圧力鍋
ガキーンから圧力鍋の試作品が出来たと連絡を貰ったので、俺は鍛冶の町に来た。
「邪魔するぜぃ。」俺はガキーンの店に入って言った。
「おぉ、よく来たなムサシ、出来てるぜ。」ガキーンがにこやかに言う。
「どれ?」俺はその鍋を見る。
「おぉ、実物は知らないが、それっぽいな。」俺はその鍋を見て言う。
「圧力が良くわからなかったが、普通に作ったら鍋が破裂した。」ガキーンが言う。
「おぉ、怖いな。」
「だから、水が沸騰したら湯気が出るが、それをため込めば中の空気が膨張すると思ってな。」
「ほぉ。」
「メーターを作って取り付けたら、4気圧を超えたら破裂することが分かった。」
「ふむ。」
「で、2気圧を超えたら圧力が抜けるように、弁を工夫したのがこの鍋だ。」ガキーンが鍋を指さす。
「おぉ。」俺は感動する。
「ふたと鍋の間にはパッキンを入れて、圧力が抜けないようにしてあるぞ。」ガキーンは満足げに言う。
「パッキンは交換可能なのか?」
「勿論だ。」
「んじゃ、早速試しても良いか?」
「おぉ、幾つか作ってあるから、やってみてくれ。」ガキーンが言う。
「おぉ、で、どうやって使うんだ?」
「あぁ、その穴に魔石を入れて、スイッチを入れれば使える。 スイッチをもう一度押せば止まるからな。」
「成程。」
俺は、オークの筋肉をミロクから貰い、包丁でぶつ切りにしていく。
そして、圧力鍋にオーク肉、生姜の薄切り半個分、水500cc、醤油大匙5、酒大匙4、砂糖大匙3を入れてふたをしてスイッチを入れた。
「更に。」俺は鰯をミロクから貰い鱗を包丁で丁寧にはがし、頭と内臓を手で取って、水で洗って圧力鍋に入れた。
鰯を10匹入れたら鍋が一杯になったので水300cc、生姜薄切り半個分、醤油大匙5、酒大匙5、砂糖大匙3,酢を大匙2入れて、ふたをしてスイッチを入れた。
暫くすると、両方の鍋から蒸気が出始めた。
20分ほど煮込んだらスイッチを切って圧力が下がるのを待つ。
完全に圧力が下がったのを確認して、俺はふたを開けた。
辺りに醤油の良い匂いが広がる。
「どれ?」俺はオークの筋肉をふうふうしながら口に入れる。
「おぉ、これは美味い。」
そして、鰯の方も箸で身を切ってふうふうして口に入れた。
「おぉ、骨まで食える。」俺はガッツポーズをする。
「どうだ?」ガキーンが聞いて来る。
「多分完璧だ!」俺はにこやかに言う。
「おぉ、そうか。」ガキーンは嬉しそうに言う。
「くふふ、食べさせろ。」ミロクが言って来たので、筋煮込みを箸でミロクの口元に持っていく。
「熱いぞ。」俺が警告するが、
「パクリ。」ミロクはそれを無視して口に入れる。
「あふ、あふ、あふい。」ミロクがあふあふする。
「言わんこっちゃない。」
「ムサシ、今肉が消えたよな。」ガキーンが言って来る。
「あれ? 見せたことなかったっけ?」俺はそう言いながら手をガキーンの前に差し出す。
「なんだ?」
「手を握って見。」俺は言う。
「?」ガキーンは疑問を持ちながら俺の手を握る。
「あふい、でもうみゃい!」ミロクが叫ぶ。
「み、ミロク神様?」ガキーンが後ずさって首を垂れる。
「楽にして良い。」ミロクは筋肉を飲み込んでガキーンに言う。
「凄く残念な物を見せたな。」俺はガキーンに言う。
「そうだった、ムサシは神の身代わりだったな。」ガキーン何かを納得しながら言う。
「ほれ、鰯の煮つけだ。」俺は箸で鰯の煮つけをミロクの口に持っていく。
「パクリ。」
「あぁ、骨まで柔らかいねぇ。」ミロクは嬉しそうに言う。
「さぁ、ガキーンも食おうぜ。」俺はミロクからウイスキーを貰ってそこに置きながら言う。
「おぉ、さっきから良い匂いがしやがるから腹が鳴っていたぜ。」ガキーンはウイスキーをラッパ飲みすると、筋肉の煮込みを口に入れる。
「がははは、酒に合うじゃないか。」そう言いながらまたウイスキーを煽る。
「鰯は酒が良いかな?」俺はミロクから酒の瓶を貰って手酌で飲む。
「うん? 其れも酒か?」ガキーンが俺の手元を見て言う。
「あぁ、だが酒精が弱いから、ガキーンには水と同じだと思うぞ。」俺はそう言いながらコップを用意して其れに酒を注いでガキーンに渡す。
「どれ?」ガキーンはそれを口にする。
「う~む、確かに酒精は弱いが、これはこれで料理に合うな。」
「そうか、まぁ飲め。」俺はガキーンのコップに酒を注ぐ。
「がははは、こっちの魚の煮つけにはこっちの酒の方が合うな。」ガキーンは鰯の煮つけを食べ、酒を飲みながら言う。
「おぉ、流石はガキーンだ、料理と酒の相性が解るんだな。」
「がははは、まぁ任せろ。」そう言いながらガキーンは酒を飲む。
酒宴は1時間ほど続いた。
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「で、これは幾らだ?」俺はガキーンに聞く。
「鉄を肉厚にした鍋だからなぁ、技術料を入れても一個1Gかなぁ?」
「マジか、俺はこれを国王に寄進するから、貴族どもが買いに来ると思うぞ。」
「そうなのか?」
「あぁ、俺には1Gで売ってほしいが、貴族連中には5G、いや10Gで良いんじゃないか?」
「がははは、ムサシ、お前も悪い奴だな。」ガキーンが俺の肩を叩く。
「ははは、何の事やら。」
結局、俺は試作品の10個を一個1Gで手に入れた。
さて、人魚の所にはどうした物か。
実際、鰯を骨ごと食べるのは、2時間ぐらい弱火で煮込めば食べられるようになる。
圧力鍋を渡して良い物だろうか。
「うん、実際に見せて判断して貰えばいいか。」俺はそう思って海辺の町に行った。
「また並んでいるな。」俺は海辺の町の入門する列を見て言う。
「くふふ、絶対君が原因だよ。」
「そうなのかなぁ。」俺は溜め息をつきながら列に並んだ。
数十分後。俺は門を潜った。
「何でも、人魚たちが新しい料理を作ったとかで、それが貴族たちに大受けらしい。」門番が言う。
「そうか、ありがとう。」俺はその門番にお礼を言って門を潜る。
「俺かぁ。」俺はその場でへたり込む。
「くふふ、ファイト!」ミロクが言う。
「はぁ。」俺は人魚たちの店に行く。
「おや。お兄さん、また来てくれたのかい?」魚担当の人魚が声を掛けてくる。
「あぁ、鰯の食い方だったよな。」俺は言う。
「あぁ、覚えていたのかい? 忘れていたかと思ったよ。」その人魚が言う。
「ははは、そうか。」俺は其の店に入る。
「鰯の食い方だが、結構多いんだ。」俺は言う。
「全部教えてくれ、全部売るから。」人魚が言う。
「んじゃ、今回はつみれ汁と骨まで食べられる煮つけにしよう。」
「それだけかい?」
「幾つも覚えられないだろう。」
「其れもそうか。」
「まず、いつもはどうやって食っているんだ?」
「頭から丸かじりだよ。」
「ははは、それで旨いのか?」
「食べられるよ。」
「ふ~ん、鰯をくれ。」
「あいよ。」
「あぁ。」俺は其の鰯の鱗を剥ぐ。
そして、手開きして頭と内臓と背骨を取ったら水で洗い、そのまま皮も剥いだ。
「包丁で、腹骨を切って」俺は其れを実行する。
「醤油に漬けて、ほれ。」俺はミロクの口元にそれを持っていく。
「パクリ。」
「うわぁ、生臭くなくて美味しいよ。」
「良かったな。」俺はそう言いながら人魚の口にも醤油をつけた鰯を差し出す。
「ほれ。」
「パクリ。」
「ふわぁ、余計なものを落とすとこんなに美味しくなるのかい?」
「これは刺身だ。」
「あれ。さっきの説明に無かったような。」
「サービスだ。」
「まずつみれ汁だ。」俺は刺身と同じように、鰯の鱗を剥ぎ手開きで処理して身だけにしていく。
俺は鰯を3匹分身の状態にして、包丁で身をたたき始める。
「ある程度身が細かくなったら、味噌、しょうが汁、小麦粉を大匙1混ぜて更に叩いていく。」
「ふむふむ。」
「粘りが出てきたら、600ccの水を鍋に沸かして俺特製出汁袋を入れ、鰯をスプーンですくって団子にしてお湯に入れる。」
「ほう。」
「灰汁が出てきたら弱火にして、灰汁をすくう。」
「ふうん。」
「短冊切りにした、大根と人参を入れて10分ぐらい煮る。」
「うんうん。」
「10分立ったら、葱を入れて大匙3の味噌を溶かし入れる。」
「おう。」
「で、1~2分煮れば完成だ。」
「おぉ、意外と簡単だった。」
「これは、アサリの味噌汁の代わりにすればいいと思うぞ。」
「成程。」
「で、ほれ。」俺はつみれを箸で摘まんでミロクの口に持っていく。
「パクリ。」
「あぁ、温まるねぇ。」
「あたいも食べて良いかぃ?」
「あぁ、勿論だ。」俺はお椀によそって人魚に渡す。
「どれ?」人魚がつみれを口に入れる。
「おぉ、これは美味い。」
「そうだろう。」
「で、次は煮つけだな。」
「あぁ、楽しみだ。」
「処理はこうだ。」俺は鰯の鱗を包丁で剥ぎ、手開きで頭と内臓を取って水で洗って布巾で水気を取った。
「あぁ、さっきの手順の途中までだね。」
「そうだ。」
「そして、10匹ぐらいで一回見本をやるぞ。」
「あいよ。」
俺は、捌いた鰯を鍋に並べて、 鰯を10匹入れたら鍋が一杯になったので水300cc、生姜薄切り半個分、醤油大匙5、酒大匙5、砂糖大匙3,酢を大匙2入れて煮始める。
「沸騰したら、とろ火で2時間以上煮る。」
「そんなに?」
「あぁ、今回は俺の魔法で2時間進める。」俺は時魔法で2時間進めた。
「さぁ、出来た。」俺は其れを人魚の前に出す。
「味見しても良いかい?」
「勿論だ。」
「どれ?」人魚が鰯を摘まんで口に入れる。
「おぉ、骨まで柔らかい。」人魚が咀嚼しながら言う。
「2時間煮込んでも良いが、これを使えば30分で出来るぞ。」俺はガキーンから買った圧力鍋をミロクから貰って言う。
「ははは、2時間煮込めば良いんだろう、だったらそんなものいらないよ。」人魚が笑いながら言う。
「あたいらは、気が長いからね。」
「あれぇ?」俺はすごすごと圧力鍋を仕舞った。




