次の町へ
「あぁ、良い朝だ。」ベットから起き上がり、俺が言う。
「ねぇ、やっぱりあたしの扱い酷くない?」
「そうか? 普通だろ。」
「ぐぬぬ!」
「お客様~、朝ごはんの準備が出来てますよ~。」宿の娘がドアを叩く。
「あぁ、今行くよ。」俺は1階の食堂に向かった。
「はい、沢山食べてくださいね。」宿の娘が、俺の前に朝食を置く。
白パンと、スクランブルエック、カリカリに焼いたベーコン、そしてコーンスープだ。
「美味いなぁ。」俺は思わずスープをお代わりした。
「沢山食べてくださいね。」そう言いながら、俺の前にスープが置かれる。
「ありがとう。」
「いえ、いえ。」
「美味い。」俺が朝飯を堪能していると、俺の目の前に弁当が置かれる。
「今日で、此処から出ていくんですね?」宿の娘が悲しそうな顔をする。
「あぁ、だが、また戻って来るよ。」
「本当ですね?」
「あぁ。」宿の娘の顔がパァッと明るくなる。
「ずっと、待っています。」
「あぁ。」
ただの社交辞令だろうと思った俺は、食事を進める。
「朴念仁だね、君は。」ミロクが言うが、
「?」俺は良く判らなかった。
「はぁ、あの子が可哀そうだ。」
「何言ってるんだ?」
「いや、何でもないよ。」
腹ごしらえが済んだ俺は、早速南門に向かった。
南門の前は、商人の馬車が並んでいた。
「どこかの商隊について行けばいいと思うよ。」ミロクが言う。
「あぁ、そうだな。」俺はそう言うと、一番前の商人に声をかける。
「俺を雇わないか?」
「あぁ? お前をか?」その男は怪訝そうに俺を見て言う。
「あぁ、役に立つぞ。」
「身分も分からない奴は雇えんな。」
「あぁ、これを見てくれ。」
「な、組合のカード?」
「あぁ、俺は神の身代わりだ。」
「ほ、本当ですか?」
「偽ったら、重罪だろう。」
「なぁ、解りました、是非同行してください。」
「あぁ、宜しく、俺はムサシだ。」
「失礼いたしました、私は行商人の、ハコベと申します。」
「報酬は?」
「無事に、次の村まで付ければ2Gで。」
「まぁ、それで良いや。」
「すぐ出発しますので、宜しくお願い致します。」
「あぁ、了解。」
「くふふ、普通は5Gだよ。」
「あぁ、別に良い。」
「くふふ、謙虚だね。」
「ふん。」
俺達は南門を潜った。
護衛と言う事で、馬車の屋根に乗っている。
「暇だな。」
「そだね。」
「盗賊とかの襲撃があるのかね?」
「無いと思うよ。」
「なんで?」
「この街道は、商隊の往来が多いからね。」
「なら、何で護衛がいるんだ?」
「くふふ、答えが来たよ。」
「え?」
「ゴブリンだ!」御者が叫ぶ。
「あぁ、そう言う事か。」俺は馬車から飛び降りる。
「任せて良いんだろう?」
「くふふ、当然。」
馬車に向かって、四方から数十匹のゴブリンが駆けてくる。
ゴブリンは口々に何かを叫んでいる。
「言葉は解らないけれど、聞き捨てならない事を叫んでるんだよな。」
「うん、男は臓物を食べてその辺に捨てろ、女は、犯してから、臓物を食べて捨てろ。だってさ。」
「犯す意味が解らん。」
「本能だろうね。」
「ミロクさん、屠って(やって)ください。」
「え~、気持ち悪い言い方だよ。」そう言いながらミロクが手を祓う。
「「「「ぐぎゃぁあ」」」」一瞬で全てのゴブリンが屍になる。
「おぉ、流石です。」ハコベが言う。
「魔石を取っていたら、次の襲撃があるかもしれないので、先に進みましょう。」俺はハコベに言う。
「あぁ、それは良いが、君達の稼ぎになるんじゃないのかい?」
「貴方たちの安全が一番です。」
「おぉ。」
その後は、何事も無く次の村まで着いた。
「では、ここで護衛の任務は終わりと言う事で。」俺がハコベに言う。
「出来れば、この後も護衛を頼みたいのだが。」
「申し訳ありません、この村でやる事があるので。」
「おぉ、それは残念だ、だが、次に機会が有ったらぜひ護衛をお願いするよ。」
「はい、その時には喜んで。」
「これは、今回の報酬だ。」ハコベが小さな革袋を渡してくる。
「ありがとうございます。」俺はそれを受け取ると懐に入れる。
「おぉ、確認もしないのか?」
「えぇ、信じていますから。」
「なぁ、ますます気に入った、次は指名させてもらうよ。」
「はい、お待ちしております。」俺は深々とお辞儀する。
ハコベ達と別れた俺は、宿を探す。
「お兄さん、宿ですか?」プラプラ歩いていたら、女の子に声をかけられた。
「あぁ。」
「一泊、2食付き、お風呂完備、800Bですけど、どうですか?」
「弁当は?」
「プラス100Bで。」
「決めた。」
「にしし、ありがとうございます。」そう言いながら俺の手を引いて歩き始める。
「あたし、テトって言うの。」
「おぉ、俺はムサシだ。」
「うん、宜しくね、ムサシさん。」
「あぁ。」
しばらく歩くと、その宿にたどり着いた。
「此処です。」そう言いながらテトがドアを開けて入っていく。
俺はそれに続いた。
「お母さん、お客さん連れて来たよ。」テトが、カウンター越しに大声を出す。
「あらあら、いらっしゃいませ。」カウンターの奥から30代位の女性が出てくる。
「一泊2食と弁当で900B!」テトが元気よく言う。
「はい、承りました、こちらの宿帳にご記入してください。」女性が、そう言いながらノートを開いてカウンターに置く。
「ふむ。」俺は、そのノートに名前と職業を記入する。
名前、ムサシ、職業、神の身代わり。
「神の身代わり様なのですか?」女性が驚く。
「あぁ。」
「ふえ~、凄い人だったんだ。」テトが驚愕する。
「何だ、そんなに有名なのか?」俺が女性に聞く。
「伝説か、御伽噺にしか出てこない職業です。」
(300年ぶりだからねぇ。)ミロクの声が頭の中に聞こえる。
「そんな、伝説の職業の方をお泊めできるなんて、この宿に箔が付きます。」
「ははは、まぁ、使ってくれ。」
「失礼いたしました、この宿のおかみをしています、ニホと申します。」
「あぁ、俺は、「ムサシ様ですね、ようこそいらっしゃいませ。」ニホが深々と頭を下げる。
「あぁ、宜しく頼む。」
「で、この村にはどのような?」
「あぁ、この村の近くに、3頭ほど俺が狩る者がいるらしい。」
「あぁ、恐れ沼の主ですか?」
「そうだよ。」ミロクが俺の声で言う。
「おぉ、ありがたい、村の者が安全に漁が出来ます。」
「そんな者がいる沼で漁をしているのか?」
「はい、この村の名物のナマズが捕れますので。」
「ナマズ?」
「えぇ、毎年何人もの人間が、沼の主に喰われています。」
「あぁ、解った、明日はそれを狩ってくるよ。」
「おぉ、宜しくお願い申し上げます。」
「それでは、前金で900Bです。」ニホが言う。
「あぁ、俺はさっきハコベからもらった袋を出して、中からGを取り出す。」
(あれ? 2Gの約束なのに、6G入ってる。)
(くふふ、ゴブリンの魔石分じゃない?)
(そうかな?)
(くふふ、気に入られたみたいだね。)
俺は1Gを取り出すと、カウンターに置いた。
「はい、では、100Bのお釣りです。」そう言いながら100Bを返してくる。
「さぁ、お客様をお部屋にご案内して、これがカギだよ。」ニホがテトに部屋の鍵を渡しながら言う。
「にしし、解ったぁ。こっちだよ。」テトが俺の手を引く。
「あぁ。」俺はその後に続いた。
「このお部屋です、晩御飯の時は呼びに来るので寛いでね。」テトが俺に鍵を渡して言う。
「おぉ、テト、ありがとうな。」そう言いながら俺はテトの頭を撫でる。
「にしし、ありがとう。」テトが目を細める。
そう言いながらテトはドアから出て言った。
「沼の主か。」
「ただの大きいナマズだよ。」
「ナマズ?」
「うん、ナマズ。」
「楽勝?」
「うん、楽勝。」
「なんだ、緊張して損した。」
「くふふ、それよりも2体目がやばいかも。」
「え?2体目?」
「石化の目を持った魔物だよ。」
「え~。」
「くふふ、命知らずだね。」
「パス!」
「くふふ、却下だよ。」
「そんなのどうやって倒すんだよ?」
「くふふ、あたしに任せろ。」
「俺、その後で石になっていないよな?」
「さぁ?」
「んじゃ、行かない。」
「くふふ、選択権は無いよ。」
「まじかぁ」
「くふふ。」
「はぁ。」