火の精
俺は王城の料理長に圧力鍋を渡すため王城に来た。
「国王に面会を頼む。」
俺は門番に言う。
「はい。申しつかわりました。」そう言いながら、門番は俺を案内する。
「あぁ、料理長と、その部下も呼んでくれ。」俺は門番に言う。
「はい、解りました。」門番が答える。
俺は、門番から受け継いだ執事の後に続く。
謁見室に行くと、国王と料理人、そして何故かセレン王妃とレニウム王子、カリナ王女がそこにいた。
「こいつら、どんだけ食い意地が張っているんだ。」俺は思ったが無視した。
「わはは、ムサシ、今回は何を持ってきた?」国王が言う。
「あぁ、圧力鍋だ。」俺は答えた。
「圧力鍋?」国王が言う。
「あぁ、食材に圧力をかけて、料理の時間を短縮する鍋だ。」俺は言う。
「ほぉ。」料理長だけが反応した。
他の人間は無反応だ。
「今から実演しますね。」俺は処理済みの鰯をミロクから貰い、圧力釜に入れた。
そして、水300cc、生姜薄切り半個分、醤油大匙5、酒大匙5、砂糖大匙3,酢を大匙2入れて、ふたをしてスイッチを入れた。
更に、オークの良いお肉のバラに近いところを処理したものもミロクから受け取って、圧力鍋に入れた。
そして、圧力鍋に生姜の薄切り半個分、水500cc、醤油大匙5、酒大匙4、砂糖大匙3を入れてふたをしてスイッチを入れた。
圧力釜が起動する。
「出来上がるのに30分ほどかかるからな、これを食べて待っていてくれ。」俺はミロクから鰯の刺身と鯵の刺身の盛り合わせを貰ってそこに置く。
醤油と山葵もそこにミロクから貰って置いた。
「おぉ、また生の魚なのですか?」国王が食いつく。
「あぁ、山葵醤油で食ってくれ。」俺は其れをそこに出して言う。
「解りました。」国王が潔い。
暫くすると圧力鍋が沸騰し始める。
鍋の圧力便から蒸気が噴き出し、弁が踊り始める。
「おぉ、沸騰したのか?」国王が言う。
「あぁ、そうだ。」俺は言う。
「このまま20分待つ。」
「20分過ぎたから、鍋のスイッチを切る。」俺はスイッチを切った。
「蒸気がもれている間はふたを開けないようにな、開けたら火傷するぞ。」俺はふたを開けようとしている料理長に言う。
「ひえ!」料理長は慌てて手を離した。
暫く待っていると、蒸気が出なくなったので俺はふたを開ける。
「ふん、良い出来だな。」俺は鍋の中を見ながら言う。
俺は小皿をミロクから貰い、その皿に鍋の中身を乗せる。
そして、国王と料理長の前に小皿を置いた。
「鰯の煮ものだ、骨まで食べられるからな。」
「何と?」料理長は驚愕しながら鰯を口に入れた。
「まさか、ものの30分でこれ程とは。」料理長がわなわなと震える。
国王も鰯を食べて目を見開いた。
「凄い物だな。」国王がぼそりと言う。
「こちらも食べてみてくれ。」俺はもう一つの鍋からオークの角煮を取り出して皿に乗せて先程と同じように国王と料理長の前に置く。
「おぉ、肉がほろりと崩れた。」国王が角煮を口に入れて呟く。
「これは、数時間煮込んで作る柔らかさです。」料理長も角煮を食べて言う。
「私たちはお預けですか?」カリナ様が恨めしそうに言う。
「悪い、配ってやってくれ。」俺はそこにいたメイドに配膳を頼んだ。
「承知しました。」メイドさんたちが、皆に配膳してくれる。
「ムサシ様、このような鍋を一体どこで?」料理長が聞いて来る。
「あぁ、ガキーンに頼んで作って貰った。」
「何と、ガキーン様が。」料理長が何かを考え始めた。
「今使った物と、あと4台は置いていくからな。」俺は料理長に言う。
「何と、ガキーン様が作られたものなら、5G、いえ10Gはすると思いますが、宜しいのですか?」料理長が聞いて来る。
「使える人が使えばいいんだ。」俺はそう言って、ミロクから圧力鍋を貰ってそこに置く。
「いつもすまないな、ムサシ。」国王が言って来るが、俺は手を振って
「気にするな。」と言った。
「では、用事が済んだから帰るな。」俺はそう言って王城を後にした。
そして王都の家で、料理長やカロリーヌさん、その他メイド達の前で同じ事を実行し、圧力鍋を二つ料理長に渡した。
最後に城塞都市の家でリーンとシーナを前にして、再度同じ事をした。
ここにも圧力鍋を二つ置いた。
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次の日、俺は王都の東門を出て、煙を出している山に向かって走っていた。
「くふふ、何で街道を走らないで、すぐそばを走っているんだい?」ミロクが俺に聞いて来る。
「何でって、このスピードで街道を走っていたら、馬車や歩いている人が邪魔になるじゃないか。」俺は答える。
今のスピードは、時速120kmに達している。
流石にこのスピードで走ると空気の抵抗が凄いので、風魔法を駆使して目の前を流線型のドームにしている。
今回は日帰りをしようと思っているから、闘気は全開だ。
「くふふ、見えてきたね。」ミロクが前を見て言う。
「かれこれ3時間は走っているからな。」
更に30分走ると、山の麓に着いた。
「ふぅ、やっと麓か。」俺はミロクから貰った水を飲みながら言う。
「よし、登るか。」俺は其の山の頂上を目指して歩き始めた。
登りながら、料理長が作ってくれた弁当のおにぎりを食べる。
「うん、美味い。」そう言いながら3個のおにぎりを食べると、また走り始める。
「この山、何メートルあるんだ?」俺は疑問に思う。
「くふふ、3000mと少し。」ミロクが言う。
「まじかぁ。」俺はそうぼやき乍らもスピードは緩めない。
1時間で頂上の火口に着いた。
「くはぁ、厳しかった。」俺は額の汗を手で拭いながら言う。
「おや、噴石除けが作ってある、人が登るんだな。」俺は其れを見ながら言う。
「火口近くで採掘できる、火炎石を取りに来るんだって。」
「火炎石?」
「運ぶのに注意が必要だけど、組合でkgあたり600Bで買ってくれるらしいよ。」
「ふ~ん、何に使うんだろう?」
「魔法剣の材料になるんだってさ。」
「ふ~ん。」
「で、ここには何がいるんだ?」俺はミロクに聞く。
「くふふ、火の精だよ。」ミロクがドヤ顔で言う。
「はぁ? なんだそのドヤ顔。」
「くふふ、精霊にも私の神気の良さがわかるんだね。」
「言ってろ、で、何処にいるんだ?」
「くふふ、あの辺。」ミロクが火口の一か所を指さす。
そこは溶岩がぐつぐつと泡を出しているところで、とても暑い。
「話は通じるのかな?」俺は火口に近づきながら言う。
「どうだろうね。」
「$$$$$。」何かが聞こえた。
「は? 何だろう。」
「くふふ、火の精が話しかけているんだよ。」
「はぁ? 解んないよ。」
「$$$$$$$。」
「だから解んない。」
「くふふ、火の精のレベルが低いのかな?」
「う~ん。」と考えていたら火の精がいきなり攻撃してきた。
攻撃と言っても、直径2cm程の火の玉を飛ばしてきただけだが。
「てい!」俺は其の火の玉を手で払い、お返しとばかりに水魔法で水球を投げつけてやった。
「$$$$$$$$$$!」多分叫び声をあげて、火の精が落ちていく。
「くふふ、戻ってきたよ。」ミロクが嬉しそうに言う。
「俺には罪悪感しかないんだが。」
「くふふ、ファイアージャイアントと同じで、また復活するよ。」ミロクが慰めのように言って来る。
「そうだったらいいなぁ。」俺は火の精が落ちて言った火口を見ながら呟く。
よく見ると、火口付近には何人も火の精がいた。
「ありゃ、あんなにいるのに、何でピンポイントで近づいてきたんだろう?」
「私の神気に引かれたんだろうね。」
「そうか。」俺はそう言うと踵を返した。
「転移!」俺は空間魔法を使って王都の家に飛んだ。
「はぁ、もう何も言わないよ。」ミロクが俺をジト目で見る。
「出来るんだから仕方ないじゃないか。」俺はそう言いながら家のドアを開けた。
「何だこりゃ?」俺は食堂のテーブルの上を見て固まる。
「つい面白くて、皆我も我もと作り始めて。」カロリーヌさんが舌を出して言い訳する。
そこには、おそらく圧力鍋で作ったであろう、料理がずらっと並んでいた。
「食べきれるんでしょうね?」俺は全員を見回しながら言う。
料理長以下、全員が目をそらした。
「はぁ。」俺は溜め息をつきながら、子供たちが好きそうな物をミロクに渡していく。
シチュー、角煮、照り焼き肉、カレー迄ある。
「今度孤児院で振舞おう。」俺はそう思った。
残った料理?
食べたよ、皆で飲みながら。




