俺はバハローのお肉を部位ごとに切り分ける事にした。
「肉はいろいろ分けるみたいだが、俺は知らないから適当に分けるか。」俺は肉質を見ながら分けようとして、鑑定すれば良いことに気づく。
「あぁ、鑑定。」俺はお肉を鑑定した。
「ふむ、ネック、肩、肩ロース、トンビ、ミスジ、リブロース、サーロイン、ヒレ、バラ、うちもも、しんたま、そともも、ランプ、イチボ、すね・・・、ずいぶん種類があるんだな。」
「とりあえずサーロインを味見してみるか。」俺はフライパンをミロクから貰い、薄切りにしたサーロインを脂身で焼いてしょうゆをひとたらしする。
「で、箸で切ってほれ。」ミロクの口にそれを持っていく。
「パクリ。」
「ふわぁ。」ミロクが溶ける。
「そんなにか? どれ。」俺もその肉を口に入れる。
「おぉぉ。」口の中が幸せだ。
「ムサシ様、私たちにも。」料理長以下料理人が詰め寄ってくる。
「あぁ、この塊をやるから好きに食え。」俺は料理長の前に塊肉を置いた。
「おぉ、ありがとうございます。」料理長はそう言うと肉を切り分け始めた。
肉を焼いた匂いにつられ、カロリーヌさんを始めとしたメイドたちも集まってきて焼肉パーティーが始まった。
俺はふと思い立って、王城に向かった。
「国王に取り次いでくれ。」俺は門番に言う。
「どうぞお通りください。」門番は俺をすんなりと通した。
門を通り過ぎ、王城の入り口に行くとどうやって連絡をしたのか執事が待っていた。
「お待ちしておりました、どうぞこちらに。」執事が俺を案内する。
「アルゴン、来たぞ。」
「おぉ、ムサシよく来たな。」まるで友達のように会話をする。
「料理長を呼んでくれないか?」俺は横にいた執事に言う。
「畏まりました。」執事は礼をして部屋から出て行った。
「今日はどうしたんだ、ムサシ。」
「あぁ、野生のバハローを狩ったから、必要かどうか聞きに来た。」
「野生のバハロー?」
「あぁ、ちょっと食ってみたが、美味かったぞ。」
「む、ムサシ様、お話が聞こえました、野性のバハローですと。」息を切らせた料理長が入ってくる。
「おや、料理長悪かったな急がせて。」
「いえいえ、それよりも野生のバハローでしたら、是非納品してください。」
「どんだけいる?」
「3、いえ出来れば5頭ほど。」
「ほんじゃ出すから、受け取って。」俺はミロクからそれを貰ってそこに出す。
「はい、解りました。」料理長はマジックバックに其れを入れていく。
「う~む、儂つまはじきにされていないか?」国王がぶうたれる。
「陛下、今日の晩御飯は期待してください。」料理長がアルゴンに胸を張る。
「うむ、それは楽しみだ。」
「それじゃ、用が済んだから帰るな。」
「いつでも来てくれ。」アルゴンが俺に声をかけるのを聞きながら王城を後にした。




