人魚と取引
「鑑定!」俺はその腕輪を鑑定する。
「腕輪、効果無し、オークの骨の粉の効果で防御+1」
「あ~、神気を食ったオークの骨で作った腕輪ですね。」俺は言う。
「はぁ?」その人魚が答える。
「ふむ。」俺はミロクからオーガの魔石を貰う。
「これをこうして。」俺は料理人のスキルを使い魔石を変化させる。
魔石が腕輪の形状に代わっていく。
「ふわぁ、凄い。」人魚の一人が言う。
「こんなもんか。」俺は其れを手にして言う。
オーガの腕輪、威圧無効、物理防御+2、魔法防御+1の腕輪がそこにあった。
「これで良いですか?」俺はその腕輪を渡して言う。
「ふわぁぁ、凄く良いのは解ります、喜んで交換します。」その人魚は腕輪を渡して来る。
「ミロク。」
「くふふ、戻ってきたよ。」
「良かったな。」
「くふふ。」
「あぁ、鯵の代金を払わないとな、一匹幾らだ?」
「一匹20Bだけど、この腕輪をくれたから今回はサービスするよ。」
「そうか、悪いな。」
「んじゃ、帰るか。」俺は店を出ようとする。
「待って。」人魚の一人に腕を掴まれる。
「何だよ?」俺は振り返って言う。
「鯵以外の魚でも、いろんな料理法が有るんでしょう?」一人の人魚が聞いて来る。
「あぁ、俺が知っているだけでも、数十種類の魚で数十種類以上の料理がある。」俺は答える。
「其れを教えてくれないかい?」その人魚が言う。
「それは良いけど、対価は何だ?」俺は言う。
「魚と貝の無償提供。」人魚が答える。
「あのさぁ、俺は自分で獲れるぞ。」俺が言う。
「なぁ?」人魚が狼狽える。
「この町では駄目かもしれないが、近くの海に行って普通に収穫可能だ。」俺は言う。
「そんな。」人魚ががっかりする。
「そう言えば、ここの店には貝は無いのか?」俺はその人魚に聞く。
「担当が決まっているから無いよ、貝は隣の店が担当だ。」人魚が言う。
「そうか、では隣の店に行ってみるよ。」俺はそう言って隣の店に入る。
「おや、うちにも来てくれたのかい。」その店の人魚が言う。
「あぁ、貝はこっちだって言われたからな。」俺は答える。
「あぁ、見て言っておくれ。」人魚が言う。
「おぉ、サザエにアワビ、アサリにシジミ迄あるのか?」俺は興奮しながら言う。
「あぁ、あたいが獲ってきた。」人魚が言う。
「サザエは一個幾らだ?」俺は聞く。
「サザエは30Bだ、アワビは一個60B、アサリは100gが30B、シジミは同じく100gが30Bだ。」その人魚が言う。
「幾つある?」俺はわくわくしながら聞く。
「サザエは30個、アワビは20個、アサリとシジミはそれぞれ1Kgだ。」人魚が答える。
「全部買う。」俺は言う。
「え?」人魚が呆ける。
「どうした?」
「全部で21Gと600Bになるよ、払えるのかい?」人魚が言う。
「組合のカードは使えないんだな。」俺は言う。
「あたしらは機械が苦手でね。」人魚が答える。
「ちゃんと現金で払うよ。」俺は言う。
「これで良いか?」俺は料金分のビットコインが入った袋をそこに出す。
「どれ?」人魚がコインを数え始める。」
「物は貰うぞ。」俺はそう言ってそこにあったものをミロクに持ってもらう。
「あれ? 食べないのかい?」魚の店の人魚がやってきて言う。
「ん? どうしたんだこっちに来るなんて?」貝屋の人魚が言う。
「さっきは、鯵を料理したじゃないか、貝はしないのかい?」
「あぁ、お前たちは貝をどうやって食べるんだ?」
「そのまま殻をむいてパクっと。」
「あ~、そうだよな。」
「因みにどんな食べ方が有るんだい?」人魚が言う。
「そうだなぁ、サザエは刺身やつぼ焼きだな。」俺は答える。
「つぼ焼き?」人魚が繰り返す。
「アワビも刺身か後は煮たり焼いたりだな。」
「煮たり焼いたり?」口から涎を出しながら人魚が言う。
「アサリは味噌汁か酒蒸し、アサリご飯も良いな。」
「酒蒸し?」一人の人魚が食いつく。
「ねぇ、あんた、今から潜って獲ってくるから、その料理を作ってくれないかい?」人魚の一人が言う。
「あぁ、ちゃんと料金は払うから。」別の人魚も言う。
「少しだけ待ってて。」そう言いながら人魚たちが海に潜っていく。
「俺の意志は?」
「くふふ、作ってやれば良いじゃないか。」
「自分が食いたいだけだろう。」俺はそう言いながらも、そこに地魔法で竈を作っていく。
「そして、一つの竈で湯を沸かし始めた。
「獲ってきたよ。」人魚たちが帰ってきた。
「ははは、サザエが15個、アワビが6個、アサリは幾つあるのやら。」俺は少し引きながら言う。
「んじゃ、今から言う事をやってくれ。」俺は人魚たちに言う。
「あいよ。」
「何をするんだい?」
「まず、サザエの殻をタワシで洗って汚れを落としてくれ。」
「あいよ、」
「洗ったよ。」人魚がサザエを渡して来る。
「んじゃ、2種類のサザエのつぼ焼きを作る。」俺はそう言って7個のサザエを沸かしていたお湯に入れる。
「え? 煮るの?」人魚の一人が言う。
「あぁ、身をはがしやすくするんだ。」そう言いながら、残ったサザエを竈の上の網にのせ、酒を注いでいく。
「酒がじゅわじゅわ言って来たら、一回捨てる。」俺はサザエを厚手の手袋をした手で持って中の酒を海に流す。
「で、もう一回網にのせて酒を入れる。」
「おぉ、手がかかるんだな。」
そう言っていたら、鍋のサザエが沸騰した。
「これは、水魔法で冷やしてサザエを取り出す。」俺は其れを実行した。
「で、蓋を外して身を取り出し、一口大に切り分けて殻に戻す。」
「成程。」
「で、これに醤油と酒を入れて網にのせる。」
「おぉ、美味そうだ。」人魚が涎をたらす。
「さっきのサザエがまたじゅわじゅわしてきたかから、もう一度酒を捨てる。」俺は其れをやる。
「で、これに醤油と酒を入れて網の上にのせる。」
「おぉ、凄い。」
「つぼ焼きはこれで置いておいて。」
「あいよ。」
{次だ。}
「あいよ。」
「アサリは砂抜きをするから、海水をこれに汲んでくれ。」
「砂抜き?」
「砂抜きって何だい?」
「アサリは砂を噛んでいるだろう、それを食べたらじゃりじゃりして美味しくないじゃないか。」
「え? そう言うもんだと思っていたよ。」
「汲んだよ。」人魚がそれを渡してくれる。
「これに網を入れて、吐いた砂を吸わないようにして。」俺は其れを実行する。
海水の入ったバッドに網を入れアサリをのせて蓋をして暗くする。
「本当は3時間ぐらい放置するんだけどな。」俺はそう言いながらクイックの魔法を使って時間を進めた。
「砂が抜けたら、アサリの殻をこすり合わせるように洗って。」俺は其れをやる。
「ほぉ。」
「鍋に入れて、ひたひたになるように酒を入れる。」俺は其れを実行する。
「そして、火をつける。」
「今気が付いたけど、何でここに竈が有るんだい?」
「あぁ、俺が作った、終わったら消すから心配するな。
「で、沸騰してアサリが開いたら俺特製出汁袋を入れて水を適量入れる。」
「出汁袋?」
「あぁ、昆布や鰹節を入れれば良いと思うぞ。」俺は言う。
「味付けはしないのかい?」人魚が聞いて来る。
「アサリから塩気が出るから要らないんじゃないか?」俺は答える。
「そうなのかい?」
「アワビも殻をタワシで洗う。」
「あいよ。」
「さて、何を作る?」
「刺身。」
「焼いたの。」人魚が口に出す。
「あぁ、んじゃアワビの刺身と、ステーキな。」俺は答える。
「ステーキ?」
「あぁ、美味いぞ。」俺はそう言いながらアワビを処理し始める。
「まず、塩を腹に振りかけてぬめりを取る。」俺はアワビの腹に塩を振りかけて手でごしごしと揉み込む。
「何やっているの?」
「あぁアワビを掃除しているんだ。」
「掃除?」
「ぬめりを落とすんだ。」
「へぇ。」
「掃除が終わったらスプーンで貝柱を剥がす。」俺は其れをやる。
「おぉ。」
「剥がしたら裏側にも塩をかけてタワシで洗う。」俺は其れをやる。
「で、刺身だ。」俺はアワビの身に隠し包丁を入れる。
そして、口を切る。
その後その身を薄く切っていく。
3個分を処理して肝醤油を作る。
「アワビの肝を良く叩いて醤油に入れる。」肝醤油の完成だ。
「残ったアワビは口を切り落とし、包丁で隠し包丁を入れてフライパンに入れ、バターを入れて焼く。」
「おぉぉ、美味そうだ。」人魚が言う。
「美味そう? 違うぞ美味いんだ!」俺が言う。
「焼けきたら白ワインを入れてアルコールを飛ばし、醤油で味付けする。」
「そして切り分けて完成だ。」俺は其れを実行する。
「ううう、美味そうだ!」貝担当の人魚が言う。
「そうだろう、この人はあたいらがそのまま食っていた鯵も料理したんだ。」
「何だと、取り込めよ。」
「断られた。」
「何でだよ。」
「対価に魚や貝を出したけど、自分で獲れるってさ。
「なんで?」
「あぁ、つぼ焼きが良い具合だぞ。」俺が言う。
「え?」
「まず、そのまま焼いたやつな。」俺はそのまま焼いたやつを手に取り、箸を刺してくるくると身を取り出す。
「肝が上手いんだよな。」俺はそう言いながらミロクの前に取り出した身を持っていく。
「くふふ、解っているじゃないか。」ミロクがそう言いながらサザエを口にする。
「くふふ、苦美味い!」
「え? 今どこに?」人魚が言う。
「あの人は神の身代わりなんだってさ、傍にミロク神がいて食べてるそうだ。」ミロク神を見た人魚が説明する。
「ミロク神?」
「あぁ、あたいらは見た。」
「まじで?」
「次は茹でてから焼いたやつな。」俺はサザエの身を楊枝に刺してミロクの前に出す。
「パクリ。」ミロクが口に入れる。
「おぉ、こっちも美味しいね。」ミロクが言う。
「良かったな。」
「んで、アサリの酒蒸しだな。」俺はアサリを箸で摘まんでミロクの前に差し出す。
「パクリ。」ミロクがそれを口にする。
「うんうん、美味しいよ。」ミロクが言う。
「この酒蒸しは、スープが美味いんだ。」俺はそう言いながらアサリの酒蒸しのスープをスプーンですくってミロクの口の前に出す。
「くふふ。」ミロクは笑いながらスープを口にする。
「ふわぁ、美味しい。」ミロクが叫ぶ。
「で、アワビの刺身だな。」俺はアワビの身を箸で持ち肝醤油に漬けてミロクの口元に差し出す。
「パクリ。」ミロクがそれを口にする。
「ふわぁ!」ミロクが固まった。
「最後はステーキか。」俺はそう言いながらアワビのステーキを切り、ミロクの口の前に差し出す。
「パクリ。」
「うあぁ、至福!」ミロクが悶える。
「ねぇ、食べても良い?」人魚が言う。
「良いぞ。」
俺が答えると人魚たちが挙って食べ始める。
「つぼ焼き美味い!」
「酒蒸しマジ神!」
「アワビってこんなに美味かったのか!」人魚たちが興奮する。
「んじゃ、俺は帰るな、また仕入れに来るから宜しく。」俺はそう言いながら表に出ようとした。
「帰さないよ。」 人魚の一人が俺の手を持って言う。
「何だよ?」
「この料理を売っても良いかい?」人魚が言う。
「あぁ、さっき魚を売っている人魚にも言ったが、売り上げの5%をくれるなら良いぞ。」
「5%って?」
「あぁ、商品を100Bで売ったら5Bを俺の組合の口座に振り込むって事だ。」俺は言う。
「あぁ、その位なら良いぜ。」その人魚が言う。
「良し、商談成立だ。」俺は組合のカードを出して売買契約を開く。
「俺が教えた物を人魚たちが売った場合、売り上げの5%を俺の組合口座に振り込む。」俺は口頭でカードに登録する。
「同じ事を言ってくれ。」俺はカードを人魚の前に置く。
「人魚族はムサシが教えてくれた物を売った売り上げの5%をこの口座に振り込む。」代表の人魚が言う。
カードが光り、契約が完了する。
「良し、目的を達したから帰るわ。」俺はそう言いながら店を出ようとする。
「珍しい魚を仕入れておくからまた来ておくれ!」
「うちらも珍しい貝を仕入れておくよ。」
「出来たら海老や蟹が良いんだが。」俺は答える。
「任せておきな!」人魚たちがにこやかに答える。
「はぁ、2日毎に来ないと駄目な案件かな?」俺は考える。




