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国王に魚を献上

「さて、アルゴンに海鮮を差し入れるか。」俺はそう思いながら王城に向かった。



「アルゴンに面会したい。」俺は門番に告げる。

「はひぃ、お待ちください。」その門番が城に走って行く。

「ムサシ様、どうぞお通り下さい。」別の門番が俺に言う。

「良いのか?」


「国王陛下からムサシ様の来訪は無許可で大丈夫だとお触れが出ています。」

「あぁ、んじゃ遠慮なく。」俺は門を潜る。



「おぉ、アルゴン、久しいな。」謁見室に入って俺は言う。

「はぁ、勿体無いお言葉。」アルゴンがひれ伏す。

「アルゴン、それは何だ?」俺が言う。


「はっ、失礼しました、久し振りだなムサシ。」

「あぁ、其れで良いよ。」


「で、今日は何だ?」アルゴンが俺に言う。


「海辺の町に行って来たから、海産物のおすそ分けに来た。」俺が言う。

「海産物ですか?」アルゴンが俺に言う。


「あぁ。」

「どのような?」アルゴンが聞いて来る。

「あぁ、普通の魚で悪いが、鯵のたたきとなめろうだ。」俺はそう言いながらそれをそこに出す。


「なぁ、生の魚の料理ですか?」アルゴンが俺に言う。

「あぁ、庶民の魚で申し訳ないが。」


「魚を生で食べられるのですか?」アルゴンが言う。

「海の魚なら、大丈夫だぞ。」俺は答える。


「なんと、初めて聞きました。」アルゴンが言う。

「え? そうなの?」俺は横にいたカリナ様に聞く。


「はいムサシ様、私たち王族でも生の魚は食べた事が有りません。」

「え~っと、海辺の町の領主から献上品は無いのですか?」俺は聞く。


「献上品は有りますが、すべて火を通しております。」宰相が答える。

「なんで?」


「王城に来るまで日数がかかりますから、運ばれてくるのは干物か、塩漬けです。」宰相が言う。

「時間が停止したマジックバックを持った者を送れば良いでしょう?」俺が言う。


「費用対効果があまりにも。」宰相が首を横に振りながら言う。

「あ~、そう言う事か、んじゃ初めて食べるんだな。」俺はいそいそと用意を始める。


「なめろうにはご飯、たたきは酒だな。」俺は地魔法で机を作り、その上に御飯やみそ汁なんかを用意する。


「ムサシ、いつもながら見事だが、ここに机はいらぬぞ。」アルゴンが言って来る。

「いつも通り、終わったら消す。」

「なら良いか。」

「良いのかよ。」俺は突っ込む。

「ムサシだからな。」アルゴンが良い顔で言う。

「ほほほ、ムサシ様ですから。」セレン様も言う。

「ムサシ様ですから。」カリナも続く。

「ははは、流石はムサシだ。」レニウムが白い歯を光らせながら言う。


「はぁ、考えたら負けだ。」俺はそう言いながら用意を進める。

 

「後は皆の前になめろうとたたきを置いて、あ~アワビの刺身とステーキも出すか。」俺はそれぞれを取り出す。

「最後にアサリの酒蒸しを追加っと。」俺は全てを用意する。


「あぁ、箸が無かった。」俺は地魔法で箸を人数分作り、テーブルに置く。

「後座る所もだな。」俺は人数分の椅子も作る。


「さぁ、食べてみてくれ。」俺はアルゴンたちに言う。


「どれ?」アルゴンが椅子に座り、箸を手に取る。

「あぁ、たたきは醤油を少し垂らして食べてくれ。」俺は醤油をミロクから貰ってそこに置く。


「では。」アルゴンはなめろうをご飯に乗せ、ご飯とともに口に入れる。

「おぉ、これは美味い。」同じ行為を何度も繰り返す。


 他の3人もアルゴンと同じように食べ始める。


「あぁ、忘れていた。」俺はコップを作って全員の前に置く。

 そして、ミロクから酒を貰ってコップに注いでいく。


「たたきは酒と言っていましたな。」アルゴンがたたきに醤油をたらし、口に入れる。

「此れも美味い。」そう言ってコップの酒をちびりと飲む。

「くはぁ、たまりませんな。」


「酒蒸しと言うのもおいしいですね。」カリナ様が口をもぐもぐさせながら言う。

「スープも美味しいですよ。」

「まぁ、そうなのですか?」そう言って傍にいた侍女からスプーンを貰いスープを口に入れる。

「ふわぁ。」そう叫ぶと、何度もスプーンでスープを口に入れる。


「気に入りましたか?」俺は聞く。

「ひゃい!」


「料理長に材料とレシピを渡しておきますね。」俺はにっこりとほほ笑みながら言う。


「ムサシ様、酷い飯テロですなぁ。」宰相が言う。

「すまない、分量が王族の分しかなかった。」


「そうだ、料理長の所に行って来る。」俺はそう言って謁見室を後にした。


*********


「アワビ10個にサザエ15個ですか?」料理長が驚愕する。

「今日、人魚たちから買ってきたから新鮮だぞ。」


「あと、アサリとシジミも500gづつ置いていく。」俺は其処にアサリとシジミを出す。

「おぉ、私が持ちます。」料理長は時間停止のマジックバックを持っているんだなと俺は思い聞いてみる。

「料理長は時間が停止するマジックバックを持っているんだな?」

「はい、必要だろうと国王様からお預かりしております。」料理長が言う。


「ちょっと待ってください、ムサシ様。」料理長が何かに気付く。

「ムサシ様は、今日人魚から買ってきたと言われましたが?」

「あぁ。」


「人魚のいる町は王国から馬車で4日はかかる距離ですが?」料理長が言う。

「あぁ、今日王国から行って、そのまま帰ってきた。」俺は答える。

「どうやってですか?」


「あぁ、走った。」

「何と?」料理長が固まる。


「あれ? どうしました料理長?」俺は料理長の目の前で手をひらひらさせながら言う。


「はっ! 失礼いたしました、流石は神の身代わり様です。」料理長が平伏する。

「良いから立って、手を洗って聞いてください。」俺は料理長を立たせて言う。


「はい。」料理長が直立する。

「今からレシピを教えますから、カリナ様に食べさせてあげて下さい。」俺は自分の分からサザエ2個、アワビ2個、アサリとシジミを100g取り出して、料理を始める。


 料理長は熱心にメモを取りながら、俺のしていることを見ている。


「よし、出来た、味を見て下さい。」俺は料理長に言う。

「はい、解りました。」


 実際には、そこにいた料理人たち全員が注目していたので、王城では普通に作れるだろう。

 新鮮な材料が有れば。


「くふふ、可愛そうに。」ミロクが言う。


「時間が止まるマジックバックを持って、人魚のいる町まで買い付けに行けば良い事だろう?」俺は冷たく言う。

「くふふ。」


 その後、カロリーヌさんたちや、リーンさんに海鮮を振舞ってその日は終わった。

 リーンは初めて生の魚を食べたと感動していた。


*********


 3日後、俺はまた人魚の町にやってきた。

「くふふ、嵌ったね。」


「俺じゃないけどな。」

 国王たちに海鮮を振舞った次の日、カリナ様が王都の俺の家にやってきて、他の海鮮料理も食べたいと泣きつかれた。


「くふふ、それに答える君は優しいねぇ。」

「何時間も纏わりつかれたら、流石に鬱陶しいからな。」

「くふふ。」


「それは良いけど、入場に時間がかかっているな。」

「くふふ、そうだねぇ。」


「よく見たら、貴族の馬車がずいぶん並んでいるな。」俺は列を見て思う。

 

 数十分並んで、やっと俺の順番になった。


「随分混んでいるな?」俺は門番に言う。

「あぁ、人魚たちが料理を作って売り始めたみたいで、其れ目当ての人間が増えているんだよ。」門番が言う。


「へぇ?」

「新しく店を作って、なめろう定食とか、アワビステーキ定食とかを売り出したっていう話でさ。」

「はぁ?」


「貴族連中が、それを地元で食べる事がステータスだとかなんとか。」門番はやれやれっていう顔で言う。


「くふふ、君のせいだね。」


「俺のせいか?」

「くふふ。」


 町に入ると、ずいぶん盛況だった。

「祭りでもやっているのか?」俺は傍にいた男に聞く。

「いや、昨日からこの状態さ、貴族様が金を落として行くから目敏い店は屋台を出して儲けているみたいだ。」

「そうか、ありがとうな。」

「良いって事よ。」


「人魚たちの店に行っても待たされるのかな?」

「さぁ。」


*********


「店が増えているな。」

「くふふ、そうだね。」


「貴族の馬車がずいぶんいるな。」

「くふふ、そうだね。」


俺は前に行った店に近づく。

「あっ、おにいさーん!」俺に気付いた人魚が俺を呼ぶ。

 俺はその声にこたえてその店に近づいた。


「あぁ、盛況だな。」俺は人魚に言う。

「あの後来た商人になめろうを食べさせたら、あたしらに食堂を経営しないかって言ってきてさ。」一人の人魚が言う

「商人が店を作ってくれて、そこであんたに教えて貰った、なめろうや鯵のたたき、アサリの酒蒸しやみそ汁を提供したら大当たり。」別の人魚が言う。

「あんたに感謝するぜ。」さらに別の人魚が言う。


「あぁ、それは良かったな。」俺は答える。


「で、今日は何だい?」人魚が聞いて来る。

「今日は何が買えるんだ?」


「あぁ、今日は鯖と鰯だけだね。」人魚が言う。

「鯵は?」

「ごめんねぇ、店に出す分で精いっぱいだよ。」人魚が答える。


「あぁ、そうか、んじゃ鯖と鰯を全部。」俺は言う。

「え? 結構な量があるよ。」

「全部。」


「全部で2Gと600Bだけど。」人魚が言う。

「あぁ、ここに置くぞ。」俺は料金分のBが入った袋を置く。


「ありがとうねえ。」人魚はBを数えて俺に言う。


「くふふ、別の料理になるとは思ってないのかな。」

「知らない。」



 俺は貝を売っている店に行く。


「おや、お兄さん、おかげさまで儲かっているよ。」人魚が言って来る。

「良かったな、で、今日は何が買える?」俺は聞く。


「今日はお兄さんが言っていた、海老が入っているよ。」人魚が言う。

「ほう。」


「ほら、これだよ。」人魚がそれを出して来る。


「おぉ、車海老に、牡丹海老、甘海老もあるじゃないか、幾らだ?」俺は聞く。

「海老は人気がないからねぇ、これ全部で1Gで良いよ。」人魚が言う。

「マジ?」


「あぁ、其れで良いよ。」

「全部買う。」俺はそう言って1G分のBが入った袋を取り出す。

 ミロクがそれを全部持ってくれた。


「あぁ、其れから、店を始めたから組合の端末も使えるからね。」その人魚が言う。

「おぉ、それは僥倖。」


「因みに聞きたいんだけど、そんなじゃりじゃりした物をどうするの?」人魚が聞いて来る。

「じゃりじゃり?」


「あぁ、そのまま食べてもじゃりじゃりして美味しくない。」人魚が言う。

「殻は剥かないのか?」俺は聞く。


「殻って何?」人魚が聞いて来る。


「くふふ、教えたら次からこの値段で買えなくなるかもね。」

「まぁ、良いか。」


 俺は今買った甘海老をミロクから貰い、その場で殻を剥く。

「食べてみ。」俺は殻を剥いた甘海老を人魚の口元に差し出す。

「え?」

「良いから、食べてみろ。」俺は言う。

「パクリ。」人魚が甘海老を食べる。

「ふわぁ。」人魚が驚愕する。


「で、頭を吸うんだ。」俺は人魚の前に甘海老の頭を差し出す。

「吸う?」

「あぁ、くわえて吸え。」俺が言う。


 人魚が甘海老の頭をくわえて吸う。

「ずびゅ。」

「ふわぁ。」


「それが甘海老のみそだ。」俺が言う。


「海老ってこうやって食べるのか。」人魚が叫ぶ。

「常識だぞ。」俺が言う。


「もしかして、他の海老も?」

「牡丹海老はそうかもな、だが車海老は違うぞ。」俺はニマニマしながら言う。


「教えてくれ。」その人魚が俺の手を掴む。

「対価次第だな。」俺は言う。

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